JAPAN LOCALエディターを初めて3ヶ月が経とうとしている。
インタビューしたり記事を作ったりしながら一番「ああ、おもしろいなあ」と思ったのは、みんな同じことを言っている、ということだ。

それは、今は「選択」の時代だ、ということ。

それを改めて感じさせられたのが、D&DEPARTMENT PROJECT監修の「シェアトラベル」だった。

ガイドブックは
『d design travel』

『d design travel』という雑誌をご存知だろうか。

これは、D&DEPARTMENTが発行している観光ガイドだ。1都道府県ごとに1冊ずつとりあげていく。その土地に長く続く「個性」「らしさ」のあるデザイン=「ロングライフデザイン」をテーマに、宿、工芸、食などを取材する。

私はこの本を、今もっとも信頼できる観光ガイドだと思っている。内容に説得力があるからだ。その秘密は単純明快で、彼らはこの本を作るとき、実際に現地に住み込んでしまうのである。最初は本の存在を明かさず、自費で泊まって、買って、食べて。外的要因に左右されず、自分たちが「いい」と思ったものだけを掲載する。それをまた、新しい土地で繰り返す。

そんな『d design travel』の編集部員が行き先をセレクトしたツアー、それが「シェアトラベル」だ。信頼できないわけがない--と同時に、どのような旅になるのか謎も多かった。そんな中で、事前に行われたプレスツアーに参加させてもらえることになった。

当日の朝、空港で集合後『d design travel』佐賀号を手渡された。ANAの機内でそれをめくりながら、私は「新しい旅のかたち」に思いを馳せていた。

「何人で行くんですか」
「8人です」(えっ!)

佐賀空港で参加者がそろった時、あれ?と思った。思わず「何人参加するんですか?」とたずねると、参加者は8人だという。

というのも、「シェアトラベル」は、チャータータクシーを使った乗り合い旅なのだ。催行人数は2〜8人。2名まではセダンタクシー、それ以上はワゴンタクシーを利用し、現地のドライバー+『d design travel』編集長・ナガオカケンメイ氏の音声ガイドで、厳選されたスポットを巡っていく。

ナガオカケンメイ氏のガイドは、一般的なガイドのそれとは違う。

各スポットの概要を説明しながら、「編集部は絶対ここでごはんを食べる」などの経験談も盛り込まれていく。それは、時間とエネルギーをかけて『d design travel』を編集したからこそ言える内容だし、同誌の説得力と地続きのものだ。とても信頼できるし、飾らない感じのしゃべりは聞いていて楽しい。

ちなみに、「シェアトラベル」のツアー代金に含まれるのは航空券+宿泊代(朝夕付き)+チャータータクシー代のみなので、参加者は、好きなものを好きなだけ、その場で購入・注文することができる。気になるメニューがあれば迷わず注文していいし、逆に興味がわかなければスルーしてもいい。

主催者側と参加者が近い距離で、無理なく自由に、その土地を楽しむ。8人以下という人数は、かなり絶妙な設定なのだ。

じゃあひとり旅でもよくない?

と、思う人もいるかもしれない。
私自身、団体旅行というものは非常に苦手だ。大人になってからはもっぱらひとり旅しかしていない。

だが、ひとり旅には限界がある、とも感じている。
行ったあとで「ああ、こういう風習があったのか。だったら…」と、もうひとつ踏み込んだアクションをとれなかったことを後悔することもあるし、そもそも、時間があまりにも限られている。数泊するだけで、現地の人と同化することはできない。

『d design travel』には編集理念がある。
そのひとつに「取り上げた場所や人と、発刊後も継続的に交流を持つ」という項目があり、編集部は、現地の人とかなり深い関係性を築いている。そのおかげで、参加者はお店の裏側をのぞかせてもらったり、特別にガイドをしてもらったりすることができる。そうして、その土地の「ロングライフデザイン」にふれる濃い体験ができる仕組みになっているのだ。

「シェアトラベル」に参加することは、関係性に参加させてもらうこと。だから、1泊2日という限られた時間でも、ひとり旅では得がたい満足感と充実感を得ることができる。

で、なんで佐賀?

と思う人もいるだろう。しかも第一弾に選ばれたとは。ツアー前、旅行代理店に勤める姉に相談したくらいだ。そして佐賀単体のパンフレットがないと知って愕然とした(「九州」のパンフレットにちょこっと掲載されているとのこと)。

ツアーに同行してくださった佐賀県地域交流部の川原靖さんによると、今回の「シェアトラベル」は、佐賀県による観光客誘致事業のひとつとのことだった。

佐賀県には、羽田空港からはANA(全日本空輸)、成田空港からは春秋航空日本の2路線が就航している。それらを利用して首都圏からもっと多くの人に訪れてもらおうと、県が事業案を募り、選ばれたのがD&DEPARTMENTの「シェアトラベル」だった。その理由については、「有名な場所だけではなく、佐賀ならではの人・場所に立ち寄りながら、佐賀のよさを味わってもらえると思った」とのことだった。

