SNSの「性的クソリプ問題」は刑罰になる? 弁護士に聞いた、嫌がらせツイートをめぐる現状

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「一つ一つのツイートはそれぞれの方の考えや思いの表現である」と考えているツイッターにとって、誰かの思いを削除することは大きな問題です。 ──ネットの成長と言論の自由(日本経済新聞)



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以前、Twitter Japanの代表取締役である笹本裕氏が、日経産業新聞に寄せた一文だ。たしかに、それぞれの考えや思いを表現することは「言論の自由」からも否定できない。Twitterのサービス利用規約にも以下のように明文されている。

ユーザーは、本サービスの利用により、不快、有害、不正確あるいは不適切なコンテンツ、または場合によっては、不当表示されている投稿またはその他欺瞞的な投稿に接する可能性があることを、理解しているものとします。 ──Twitterサービス利用規約



そういった投稿に接する可能性はある。ただし、その表現の「正しさ」は問える(はず)。筆者がそう考えるようになった2つの出来事がある。「#上坂すみれチャレンジ」と「クソリプおじさんに悩まされ続ける26万フォロワーの尻職人」だ。

(これから、その出来事について話す。本題から読みたい方は“「なにをゴールにするのか」を決めることが大事”の見出し以下へ進んでもらって構わない)

「性的リプライ」を送りつけられるアイドルたち


画像は上坂すみれさん公式サイトをキャプチャ



声優・歌手として活動する上坂すみれさんは、2017年7月21日をもってTwitterとInstagramアカウントを閉鎖すると発表した。KAI-YOUではこの一幕を「止むことない悪質なリプライが影響」と考えた。

上坂すみれさんにインターネット上で殺害予告をした男性の逮捕が報じられたこともあったが、以前より彼女の投稿に関して、嫌がらせとも取れるリプライが多く見受けられていた。

その最たる例が「#上坂すみれチャレンジ」というハッシュタグを付けて投稿されたツイートたちだった。内容の一例は下記のTogetterにも詳しいが、要するに「上坂すみれさんからブロックされたら勝ち」というものだ。

チャレンジの名のもとに、参加者たちは性的あるいは心ないツイートを上坂すみれさんのアカウント宛に送り続けた。

また、BLOGOSにアイドルの倉持由香さんが寄せたコラムにも、似たような言及が見られた。彼女の何気ない投稿にも「早く尻を載せろよ」や「おっぱい見せて」といったツイートが送られるという。

これら同様の例をまとめて、今回の記事では「性的クソリプ問題」と呼ぶ。

「性的クソリプ」について、弁護士さんに聞いてみた


仮に、この問題を現実世界で置き換えた場合、職場でのセクシャルハラスメント(以下、セクハラ)が思い浮かぶ(もっとも、アイドルとファンは、労働者と事業主の関係とは言えないが)。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の解説によれば、セクハラは「相手方の意に反する性的言動」と定義される。

厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室はセクハラ対策の手引きにおいて、性的な内容の発言を「性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなど」として例示する。

「性的クソリプ問題」はこれら2点から見ても、職場ならばセクハラとしての要件を満たすには十分だろう。職場環境とTwitterを同列にして「その場を共有する状態」と捉えるのはいささか乱暴だとは思うが、発言に接する人々がセクハラ同様の不快感を覚えることも想像に難くない。

では、「性的クソリプ問題」に悩まされる当事者たち、あるいはその発言に接する閲覧者たちができる対策は何があるのだろうか。セクハラ同様、法的な拠り所をもった対処の仕方はあるのか。

「なにをゴールにするのか」を決めることが大事




今回は、一部ユーザーによる因果関係のないSNS投稿により、アイドルが精神的なダメージを受ける、あるいはアカウントを閉鎖した場合を想定して、弁護士法人 淀屋橋・山上合同の伊藤太一弁護士にお話をうかがった。

伊藤弁護士 性的クソリプの被害に遭った場合、法的手続をとろうとするなら、まず、なにをゴールにするかを考える必要があります。

一般的には、犯人を捕まえて、刑事処罰を受けさせ、損害賠償金をもらいたいと考えると思います。しかし、ネットの場合はこれが結構難しいのです。

行政官庁も裁判所も、どちらも「国家権力」で似たようなものだと思われるかもしれませんが、裁判所は国家権力の中で唯一、相手方が嫌がろうが何であろうが権利を実現できる強制執行ができるものです。

