パスピエ、新体制で再確認した“音楽を第一にする”創作スタンス 「楽曲を拠り所にしたい」

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 パスピエが10月18日、ミニアルバム『OTONARIさん』をリリースする。4thアルバム『&DNA』(2017年1月リリース)を携えた過去最大の全国ツアー『パスピエ TOUR 2017“DANDANANDDNA”』終了後、オリジナルメンバーのやおたくや(Dr)が脱退し、4人編成となったパスピエ。新体制になって初の作品となる『OTONARIさん』には外部のドラマー(BOBO、佐藤謙介)が参加。成田ハネダ(Key)がトラックメイクを手がけた楽曲が収録されるなど、これまでとは明らかに手触りが違う作品に仕上がっている。ソリッドに作り込まれたアレンジ、成田、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)の演奏テクニックが存分に活かされたアンサンブル、さらに力強さを増した大胡田なつき(Vo)のボーカルを含め、“新生パスピエ”を明確に示す充実作と言っていいだろう。

 今回はメンバー4人にインタビュー。8年間活動を共にしてきたドラマーが脱退するという出来事を経て、新たな起点となった『OTONARIさん』を生み出すに至った過程についてじっくりと語ってもらった。(森朋之)

■「現状を受け止めながら、これからどうするか並行して考えていた」(成田)

ーー今年の春に行われた全国ツアー『パスピエ TOUR 2017“DANDANANDDNA”』の終了後、ドラマーのやおたくやさんが脱退。バンドを抜けたいという話があったときは、どう感じました?

成田ハネダ(以下、成田):最初はただただビックリでしたね。ただ、彼なりにいろいろと考えた結果だと思うし、ひとりのミュージシャンとしてこのバンドとは違う道を選択したということなので。その決意を口に出して僕たちに伝えたからには、彼のなかにも相当に強い思いがあっただろうし、僕らとしても8年間一緒に活動してきた仲間をいい状況で送り出してあげたいなと。

大胡田なつき(以下、大胡田):うん。

成田:とは言え、その話を聞いたのがツアーの最中でしたからね。(脱退を発表することで)お客さんに先入観を持って会場に来てほしくなかったし、作品にしてもライブにしても、僕らはずっと“音を届ける”ということを第一に考えてきたので、そこはしっかりやろうと。「今、僕らが作り上げている音楽はこれです」と純粋に伝えるということに力を注ぎました

ーーツアーファイナルのNHKホール公演(2017年5月7日)は結果的に“5人のパスピエ”の最後のライブになりました。当日は特別な思いがあったのでは?

成田:それはありましたね。1回1回噛みしめていたというか「とりあえずこのツアーを成功させよう」と思ってライブを続けて、最後のNHKホールまで走り切ったわけだから。

大胡田:ツアー中は平常心でやっていたつもりなんですけど、「やおさんと一緒にできるライブはあと○回」という数字はもちろんわかっていたので。そういう気持ちも大切しようとは思ってましたね。

三澤勝洸(以下、三澤):“1回1回噛みしめていた”というのは本当にそうで。ライブ中も「この曲を5人でやれるのはあと○回だな」と思うことがあったし、熱はいつも以上にこもっていたと思います、結果的に。

露崎義邦(以下、露崎):メンバーの間では「ツアーの最初から最後まで地続きで走り抜けよう」という共通認識があったんですけど、やっぱりいろんな思いが出てきますからね。(脱退の)発表はいろんなタイミングを考えた結果、ツアーが終わってからと決めていたし、お客さんに別な気持ちを持たせたくないし自分たちの気持ちをヘンに見せないように努めようとは思っていましたが。

ーーNHKホールのライブは僕も観させてもらいましたが、本当に素晴らしくて。結成以来、徐々に向上してきたバンドの一体感、パスピエ特有のグルーヴがひとつのピークに達したライブだったし、だからこそ“やおさんが脱退する”と聞いたときはすごく驚いてしまったんですよね。ファンの方も同じ気持ちだったと思いますが、メンバーとしてはすぐに“次”を見据えて動き出したということですか?