結果からいうと、「シェアトラベル」の切り口で見た佐賀は、本当に素晴らしかった。その土地、その人の物語にふれることができ、ただ「楽しい!」というよりは、今思い返しても心が満たされ、あたたかくなる--そんなツアーだった。

佐賀の「シェアトラベル」
コースは全部で4つ

今回の「シェアトラベル」で用意されているのは、以下の4コースだ。

佐賀のロングライフデザイン定番旅
井手ちゃんぽん、武雄市図書館、焼き物産地の志田・有田などを巡り、佐賀の文化と歴史について学んで感じる定番コース。

∈寛譴龍薪擇量を巡る旅
海苔やイカの生産者や漁場、器の工房、名物の羊羹の生産地などを巡り、食を通して佐賀の気候風土や文化を感じるフードツーリズム。

わかりやすい佐賀の酒旅
倭酒専門バー『傳庵』店主・渡邊さんによる飲みレクチャーの翌日は酒蔵巡りへ。嬉野温泉で酔いを覚まし、豆腐の銘店でランチする、日本酒ツーリズム。

ず寛譴離蹈鵐哀薀ぅ侫妊競ぅ鵑鬚ゅっと圧縮お得旅
佐賀の定番旅をぎゅっと圧縮したお得なコース。24時間でしっかりと佐賀の「らしさ」を感じることができるショートトリップ。

ここからは、プレスツアーで体験させてもらった,猟衄嵶垢砲弔い董簡単にレポートしたいと思う。

佐賀は本当に
「なんもなか」なの?

佐賀県民の口ぐせは、「なんもなかもんねえ(何もないもんね)」らしい。否定してあげたいけど、正直これと言って思い浮かばない……。
飛距離のある旅になりそうだなあ、と考えながら、8月某日、九州佐賀国際空港に降り立った。

まずは佐賀のソウルフード、井手ちゃんぽんへ。

『d design travel』編集部イチオシの井手ちゃんぽんは、昭和24(1949)年創業の老舗食堂。厨房はカウンターから丸見えで、ちゃんぽんができていく様はまるでショーのよう。

編集部オススメはちゃんぽん・野菜大盛(860円)。でも普通のちゃんぽん(700円)もかなりのボリュームでした。
お昼が近づくと地元のおじちゃんたちがわらわらと入ってきて活気づく店内。さすがソウルフード! もちろん、おいしかったです。

午後は武雄市図書館へ。

蔦屋書店で知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する図書館ということで、ご存知の方も多いだろう。

個人的に、ここが一番のお気に入り。

「田舎になんかおしゃれなもんができました」的なスポットは、全国各地、たくさんあると思う。私自身かなりの田舎で育ったので、実際にそういう施設を見てきたし、また、それがいかに虚しいものか、わかっているつもりだ。

だが、ここはそうじゃなかった。10分も館内を歩けば、ここが地域のコミュニティとしてしっかり機能していることを実感できた。大人の利用はもちろん、5歳くらいの子どもたちが仲よく絵本を探しに行ったり、受験生らしい中・高校生が一生懸命勉強していたり。地域の文化施設として、しっかり活かされていた。それに感動した。

近くにある武雄神社も訪れた。

この鳥居は「肥前鳥居」とよばれ、佐賀を中心とする肥前一帯と、長崎・福岡の一部にみられる独特な形式だそうだ。

境内の奥へ進むと、樹齢3000年ともいわれる「武雄の大楠」が。

次に向かったのは武雄温泉。

©️武雄温泉株式会社

©️武雄温泉株式会社

中華風の温泉楼門および資料館(新館)は、建築家・辰野金吾により設計。大正3(1914)年に竣工され、国の重要文化財に指定されている。

見学だけでなく、実際に温泉にも入らせてもらった!
昼間から温泉に入る贅沢……。

次は志田焼の里博物館へ。

高級な有田焼きに比べ、徹底して庶民の食器を焼き続けたのが志田だった。
江戸時代から続いた工場は昭和58(1984)年に閉鎖されてしまったが、現在は近代化産業遺産として保存され、博物館になっている。

館内はガイドつきでまわることができる。
焼き物の工程すべてを一貫して手がけた工場がそのまま遺っているだけでなく、それにどういう意味があったのかも聞きながら、志田焼きへの理解を深めていくことができる。

そして本日の宿、大正屋へ移動。

大正屋は、大正14(1925)年創業。嬉野温泉の代名詞的な宿だ。
建築は吉村順三によるもの。吉村順三は、奈良国立博物館の東新館、西新館(建設省選定「全国の公共建築」100選)などの設計にも携わった建築界の巨匠だ。