しかし、被害に遭った=救済されるというわけではありません。被害者は、被害に遭ったことを然るべき手続きの中で証明した上で、判決を取って、強制執行の手続きを進める必要があります。

やられた側がそのような負担をするのは不当と思われるかもしれませんが、裁判所としては、「本当に被害者かどうかは証拠をみてみないとわからない」という建前があるわけです。

逆に言うと、双方の主張を聞いて、証拠をみて判断しているからこそ、強制執行されても文句を言うなと言えるわけです。ここは、やむを得ないところがあります。

さて、ネット関係の事件でのゴールは、大きく2つに分けられます。

1.とりあえずネット上から情報を消すこと
2.書いた本人までたどり着くこと

また、法的手続きの種類で分けると「民事」または「刑事」が考えられます。刑事については後で述べるとして、まずは民事の話をします。

民事事件の可能性は?




民事でも裁判手続きである以上、裁判所で双方が主張や立証を尽くすことが前提ですから、相手方を特定して訴える必要があります。

ネット上から情報を消すだけなら、情報はサーバーにありますから、サービス提供会社を相手に訴訟を提起すればいいことになります。

しかし、書いた本人にたどり着こうと思うと、ネットの匿名性が壁になります。ネットの匿名性の壁については、後で少しお話ししますが時間との勝負になるところがあります。そのため、初動段階でゴールを明確に決めておかないと間に合わなくなる可能性があります。

また、本人までたどり着こうとする請求は、訴えた側が救われないことも少なくありません。その場合、費用だけ持ちだして経済的にも精神的にも救われないという泣き面に蜂になる可能性もあります。

今回は省略しますが、そもそも法的に権利侵害があると言えるかどうかも、法的手続きに乗せるためには整理が必要ですから、弁護士に相談した上で、ゴールを定めることが大切です。

IPアドレスと住所のつながりを開示させる方法


書き込んだ本人に対する責任追及を考えるのであれば、まず、本人の特定をしなければなりません。

ご承知のようにインターネット上では、個々の通信機器に対して「IPアドレス」が割り当てられ、生の個人情報そのものがデータとして記録されているわけではありません。そして、IPアドレスは、プロバイダが個々人に割り当てていることになります。

ですから、IPアドレスから本人に紐付けするためには、プロバイダに対し、情報の開示を求める必要があることになります。ちなみにIPアドレスがわかれば、Whois(※1)を検索することで、そのIPアドレスがどのプロバイダに割り当てられているものかがわかります。

(※1:IPアドレスやドメイン名の登録者などに関する情報を、インターネット経由で誰もが参照できるサービス)

ここまでをまとめると、まずはIPアドレスを把握すること。次に、プロバイダに対して本人の情報を請求することが必要となります。

ただ、これらのログは未来永劫にわたって残されているものではありません。たとえ、請求が認められたとしても、ログが消えた後では情報の開示をする方法がありませんから、急いで対応する必要があるわけです。

IPアドレスの入手方法については、各サービス次第としかいいようがありません。IPアドレスがそのまま掲示板に書かれるタイプのものもありますが、一般的には表には出していないことが多いので、サービス提供会社に対し、投稿者のIPアドレスの開示を求める必要があるでしょう。ここでも、時間がかかることになります。

次に、プロバイダから個人情報を得ることになりますが、憲法上、通信の秘密が保障されていることから(憲法21条2項)、そう簡単に通信したことそれ自体を明かすわけにはいきません。クソリプで人の気持ちを害しておきながら「自分は憲法を盾にするとは何事か!」という気持ちはわかります。

しかし、開示を求められているプロバイダからすると、自分たちが悪意のある書き込みをしたわけでもないのに、その表現の当否を判断しろと言われるわけですから、慎重な判断をせざるを得ないことになります。

そこで、法律では、権利侵害が明らかであり、かつ、損害賠償請求権の行使などのために、「必要な場合に限って発信者情報(住所・氏名等)の開示を求めることができる」と定めています(※2)。

(※2:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項)