成田:そうですね。もちろん音楽を辞めるという選択肢はなかったし、現状を受け止めながら「じゃあ、これからどうするか」ということを並行して考えていたので。ツアー中もずっと頭を回転させながら、少しずつ進めていたというか。

三澤:ミーティングもいっぱいしましたね、4人で。ファンに対しても、いちばんやっちゃいけないのはバンドを止めることだと思っていたので。「どうしたら次に進んでいけるか?」と前向きに話していた感じですね。

成田:どんなドラマーにお願いしようか? とか具体的な話をしてましたね。ウチに集まってもらって。

露崎:起きたことを考えていると、心が折れそうになったり、ネガティブなところも見え隠れするけど、そこばかり見ていても変わっていけないし、なんとか前向きに捉えようと意識してました。レコーディングもライブも、今後は初めてのドラマーと一緒にやることが増えるわけじゃないですか。そこで見えることもあるだろうし、しっかりアンテナを張って、広げていかないといけないなと。

■「周りによって自分が動かされるのもすごく新鮮だった」(大胡田)

ーーライブのサポートドラムは主に佐藤謙介さん(ex.踊ってばかりの国、髭(HiGE)、井乃頭蓄音団など)が担当していますが、パスピエの楽曲を演奏するには、かなり高度なテクニックが必要ですよね。

成田:確かに求めることは多いかもしれないですね。ただ、彼が叩いてくれたことで僕らにとってもいろいろなことに気付かされるきっかけになってるんですよ、実は。「この曲で伝えたいのはこれだよね」ということが明確になったり。

大胡田:うん。

成田:リハーサルのなかで「サビのノリをこういうふうに変えてみよう」だったり、過去の曲に立ち返って考えることも多くて。

三澤:すごく細かいことなんですけどね。「何拍目の音を抜いてみよう」みたいなことなんだけど、それだけもずいぶんノリが変わったりするんで。

ーーサポートドラマーと演奏することが、既存の曲を見つめ直す機会になっていると。新体制になってからの最初のライブはいつだったんですか?

三澤:UNISON SQUARE GARDENとの対バン(2017年6月1日/高松festhalle)ですね。

成田:5月末に脱退を発表して、6月1日に最初のライブがあって。

ーーめちゃくちゃ大変じゃないですか。

成田:そうですね(笑)。そのときのライブに関しては、まず、UNISONに感謝ですね。僕らの状況を理解してくれたうえで、胸を借りる場所を作ってくれたので。UNISONとは過去にもお互いのライブに呼んだり、呼んでもらったりしていて。深く関わっているバンドとの対バンで新しい一歩を踏み出せたのも良かったと思います。

ーーライブの手応えはどうでした?

大胡田:いままでとは全然違う感覚でしたね。ドラマーが変わればバンド全体も変わるし、当然、聴こえてくる音もまったく違っていて。イヤモニのバランスも変えたんですけど、「それはそれで良い」という感じでした。生き物らしいなって。

ーーバンドは生き物ってこと?

大胡田:あ、それもありますね。バンドもそうだし、一つ何かが変わるだけでこんなに大きく変化するなんて、私たちは確かに生きてるんだなって(笑)。自分が周りを動かすのも楽しいですけど、周りによって自分が動かされるのもすごく新鮮でした。成長できてる気がするというか。1時間くらいのわりと長尺のライブだったし、最初は「どうなるだろう?」ってドキドキしてましたけど。

成田:手応えもありましたね。オーディエンスもすごく応援してくれたし、支えてくれてる感じがあって。そこに対しては僕らも全身で返していかないとなって。

■「『引き出しを増やす』という方向に意識を変えようとした」(成田)

ーーでは、新作『OTONARIさん』について聞かせてください。パスピエは作品ごとに変化してきたバンドだと思いますが、やはり今回の変化がいちばん大きいですよね。

成田:そうですね。4人でどうやって成立させるか? ということを考えたので。

ーー発想の転換も必要だった?