宿泊者だけが入浴できる「滝の湯」。
曇らない窓ガラスも、吉村順三の優れた設計の賜物。

翌日は朝から今村製陶 町屋へ。

有田焼は、高い強度の青白い器を焼くため1300度で焼くのが普通なのだそう。しかしその一方で、耐火温度の低い陶石が大量に残ってしまう問題も。そのため、今村製陶 町屋の店主・今村肇さんと、デザイナー・大治将典さんは、1240度でも焼ける陶土を独自にブレンドして作り上げ、2012年、オリジナルの有田焼ブランド「JICON」をスタート。ここではその器を直売している。

今村さんは、店舗奥の作業場も案内してくれた。

うつわの美しさはもちろんだが、伝統工芸や地域で起きている問題に真摯に向き合う姿勢に胸をうたれた。
気どらず毎日使えそうな「JICON」のうつわ。値段も、小皿972円〜中皿2592円と手の届く価格帯。「佐賀単体のパンフレットはない」と教えてくれた姉へのお土産に3枚購入しました。

次は、佐賀県立九州陶磁文化館へ。

ここは、伊万里焼と有田焼の違い、それぞれの変遷、日本の陶磁器発祥の歴史まで、とにかく陶磁器のありとあらゆることを学べる博物館だ。

地元の窯業関係者も「何度見てもすごい」とうなるのだそう。今村製陶 町屋の今村さんも「とりあえずここを観ておけば大丈夫です!」とおっしゃっていた。それもそのはず、展示総数は約1万点。時間をかけてじっくり鑑賞する。

ランチは、老舗ステーキハウス、ライおンへ。

「編集部が取材抜きでも食べに行く!」というハンバーグセット。牛肉100%なのに噛まなくていいほど柔らかい! 和風または洋風のハンバーグ180gに、ライスまたはパン、ソフトドリンクがついて1,600円。

次は、チャイナ・オン・ザ・パーク 忠次舘へ。

ここは、有田焼の窯元、深川製磁のミュージアム。忠次舘2階にあるリフレッシュルームでは深川製磁のうつわでコーヒータイムを楽しめる。

旅も終わりに近づく。
次の目的地は、Design Office & Shop 1.5。

佐賀の若手クリエイターの交流拠点「パハプスギャラリー」のオーナー北島敬明・真由美さん夫妻がオープンしたデザイン事務所兼ショップ。ステーショナリーやCD、アパレルなどを、独自のセレクトで取り扱っている。
陶磁器なども興味深かったけれど、今、佐賀で暮らす若者がどんなことを感じ、どんなふうに時代やデザインと向き合っているのか。その場面を垣間見ることができた気がした。

最後は、山田酒店。

和酒の魅力を知りつくしながらも「お酒が飲めない」店主、山田さんが日本酒「鍋島」をテイスティングさせてくれた。

佐賀の酒はなぜ甘いのか? そして世界に名を知らしめた日本酒『鍋島』の誕生秘話とは? 山田さんの優しい佐賀弁がさらに胸を熱くさせる日本酒談義が続く……。

これにて、1泊2日の佐賀のロングライフデザイン定番旅、終了。
結論、佐賀のみなさま、佐賀は「なんもなか」じゃないですよ。

「選択」の時代の
旅のかたち

「シェアトラベル」の価格は、私が参加した定番旅で77,300円〜103,500円、一番リーズナブルなものでも、52,450円〜(いずれも税込)。価格帯として決して安いわけではないので、ここまで読んでくれたあなたが「うーん…」と考えているかもしれないことも、私には想像できる。

だが、これは冒頭でも話した「選択」の話だ。
「シェアトラベル」は確かにすばらしかった。だが、私はこれを絶対的なものとしてすすめるわけではない。

今は「選択」の時代。
絶対的な価値などなく、あらゆるものを自分のなかで相対化していかなければならない。今自分が見たいもの、価値を見出すものを選びとっていく必要がある。そのなかで「シェアトラベル」は、非常に有効な選択肢になると、私は確信している。

たとえば、今は学生で「国内旅行にそんなにお金をかけられない」というあなたでも、「シェアトラベル」という選択肢がある、と知っておくことは、とてもポジティブなことだ。数年後、あなたが限られた時間で、その土地の本当の姿に出会いたいと思ったとき。仲のいい友人や兄弟と、とっておきの旅行したいと思ったとき。あるいは、両親へのプレゼントを考えたとき。ハイクオリティな「シェアトラベル」という旅のスタイルは、これまでになかった旅の選択肢として、有意義なものに違いない。

ナガオカケンメイ氏は、「シェアトラベルの最終的な目標は移住」だと語っていた。どこにいても仕事ができるようになってきた今の時代に、自分の暮らす場所、あるいは永住先を探すきっかけになればいいと。

旅先を選ぶこと。
自分が見たい・食べたいものを選ぶこと。
求める体験の質や深度を選ぶこと。
参加する関係性を選ぶこと。

そしてゆくゆくは、自分の生き方を選ぶこと。

「シェアトラベル」の「シェア」は乗り合いという意味だが、私たちに数々の新しい選択肢を分け与えてくれる--そういう意味でも「シェア」なのかもしれない、と私は思った。

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