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もくじ

前編
ー エンジン音より聞こえてくるのは?
ー 6気筒で名誉挽回なるか
ー ヴェラールの値付けやいかに
ー 装備内容に見合った価格設定
ー 快適性にもサプライズ
ー 変わらぬ質感と変わる雰囲気

後編
ー 孤高の価値を示すカイエン
ー ドライバーズカーとしては一歩譲るが…
ー 高級SUVらしさには明確な差が
ー カイエンの走りはまるでスポーツカー
ー 忘れられるのにはワケがある
ー みごとに名誉挽回

孤高の価値を示すカイエン

カイエンのインテリアに目を向けると、これはヴェラールとQ7のいずれとの比較にも堪えない。たしかに、完璧なまでに快適で、NVH対策も上々だが、このテストのまさしく当日に新型が発表され、型落ちとなった6年選手であることを、見た目でもフィーリングでも痛感するばかりだ。

とはいえ、違う理由においてカイエンには、このテストでの確固たる存在意義が見いだせる。エンジンをかけた途端に発せられる、率直で、深みと威圧感のあるV8ディーゼルのサウンドや、ペダルやステアリングコラムに伝わる控えめながらも隠せない振動が、そのヒントを示す。これは、ほかの2台とは毛色の異なる、熱狂的で、しかし非常に好ましいクルマなのだ。

それは、高級SUVの文法からは外れるかもしれない。一般的なそれよりうるさく、粗が目立ち、重く、運転がきつく、トランスミッションや操縦系のしつけが悪い。だが、初代の登場から丸15年を経ても、ドライバーズカーとしての魅力はやはりライバルたちの追随を許さない。

それは、ヴェラールが登場しても変わるものではないのだ。おそらくレンジスポーツSVRを除けば、ここまで速く、バランスがよく、敏捷で、よくできた後輪駆動のスーパーサルーン並みに楽しめる大型SUVはないだろう。世代が変わっても、それだけは揺るぎない事実だ。

ドライバーズカーとしては一歩譲るが…

気になるのは、レンジローバーの新型車が、ポルシェの元祖カッ飛びSUVほど運転に夢中になれるものかということだろう。その点はノーと言わざるを得ない。しかし、運動性の高級SUVらしさという点ではカイエンを大きく凌ぐ。そして、カイエンより安楽で妥協はあるものの、ヴェラールもドライビングを楽しめるクルマだ。

勘違いしないでほしい。ヴェラールの71.3kg-mのトルクは、カイエンの86.7kg-mと同じように使えるものではないということだ。70kg-mを超える絶対値が物足りない、というのではないから、その点はご安心を。今回のD300は、われわれがロードテストの際にD240で指摘した、力不足や元気のなさとは無縁だ。

走らせてみると、このヴェラールは低回転域での力強さ、スロットルレスポンス、柔軟性や絹のように滑らかな動きを、実に巧みに調和させている。8段ATは、適切なスリップ量と変速スピードを正確に把握しているような感触で、快適さを保ちながらペースを上げることに寄与している。

高級SUVらしさには明確な差が

対照的にカイエンは、快適性に配慮していない。トランスミッションはアップもダウンも、予選ラップを走るフォーミュラ・フォードのドライバー並みの巧みさで素早く行われる。V8ディーゼルは、フルパワーを発揮するのにコンマ数秒は要するが、SUVに限らずここ四半世紀ほどで経験したディーゼル乗用車にはなかったようなペースとスタイルで走り出す。

ヴェラールのステアリングは、重さも速さも巧妙なセッティング。ハンドリングレスポンスとロール量へのマッチングは、バイオリンの弓と弦のようにしっくりくる。

アクティブ・エアサスペンションのセッティングは、コンフォート/オートマティック/ダイナミックの3モードが用意されるヴェラール。だが、いずれも乗り心地とハンドリングはバンプへの追従性や良好なボディコントロール、衰えないグリップレベルは必要十分にあり、素晴らしくプログレッシブで素直なままだ。滑るような走りは高級SUVに望まれる姿そのままで、しかし、それを改めて意識させられることは決してない。

カイエンの走りはまるでスポーツカー

カイエンは横グリップも安定感もコーナーでの挙動のアジャスト性もはっきりとあり、ドライバーの操作へより報いてくれるのは確かだ。しかし、それには犠牲を強いられる。

重量のかさむエンジンをたださえ重いクルマに積んだことで、ステアリングは時として過剰かと思えるアシストが必要となり、直進安定性はヴェラールほど高くなく、路面とのコンタクトもほとんど感じられない。乗り心地は、決して理想的ではない。コンフォートでは衝撃は吸収するものの減衰が足りない印象で、スポーツに切り替えるとぎこちなさととげとげしさが目立ち、いずれにしてもややドタバタする。

はっきり言って、これはこの手のクルマのオーナーが、オンロードで求めているようなクルマではない。ただし、勇猛果敢な走りを求めているなら別だ。2.2トンの4WDでありながら、望めばパワー・オーバーステアに持ち込める。馬鹿げた話に聞こえるだろうが、本当のことなのだ。

コーナーでのカイエンはグリップ十分で、カーブの中央でもニュートラルなままだが、そこからトルクをフルにかければパワースライドに移行する。その走りはSUVではなく、トランスアクスルの後輪駆動スポーツカーのようだ。

忘れられるのにはワケがある

では、ここまで話に出てこなかったQ7はどうか。こちらは何をおいてもエンジンとキャビンの静粛性を確保し、操縦系への不快な反響をすべて取り除き、あらゆる点で安定性と安心感を維持するのに専念している。そのため、ライバルと異なるタイプの運動性の優秀さを提供するまでには至っていない。

しかし正直なところ、機械面の洗練性や静粛性、快適性は印象的だが、乗り心地はもっと落ち着いていると期待していた。だが、標準装備の金属スプリングを用いたダイナミック・サスペンションでは、不整路面となると優れているとはいえない。

先にも述べたように、今回の試乗車の仕様での比較は、アウディにフェアとは言えない。とはいえ、かつて試乗した経験を振り返ると、オプションのエアサスペンションはもちろん、サスペンションや駆動系にどんなデバイスがついていても、Q7はヴェラールの敵ではないだろう。

みごとに名誉挽回

そうなると、今回の勝者は自ずと見えてくる。不安の残る立ち上がりではあったが、無謀とも思えた価格設定のハンデをはねのけ、レンジローバー・ヴェラールは強敵を退けた。アウディQ7の3.0TDIは、ルックスでもインテリアでも走りでも、ヴェラールの輝きを陰らせるスターの資質を見せることはできなかった。ポルシェ・カイエン・ディーゼルSは素晴らしいが、熟成度や高級感は不十分だった。

価格は高いが、ヴェラールはその金額を支払うだけの価値がある。