逆に言えば、「明らかといえるかどうか微妙」となると、プロバイダ相手に正式な裁判を起こして情報開示を求めることになります。これに勝訴してようやく本人にたどり着くことができるというわけです。

本人にたどりついても「損害賠償」しかない問題


なお、最近は、マンションタイプのネットサービスなどがあり、大本のルーターがマンションに1個あり、そこから先は各戸に分配しているだけというものもあります。

このとき、各戸の通信と紐付けをする機能があるルータを設置している会社であれば良いのですが、そうでない会社の場合、相手方が住んでいるマンションまでは特定できても、そこから先がわからない可能性もあります。

さらにさらに言うと、本人がわかっても、その本人に求められるのはお金による賠償しかないという問題があります。

つまり、ネットの世界は本人が意図しないところでまとめサイトに転載されるなどして拡散されていきますから、書き込んだ本人としてできることはせいぜい損害賠償程度ということになります。

しかし、損害賠償を支払うお金がなかったらどうしようもありません(強制執行は、払えるのに払わない人に対しては功を奏しますが、もともとお金がないと言われると、手が出せませんし、財産隠し対策もなかなか難しいところがあります)。

このあたりは、被害者救済という観点からすると問題があるとは思います。しかし、プロバイダとしては自分が書き込んだわけではないですから立替払いをして、本人に求償するということもできないでしょう(プロバイダが、書き込んだ本人の資本力が無いことへのリスクを負うことになってしまいます)。

……それならば、一定の確率で悪意あるユーザーがいるのだと仮定して、保険制度でもつくったらどうかという考え方も出るかもしれませんが、明らかな悪意の者を前提とする保険は組みようがないと思います。

「じゃあ、クソリプ被害を受けた人たちが救われないじゃないか!」と言われると大変つらいのですが、現状、ネットの書き込みの被害者救済がなかなかうまくいっていないというのも事実です。

また、先ほど述べたように本人に対する請求は、行き着くところは「お金だけの問題」でしかありませんから、性的クソリプで傷ついた精神などが完全に回復されるわけではありません。

現状の法制度は、基本的に、お互いの顔がわかっている当事者同士の紛争処理を前提にしていますから、不特定多数の者が現れては消え、コピペで拡散していくネット社会に対応しているとは言えないように思います。

刑事事件の可能性は?




ここまでは「民事」についてを考えました。では、「刑事」はどうでしょうか。

刑事事件は、要するに、有罪になれば刑務所に送られる手続きということになります。なお、罰金の場合でも、罰金が支払えなければ、判決で定められる割合に従った日数だけ刑務所へ行かなければなりません。

刑事罰というのは、国家が強制的に自由を奪うものですから、当然、その取り扱いは慎重にならざるを得ません。また、どれほどひどい行為であったとしても、刑法その他法律に書かれた刑事罰を科せられるメニューになければ罪に問えません。

いわゆるクソリプに関係しそうな犯罪は、脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、ストーカー行為等規制法違反などが挙げられます。それぞれの違いについて見ていきましょう。

脅迫罪は、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨の告知をした場合に該当します。

例えば、「○○を殺してやる」などの殺害予告がこれに当たります。貞操に対する害悪の告知も脅迫罪に該当するといわれていますから、「○○をレイプしてやる」といったものも該当します。

また、害悪の告知は、告知者が関与できるという「程度」が感じられるものが必要です。例えば、「雷を当てて殺してやる」といったとしても、磯野波平さんのように自由に雷を落とす力を持っていない限り、告知者が関与して害悪を与えることはできませんから、脅迫罪には当たりません。

ネットの書き込みの場合、お互い見ず知らずで「いかにして危害を加えるのか?」という点が問題になり得ると思います。ただ、いわゆるネットの「特定班」と呼ばれる人たちのスキルは凄まじいものがありますから、個人的には、やろうと思えば案外簡単にできるのではないかと感じています。

強要罪は、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときに成立します。

要するに、脅迫罪または暴行罪+義務のない行為の強要になります。「殺すぞ。服を脱げ」などが典型例です。

注意しないといけないのは、脅迫または暴行が必要ということで、単に「脱げ」「パンツ見せろ」「やらせろ」というだけだと、前後の発言にもよりますが強要罪に該当しない可能性もあります。

