今夏加入のシノヅカは日本人とロシア人のハーフ。日本で育ち、16歳でロシアに渡り、現地でプロ選手に。ロシアU-18代表にも選ばれた経歴を持つ期待のアタッカーだ。写真:徳原隆元

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[J1第27節]甲府3-2横浜/9月23日/中銀スタ
 
 後半アディショナルタイム6分のうち、5分が経過する頃だった。天野純が蹴った左サイドからのFKは甲府DFに当たり、ファーサイドにこぼれる。そこにいたのは、少し遅れ気味にエリア内へ入ってきた途中出場の背番号37だった。
 
 絶好の位置にこぼれてきたとはいえ、浮き球の難しいボールである。これに対してイッペイ・シノヅカは右足インサイドでのシュートを選択。瞬時の判断だったが、「とにかく枠に入れることを考えて、あとは目の前のDFに当てないことを意識した。シュートが弱くても、枠に飛べばGKは反応できないと思った」と冷静に流し込んだ。
 
 8月上旬に加入が決まり、ベンチ入りはこの甲府戦が3試合目。そしてようやく訪れたJリーグデビューだった。チームは残念ながら黒星を喫したが「自分がやれることをやって、貢献することだけを考えていた」という言葉を、最高の形で具現化した。
 
 このゴールでシノヅカに対する期待値が劇的に高まったのは言うまでもない。齋藤学の負傷交代によって突然訪れた出番だった。攻撃の核である背番号10を欠く苦しい状況のなかで、新加入アタッカーのデビュー弾は、3試合勝ちなしのチームにおいて一筋の希望になったとも言える。
 
 とはいえ、過度に期待するのはいかがなものだろうか。シノヅカはまだ22歳と若く、ロシア2部リーグでプロデビューしているとはいえ、経験はまだまだ浅い。横浜加入後も齋藤やマルティノスの牙城を崩せず、前田直輝や遠藤渓太らと争う日々を過ごしている。チャンスを得て一発回答を出したが、先発としての実効性は未知数だ。
 
 甲府戦ではゴール以外に見せ場を作れなかった。本人が「相手が引いていたので、スピードやドリブル突破という特徴はなかなか出せなかった」と振り返ったとおりである。ビハインドを背負う展開で、相手は自陣の低い位置に守備ブロックを形成した。今後そんな状況をこじ開けるための一手になりえるかは、現時点でなんとも言い難い。
 
 才気の片鱗を見せた一方で、プレースピードの違いに戸惑う場面や味方とのコンビネーションに課題を残した。ただ、「学くんに恥じないプレーをしようと思った」というメンタルの強さは大きな魅力だ。
 
 思い返せば最近の練習後、他ならぬ齋藤がシノヅカについて「イッペイは頑張っている。すごく良い選手になると思う」と話していた。
 
 鮮烈デビューの次に待っているのは、どんな景色だろう。“日本生まれロシア経由Jリーグ着”のシノヅカは、苦境に立たされている横浜の救世主になれるか。
 
取材・文:藤井雅彦(ジャーナリスト)

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