< ドイツ・ハンブルク>ローザさん(仮名)・アーティスト・女性30代

「亡くなったあの人にもう一度会いたい」

 

人の願いは皆それぞれ。ある人は生きたいといい、ある人は死にたいという。青森県の恐山には死者を降霊してその声を代弁してくれるというイタコが存在することで有名である。亡くなった大事な人の気持ちを聞きたいという願いは彼女が叶えてくれるかもしれない。

 

もし、亡くなった本人と再び直接話せる可能性があるとしたら、あなたは信じるだろうか。

 

筆者は前世の記憶を持っているという人に何度か会ったことがある。ある人は数回分の人生の記憶があるといっていた。永遠に忘れられないであろう、あの人がどこかで「生まれ変わって」いるとしたら……。

 

ハンブルクに住むローザ(仮名)は高校生だった当時、レベッカ(仮名)という名のいとこがいた。15歳のローザに対してレベッカは31歳と年が離れていることもあってか、連絡を取ることもほとんどなかったという。

 

ある日、レベッカはガンに冒されてしまい31歳の若さで亡くなってしまう。レベッカはひとり暮らしで家族はいなかった。

 

訃報を聞いたローザたちはレベッカの自宅を訪れた。ローザの両親がキッチンや居間の片付けをしている間、ローザはレベッカの寝室にひとりで座っていた。すると部屋の中にのそりのそりと、見るからに年老いた一匹の猫が入ってきた。

 

これがローザとギズモ(=猫の名前)との初めての出会いだった。

 

ギズモという名前に聞き覚えがある方もいるかもしれない。映画「グレムリン」で登場する架空の動物で、茶色と白色が混ざったぬいぐるみのような見た目をしている。レベッカが飼っていた猫もギズモのような色だったことから同じ名前が付けられたと思われる。

 

しかし、ギズモの世話をしていたレベッカは病で亡くなってしまった。ローザの両親は仕方なくアニマルシェルターに引き取ってもらうことを検討するが、ローザはギズモを飼いたいと両親に言った。

 

「あなたが面倒みるならいいけれど、かなり年を取っているわよ。それでもいいのね」

 

このとき既にギズモは13歳。人間で言えば60歳かそこらの高齢であった。

 

ギズモを飼いはじめた当初、彼は病弱でかなり弱っていた。高齢のせいもあったと思われるが、レベッカの生前の生活状態はかなり荒れており多数のドラッグにも手を出していたらしい。その上、ヘビースモーカーだったこともあり、それがギズモに悪影響を与えていたのだとローザは筆者に語った。

 

ギズモを獣医に診せると、高齢だから回復の見込みは薄いだろうといわれた。それでもローザたちは食べ物や環境に配慮をし、およそ半年に及ぶ献身的な世話によってギズモは次第に回復していったのだった。そしてついに、外を走り回れるまでになった。こうしてギズモは14歳の誕生日を迎えることができたのである。元気に走り回るギズモの姿はローザたちに愛情を芽生えさせた。出会いから半年、1匹の老いた猫はすっかり家族の一員となっていた。

 

だが、そんな幸せな日常も長くは続いてはくれなかった。

 

ある日、ローザは寝ているギズモを起こさないようにそっとエサを置き、いつものようにひと声かけて学校に行った。年老いた猫が長時間寝てしまうことはよくあるが、この日のギズモはなかなか起きてはこなかった。家族のだれもがそのうち起きてくるのだろうと思っていた。しかし、ギズモはついにエサを食べなかった。それは突然訪れた寿命だった。その日、ローザは泣いた。

 

ギズモが死んだ数日後、ローザは不思議な夢を見た。

 

「夢の中で私は自分の部屋にいたの。すべてのものがグレーのような色。時間は夜のようだった。黒と白の模様のギズモがいて、私のベッドに走っていって私の方を振り返った。私が彼を追っかけていくと、私にベッドの下を見せようとしたの。ベッドの下を見ると小さなキッチンがあった。彼はその小さなキッチンを私にくれるみたいな素振りをして、私は小さなキッチンを胸に両手で抱きしめた。すると弾けるように消えてしまった」

 

ここでローザは目が覚める。筆者がローザから送ってもらった英文では、夢の部分が少しフワフワとした描写になっていて若干分かりづらいが、そこは夢ということでご了承いただければと思う。

 

夢から覚めたローザは、なぜこんな不思議な夢を見たのか分からなかった。ギズモのことを哀しむあまり見てしまったのか。やがてローザは夢のことを忘れ、ギズモと出会う前の日常へと戻っていった。

 

---それから数ヶ月後---

 

ある日、ご近所さんが自宅を訪ねてきた。母が用件を聞くと、ご近所さんは生まれた3匹の猫をだれかにもらってほしいという。母はローザを呼んで言った。

 

「ご近所さんがね、3匹の猫をもらってくれる人を探してるんだってよ。あなた、猫好きでしょ?もらってもいいわよ?」

 

ローザはすぐに返事を返した。

 

「いらない。」

 

ギズモの死から数か月が過ぎたが、彼の死はローザの心に深い傷を残していた。玄関まで出てきたローザは、ご近所さんが手に持っている猫を見た。すると、そのうちの1匹が茶色と白色の模様になっており、ギズモと見間違えるほど似ていたという。性別もオスだった。母はご近所さんにお断りのやり取りをし始めていたが、ローザは「この猫だけもらえませんか?」といって生後数か月の猫を1匹だけもらったのである。

 

---それから14年後、現在---

 

ローザは30歳になり、現在はアーティストとしてドイツで活躍している。ご近所さんにもらった生後数ヶ月の猫も14歳になり、あの時のギズモと同じ年齢となった。名前は夢の中でギズモがくれたキッチンにちなんで「CHILLY(チリー)」と名付けられた。チリーの生まれた月は、ギズモが亡くなった月と同じだったようである。ギズモが死んだ数日後に見た夢は「生まれ変わり」を暗示していたのかもしれない。ローザは、この先チリーが寿命で亡くなっても、きっとまたどこかで元気に生まれるだろうと信じている。

 

文=MASK校長

 

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