名誉毀損と侮辱はわかりにくいのですが、以下のように分類できます。

1.名誉毀損:事実を摘示して社会的評価を下げる
2.侮辱:事実の摘示なく社会的評価を下げる

区別が難しい事例も多いのですが、例えば、「昨日○○が番組スタッフとホテルへ入っていくのを見たぞ」というと名誉毀損に、「○○は男だったら誰でもいいんだな」となると侮辱になります。

なお、いずれも「公然とされること」が必要ですが、ネットの場合は基本的には公然といって良いでしょう。

ストーカー行為等規制法は、名誉を害する事項や性的羞恥心を害する事項の告知を反復してすることを言います。

ただ、「恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」がなければならないので、冷やかし目当ての場合、該当しないことになってしまいます。

刑事告訴も迅速な対応が必要


これらの犯罪に該当しうる場合は、「刑事告訴」を行うことで、警察に捜査をしてもらうことができます。告訴は、相手方が不特定でもできます。また、警察は、告訴を受理すると捜査をする義務が生じます。

ただし、一般論として言えば、告訴の受理に積極的とは言い難いところです。しかし、いざ捜査するとなれば、捜査関係事項照会や令状を用いて、プロバイダから直接情報を取ることができるなど、強力な捜査権限を行使することができます。

ただ、いかに警察が協力といえども消えたログまで復活させることはできませんから、刑事告訴を考えるにしても迅速な対応が必要です。

法的手続きのリスクも考えておく必要がある


法的手続の説明からは少し離れるのですが、何か行動を起こすことで第2、第3の被害が生じることがあるのも考えておくべきです。

一般的に、炎上はせいぜい3日程度で収まることが多いです。しかし、法的手続きをとったり、犯人が逮捕されたりすると、そのことがきっかけとなって炎上が再発することも少なくありません。

やられた側にしてみたら踏んだり蹴ったりではあるのですが、少なくとも再炎上のリスクは頭に入れて判断をした方が良いと思います。

また、検索結果からの削除については、最高裁決定によって、認められるハードルがかなり上がってしまいましたが、認められたとしても、検索結果から削除されたことが目立つようになる可能性があることも指摘されています(参考リンク)。

ネットの世界は、顔の見えない圧倒的不特定多数の者を相手にしないといけませんから、モグラたたきのように、どこかで対策を取っても、また別のトラブルが生じる可能性があります。そのことも念頭におかないと、結果的に、さらに苦しむこともあり得るのです。

2017年9月時点の結論:現状の法制度はネット社会に対応しきれない





……以上が、伊藤弁護士からの寄稿だ。あらためて要旨をまとめてみよう。


・性的クソリプ問題は「民事」か「刑事」かで法的手続きの種類が分かれる。その分類は受けている被害の状況によって判断が異なる。

・法的手続をとる場合は「なにをゴールにするか」を最優先で、かつ迅速に考える必要がある。ネット関係の事件でのゴールは「ネット上からの情報の削除」「書いた本人までたどり着くこと」の2つがある。

・民事として、書き込んだ本人に対する責任を追求するなら、まずは「本人特定」が必要だが、そのためのIPアドレスの特定や個人情報の開示は各サービスの対応による。ただし、現状では本人特定をしても、被害者には損害賠償程度の救済しか選択がない。

・刑事事件としては脅迫罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪、ストーカー行為等規制法違反などが挙げられるが、それぞれで該当する内容は異なる。該当した場合は刑事告訴ができ、警察が捜査に当たれる。

・民事、刑事いずれにしても、法的手続きを取ることで二次被害が起こる可能性もありえる。


伊藤弁護士も記しているが、「取れる手段はある。しかし、現状の法制度はネット社会に対応しているとは言えない」というのが今回の結論になる。

もちろんそれでも問題の程度はあり、逮捕者が出ていることから全てが悲観的というわけでもないが、想像以上に対処が難しいのも事実だろう。

今日もどこかで、性的クソリプに心を痛める被害者がいる。その痛みだけが拡散し、異常者のしたり顔は見えないまま。そんなインターネットを、いまの僕たちは生きている。

写真:ぱくたそ(www.pakutaso.com)