来るか?パーキンソン病を克服する日(depositphotos.com)

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 嗅覚の減退がパーキンソン病の前兆である可能性を示した後ろ向き研究の結果が「Neurology」9月6日オンライン版に掲載された。

 この研究では、米国の高齢者約2,500人を約10年間追跡した結果、嗅覚検査の成績が不良だった群では、最も良好だった群と比べてパーキンソン病を発症するリスクが約5倍に上ることが示されたという。

 今回の研究を実施したのは、米ミシガン州立大学医学部疫学・生物統計学教授のHonglei Chen氏ら。同氏らは、平均年齢が約75歳の男女2,462人(白人1,510人、黒人952人)を平均9.8年間追跡した。

 研究対象者は1999〜2000年に、一般的な食品や日用品など12種類のにおいを嗅ぎ、何のにおいかを回答する嗅覚検査を受けていた。同氏らはこの検査結果に基づき、対象者を嗅覚のレベルが「不良」「中等度」「良好」の3群に分類した。

 追跡期間中に42人がパーキンソン病を発症したが、解析の結果、嗅覚のレベルが不良だった群では、良好だった群と比べてパーキンソン病を発症するリスクが4.8倍であることが分かった。

 また、このような関連は喫煙やコーヒー摂取、頭部外傷の既往など、パーキンソン病リスクに影響しうる他の因子で調整後も認められた。さらに、このような関連は黒人よりも白人で、また女性よりも男性で強く認められた。

 Chen氏は「視覚障害や聴覚障害と違い、嗅覚障害は長い間気付かれないまま放置されることが多い。しかし、パーキンソン病や認知症といった根治療法のない神経変性疾患の患者では、これらの疾患を発症する何年も前から嗅覚障害がみられる可能性が高いことが、これまでの研究で示唆されている」と説明している。

 ただし同氏は「パーキンソン病は極めてまれな疾患であり、嗅覚障害がある患者の全てがパーキンソン病を発症するわけではない」と強調。その上で、「嗅覚障害に関する研究を重ねることによって、深刻な疾患であるパーキンソン病を発症するリスクが高い人の特定や、診断可能となる前の段階からの発症機序を解明する手掛かりが得られる可能性がある」と話している。

再生医療による難病治療の可能性

 パーキンソン病は、脳幹に属する中脳の黒質と大脳の線条体に異常を来して発症する。黒質に異常が起きると、正常な神経細胞が減少するため、神経伝達物質のドーパミンの量が低下し、黒質から線条体への情報伝達経路が阻害される。

 その結果、姿勢の維持や運動の速度調節がコントロールできにくくなるので、震え、こわばり、動作や姿勢の障害につながる。便秘、排尿障害、立ちくらみ、発汗異常などの自律神経症状やうつ症状を伴う場合も少なくない。
 
 日本では難病(特定疾患)に指定され、患者は約15万人と推定される。40歳以上の中高年の発症が多く、特に65歳以上の発症率が高い。
 
 パーキンソン病は、完全に解明されてはいない。

 ところが、2016年2月、一条の光明が差し込んできた。順天堂大学医学部脳神経内科、ゲノム・再生医療センターと慶應義塾大学医学部生理学教室の研究グループは、パーキンソン病患者3000人の血液細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を効率よく作製・保存できる技術の開発に成功。
 
 4月以降に世界初のiPS細胞バンクを本格的に立ち上げることになった。難病と再生医療の研究がコラボするiPS細胞バンク――。

 このプロジェクトが実現すれば、根本的な治療法がないパーキンソン病の病態の解明や治療薬の開発に結びつく可能性もある。

※『パーキンソン病の発見者は誰? 19世紀初頭に活躍した孤高の外科医によって研究がスタート』

 発症機序の解明と新たな治療法の可能性。決して早くはないが、幾重にも巻かれた難病の強固な鎖がほどかれつつある。
(文=編集部)