日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。

彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。

これまで、互いを“最高の恋人”と称賛する仮面カップル、職業を盛って騙し合う港区男女、浮気をする彼氏に罠を仕掛ける女の話を紹介してきた。

前回、浮気男の晃と彼女である夏希、そして浮気相手の由紀3人の水面下での攻防を紹介した。

後編となる今回、彼らのかけひきは誰に軍配が上がるのだろうか。




彼女と浮気相手が友人になっているなんて


大手電機メーカーに勤める、晃(29)です。

僕は今、非常に危機的な状況に置かれています。

まさか彼女の夏希と浮気相手の由紀が、知らないところで友人になっていたなんて。

正直言うと…ここ数週間、僕は憎からず由紀を想うようになっていました。夏希と正反対だからこそ、惹かれてしまうところがたくさんあった。

しかし、2人にばれてしまうかもしれないと思った瞬間。長い時間を共にした夏希を失う恐怖の方が、やはり勝りました。

激しく揺れ動く感情の渦の中、僕は由紀との関係を終わらせることに決めました。


鉄板のフェードアウト・ワードは「家族の具合が悪い」


「家族の具合が悪くて実家に帰らなければいけない。だから今は会う余裕がない」

こんな風にうなだれる男を前に、責めることができる女性などいないですよね。

相手の良心につけこむ罪悪感はあるものの背に腹は代えられない、と僕はこの手法を使うことにしました。

週末の土曜日。

由紀とはFacebookでつながっているため、信憑性を持たせるために実際に埼玉の実家に帰り、その様子を投稿してからメッセージを送りました。

―今実家に帰ってきているんだけど…親父が病気なんだ。

由紀からは、すぐに返事が来ました。

―…そうなの?お父さんの具合は?

―入院することになったんだ。だからごめん、しばらくは実家にちょくちょく帰るから、会えないかもしれない。

―そんなこと気にしなくていいよ。お父さんのそばにいてあげて。

由紀の温かい言葉に、僕は心から安堵しました。嘘をついているという罪悪感を抱えていたから尚更。

しかし、その直後。夏希からメッセージが届きました。


夏希から届いたメッセージとは…?


8年つき合った2人の、最後の夜


「今から会える?話があるんだ」

女でなくたって、こんな時には男も直感が働くものですね。

僕らは、コンラッド東京の『トゥエンティエイト』で待ち合わせをしました。

ここは忙しくて一瞬しか会えない、でも一瞬だけでも会いたい平日がまだ2人の間に存在していた頃、よく通った場所でした。

夏希はオーダーを終えると、静かな口調で切り出しました。

「別れよう」

彼女の低い声にはすでに、強い決意が込められていました。

「…なんで?」

夏希にすがるように問いかける僕の声は、ひどくかすれていました。

「なんで?自分が一番よく分かってるでしょ?」

夏希の冷たく突き放すような声が、僕の鼓膜を引っ掻きました。

「…分かった」

おそらく全てを知っている夏希に、僕はこう答えるほかありませんでした。

うなだれる僕をじっと見つめた後、夏希は何も言わずに、シャンパンが来る前に帰っていきました。






―晃君、辛い気持ちになったらいつでも連絡してね。

ひとり夜景を眺めならしばらくぼうっとしていたところへ、由紀からのメッセージが届きました。

―会いたい。今、僕には由紀が必要だ。

僕は何も考えないままにメッセージを打ち、送信しました。

由紀からはすぐに折り返しの電話が来ました。

「もしもし晃君?大丈夫?」

急に冷たい孤独の闇に放り出された僕に、由紀の柔らかな声は一筋の暖かな光のように、じんわりと染みていきました。

「…明日、会えるかな」

僕は弱々しく問いかけました。

「うん!元気の出るご飯、作りに行くよ」

由紀の声が耳元で元気よく弾けるのを半ば他人事のように聞きながら、僕は笑顔を浮かべていました。



次の日。由紀は今、楽しそうに僕のキッチンで夕食を作ってくれています。

どうやら数品を並行しながら作っているようで、さすが料理好きと自負しているだけあるなと感心しています。

夏希は得意料理の一品以外、本当に料理ができなかったから。

「晃君の大好物を作ってるよ。楽しみにしててね」

キッチンのドアから由紀がひょこっと顔を出して告げたと同時に、肉じゃがのいい匂いが鼻腔をくすぐってきました。

僕が肉じゃが好きだって、由紀に話したことあったかな?

