2016年9月発売で、ブームのきっかけとなった『パリマダム グレイヘアスタイル』(主婦の友社)。パリに暮らす37人のシニア女性を紹介した写真集だ。

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年齢を重ねれば、白髪が増える。その白髪を染めるべきかどうか。いま世界中で「グレイヘア」がブームになりつつある。そしてその先端にあるのが日本だ。シニア女性誌の元編集長・矢部万紀子氏は「白髪染めをやめる人は今後ますます増える」とみる。その理由とは――。

■シニア誌で「読者に一番人気のある女優」とは

7月まで6年間、シニア女性誌「ハルメク(旧誌名いきいき)」の編集長をしていた。シニア女性誌の中で部数1位だからだろうか、在職中、「シニア女性のこれからのトレンド」について聞かれることが多々あった。

シニア女性といってもさまざまだから実に難しい質問なのだが、今、一つだけ予測できることがある。それは、「これから、白髪女性の出現率がどんどん上がる」ということ。No.1シニア女性誌の前編集長として、そう言い切る所存である。

編集長になるまでは、新聞社で雑誌や書籍を作っていた。つまり「おっさんワールド」の住人だったから、シニア女性の世界に転じた直後は、驚くことが多々あった。その一つに「読者に一番人気のある女優」がある。

正解は草笛光子。もちろん素敵な女優さんだが、主演をバンバン務めるタイプではないので、意外だった。

■「白髪できれい」は憧れ

ある読者との会話から、人気の秘密がわかった。「白髪であんなにきれいな人がいるなんて、うれしい」。そう言われ、腑に落ちた。

キーワードは白髪だった。白髪は「きれい」の阻害要因ととらえられている。その阻害要因を抱えている読者=シニア女性は多い。だから「白髪できれい」は憧れであり、自分の可能性をも感じさせてくれる。そう理解した。

さらに、白髪をめぐるシニア女性の意識の変化をこの1年ほど、はっきり感じていた。それは何かと言うと、「草笛光子に憧れる」から「草笛光子になる」。そういう変化である。

ハルメク2017年2月号でファッションを特集した。オススメのファッションアイテム、マンネリ脱出法など衣服まわりの情報をそろえたが、読者から一番反響が大きかったのは、「かっこいい『憧れグレイヘア』への道」と見出しをたてた記事だった。

「ガンダーラ」「銀河鉄道999」などゴダイゴのヒット曲を作詞した奈良橋陽子さんの髪は白に黒、ところどころ青や紫の混じりで、とてもカッコいい。そんな奈良橋さんの写真をトップに、白髪プラス黒髪の「グレイヘア」を実践中の60代女性3人を紹介、どうしたらカッコいい白髪になれるかを指南した。

■75%の人が「白髪染め、いつかやめたい」

この記事を作るにあたり、読者アンケートをとった。染めている読者82人に「これからも染めますか?」と聞いたところ、75%の人が「いつかやめたい」と答えた。

だけど、ずっと続けてきた白髪染めをやめたらどうなるのか、真っ白で素敵な草笛光子さんにいきなりなれるわけではないし、やめてから白までの「移行期間」が不安。そういう声に応える記事にしたことが人気につながった。

他のシニア女性誌でも最近、白髪が注目の的だ。「ときめき」(世界文化社)は2017年春号で「白髪をもっとお洒落にしませんか?」という記事を掲載したところ、やはり大反響。11月1日発売の秋冬号でもグレイヘアスタイルを掲載する予定だという。週刊女性(主婦と生活社)も9月26日号で「40代からのグレーヘア入門」という記事を掲載している。

「グレイヘア」ブームのきっかけとなったのは、昨年9月に発売された『パリマダム グレイヘアスタイル』(主婦の友社)という写真集だ。パリに暮らす37人の素敵なシニア女性たちを紹介し、1万部を売り上げている。

■「女性の白髪=年寄り」という固定観念

主婦の友社は「シニアおしゃれ写真集」というジャンルを築いていて、累計13万部という実績を誇る。『OVER60 Street Snap』など、過去4冊の写真集の表紙を飾る女性は、国内外を問わず全員グレイヘア。そうだ!グレイヘアだ!と作ったのが『パリマダム グレイヘアスタイル』だったという。

発売に合わせ、同社も白髪と白髪染めについて、女性読者にアンケートをしている。

「女性の白髪」「男性の白髪」へのイメージを聞いたところ、「年齢を感じる」は女性の白髪が85.0%、男性の白髪は63.9%。「自然なことだと思う」は、女性の白髪が36.7%、男性の白髪は53.5%。年齢を感じるのは女性の白髪、自然に感じるのは男性の白髪。そう読める。

えー、そうなのー? 女性の白髪にだって、自然を感じてほしいのにー、と思った私であるが、回答者属性を見て、こう思い直した。

若さゆえね、ふっ。

同社のアンケート回答者720人は30歳から81歳で、平均年齢は45.6歳。シニア女性誌「ハルメク」の読者より、10歳以上若い。なので「世間の目」を意識しがちなのだと思う。世間の目とはまだ、男性中心の目だ。だから「女性の白髪=年寄り」という固定観念に縛られがちなのだろう。

イメージでなく実態を尋ねると、「今染めている」「将来染めるつもり」という人が82.5%もいた。だが、その人たちに今後も染めるかと尋ねると、「一生染めるつもり」と答えた人は19.4%に過ぎなかった。

■「アンチエイジング」はもう使わない

つまり、主婦の友社でも、ハルメクでも、アンケートでわかったのは、「白髪染め、いつかはやめたーい」という女性の叫びというわけ。

では、なぜやめたいの?という話だが、主婦の友社は、それも尋ねている。「染めてもすぐ生えてくるから意味がない」「面倒」「お金がかかる」が、やめたい理由トップ3。そう、白髪染めって煩わしい。56歳、白髪染め歴10年以上の私も実感している。

と、ここで話が少し変わるが、アメリカの女性誌「アルーア(allure)」の編集長がウェブサイトで「アンチエイジングという言葉はもう使わない」と宣言したということが、8月に話題になった。

日本でシニア雑誌を作ってきた私の感想を申し上げるなら、「とっくにそんな気持ちでしたけど」である。奥ゆかしい日本人なので、アンチ・アンチエインジングを宣言したり、それをルールにしたりはしていない。が、ハルメクを作っていて思っていたのは、「シニアですけど、何か?」ということだった。

■グレイヘア実践者はどんどん増える

「年齢を重ねる」ということを、さほど構えて考えない女性が増えている。6年の編集長生活で実感したことだ。もちろん年をとれば、不具合は出る。白髪もその一つかもしれない。でも、深刻に考えるより、自然体でとらえる。そういう女性が主流になっている。

というわけで、白髪染めをやめる人が今後ますます増え、グレイヘア実践者がどんどん増える、というのが私の見立てだ。

かくいう私も実は、会社を辞めたのを機に8月から、美容院での白髪染めをやめた。「ハルメク」でも「ときめき」でも「週刊女性」でも、グレイヘアの特集で必ず書いてあるのが、「グレイヘアは手入れが大切」ということ。

そんなわけで本日も丁寧にトリートメントなどしつつ、我がグレイヘアの進行を楽しみにしている。

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矢部万紀子(やべ・まきこ)
コラムニスト
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長。

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(コラムニスト 矢部 万紀子)