―でも、実はそこまで好きって訳じゃないんだよね。夏希はこれしか作れなかったから、大好物ってことになってたけど。

誰にも聞こえない声で微かにつぶやき、静かに笑いました。


略奪に成功した女・由紀


こんにちは、由紀(27)です。

渋谷の大手IT企業でwebディレクターをしています。

住まいは三軒茶屋。見た目は会社のイメージそのままに、キラキラ系だねとよく言われます(笑)

晃君との出会いは、お食事会でした。

普段、野心あふれるweb業界の男性ばかり見ている私にとって、揺るがない安定感と穏やかさを醸す晃君は、ひどく新鮮に映りました。

一目で晃君を気に入った私はすぐに彼をお食事に誘い、流されやすい彼の性格をうまく利用して、そのまま深い関係へと駒を進めました。


SNSを駆使した、由紀の恐ろしい策略とは。




Facebookとインスタを駆使して彼女を探す、執念


でも、程なくして勘づきました。彼女がいるって。

週末はいつも会えないし、連絡がつながりにくくなりますから。

だからあえて日曜の夜に次のお誘いメッセージを送って、彼女といる時に私の存在を思い出させたりしましたね。

あとはSNSで彼女を探し出して、メッセージを送りました。

まずはFacebookから探索。ITリテラシーの高くない晃君は友達も300人くらいなので、当たりはすぐにつけられました。

晃君とプロフィール写真の背景が一緒だったから、夏希さんのことはすぐに分かりました。出身大学や年齢を見て、彼女だと80%の確信を得ました。

その後Facebookの投稿からインスタをたどり、彼女の投稿と晃君が週末出かけたと言っていた場所が合致したのを確認して、100%確信しました。

あとはその彼女に、「趣味が合いますね、友達になりましょう」と何食わぬ顔でメッセージを送り、仲良くなるだけ。

ITリテラシーがある私からすれば、至極簡単なことです。


じわじわと夏希に浸食する、由紀


彼女に近づいた動機ですか?

1つ目は、晃君の情報を聞き出すこと。2つ目はもちろん、別れさせること。

何度かカフェ友として会ううちに、夏希さんは彼の相談をしてくれるようになりました。

「何か最近、行動が怪しいんだよね」

そんな時私はいつだって、親身に夏希さんの相談にのりました。

「男がグレーな時は、ほぼクロだと思う。私も元彼に同じことされたもの」

「私も今、好きな人がいるの。その人には彼女がいるけど、気が休まらないから結婚はしないって言ってて。夏希さんの彼氏も外でそんなこと言ってないといいね」

夏希さんの顔が曇っていくほど、私の心は晴れやかになっていきました。

…嫌な女ですよね、私。

でも目的のためなら、手段を選びません。そうでないと、このご時世欲しいものなんて手に入れられないと思っています。

晃君にも、夏希さんとの2ショットを見せて遠回しに脅しをかけておきました。これは賭けでしたけどね。


手に入れた、次期彼女の座


そうした地道な努力が功を奏したのか、初めて週末に「会いたい」と晃君に言われました。

Facebookにも帰省の投稿が上がっていましたけど、お父さんの具合が悪くて落ち込んでいたのでしょうね。

そんな時に彼女より優先して会いたいと言われたなら、勝利はもう見えています。

今、彼は目の前で、私の作ったご飯を美味しそうに食べています。

夏希さんに聞いたんですよ。彼の大好物は肉じゃがだって。

晃君、ずっと笑顔が顔に貼りついたまま心ここにあらずな様子なのは…きっと、ご家族のことが心配でたまらないからでしょうね。


夏希の、最後の復讐。


晃の元カノの、夏希です。

インスタからカフェ友になった由紀ちゃん。

途中から気づいていましたよ。晃にメッセージを寄越してきた「yuki」だって。

どう来るかな、としばらく泳がせておきましたが、途中から馬鹿らしくなってしまって。

必死にごまかし続ける晃にも、私を陥れようとする由紀にも。何もかもね。

あんな浅ましい女性と浮気する晃に、魅力を感じなくなってしまったんです。だから別れを告げた時には、自分でも驚くほどあっさりしていました。

私にはもっと、いい男がいる。

でもやられっぱなしは癪だから、最後に1つだけ復讐してあげました。

肉じゃがはね。私が唯一得意な料理で、晃が「今まで食べた中で1番美味しい」って本気で褒めてくれたもの。

別の誰かのものを食べる度に、ずっと思い出せばいいんだわ。


三つ巴の戦い…最後は誰が幸せをつかむのか?


彼女を失ったが次の女性が控える晃、浮気男を振った夏希、2人を別れさせた由紀。

貴方が思う、最後に幸せをつかんだのは一体誰?

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