成田:はい。バンドの定義というか「そもそも今のパスピエはバンドと名乗れるのか?」と思っていたので。そこには不安も感じていたし、「今のパスピエって何だろう?」っていう。ライブにしても(サポート)ドラマーの力を借りないと成立しないわけじゃないですか。「今の自分たちはバンドとは言えないかもしれない」という現状とどう向き合えばいいか?ということはかなり考えましたね。

ーーバンドの定義って人によってかなり解釈が違いますけどね。

成田:実際、いろいろなスタイルのバンドが存在しますからね。ただ、パスピエに関して言えば「メンバーだけで成立させる」という意識があったので……。ライブでも同期(打ち込み)の音を使わなかったし、自分たちの音だけで音楽を作り上げてきたわけですけど、それが不可能になってしまって。そのことを前向きに捉えて「引き出しを増やす」という方向に意識を変えようとしてましたね。

露崎:そういう意識の変化がなければ、今回のミニアルバムはできてなかったと思います。制作中はどういう作品になるか今まで以上に手探りな部分もありましたし。完成したときに初めて客観的に捉えられたというか。「ここは狙った通りになった」という部分もあるし、いい意味で「裏切られた」と感じるところもあって。発見の連続だったし、すごくめまぐるしかったです。

三澤:作り方もまったく違ってましたからね。いままではスタジオで音を出しながらアレンジして、それをちょっとずつ詰めていく方法だったんですよ。でも今回はメンバーにドラマーがいないから、それができなくなってデータのやり取りが中心になって。すごく新鮮だったし、おもしろかったですね。

成田:メンバー全員、いままででいちばんMacBookと向き合いました(笑)。

三澤:本当にそう(笑)。送られてきたデータにドラムのフレーズを打ち込んだり、構成を変えたりして、「こういうのはどう?」って投げて、また返信が戻ってきて。

露崎:慣れない作業でしたね(笑)。かなり試行錯誤しました。

大胡田:アルバムを作ってるとき、ずっとそれをやっていたわけでしょ? 最後のほうはスムーズになったの?

三澤:(笑)。操作には慣れたよ。

大胡田:そうか。楽器チームがメールのやりとりをしてるのを見て、「がんばってるじゃないか」と思ってましたね(笑)。私もいい歌詞を書かなくちゃなって思ったし、最初の2曲をレコーディングしたときに、4人で音楽を作る形がだんだんできていくのを感じました。

成田:6月に「あかつき」をデジタルシングルとしてリリースしたんですけど、その後、「音の鳴るほうへ」と「EVE」をレコーディングしたんですよね。

ーー特にアルバムの1曲目に収録されている「音の鳴る方へ」からは、新しいパスピエを感じました。

成田:確かに「あかつき」は、今までのパスピエの流れを意識した楽曲ですからね。「音の鳴る方へ」と「あかつき」のどっちを1曲目にするかギリギリまで考えていたんですけど、このアルバムは自分たちの新しい決意でもあるし、やっぱり「音の鳴る方へ」がいいかなと。デモ自体はちょっと前からあったんだけど、それをもとにして、さっき言ったデータのやり取りでアレンジを固めていって。

三澤:そのやり方で作った最初の曲ですね。

成田:ドラムのフレーズも細かく決めて、基本的には「これを叩いてください」とお願いして。「音の鳴る方へ」のドラムはBOBOさんなんですが、すごくしっかり叩いていただいて。さすがでした。

露崎:メンバー以外のドラマーとレコーディングするのは初めてだったので、最初は不安もありましたね。長い付き合いのメンバーだったら「こう来たら、こうなる」というのが何となくわかるんですよ。でも、初めてのドラマーと合わせる場合、そのやり方は通じないので。アレンジ、リズムの捉え方もさらに堀り下げたし、制作の取り組み方も深くなったと思います。

成田:サポートドラマーの方が入ることで、第三者の意見をもらえることもありがたくて。“パスピエとして”ということではなくて、シンプルに“曲を良くするために”という視点から話してもらって、そこから新しいベクトルが生まれることも多かったんですよ。

ーー冒頭のベースのフレーズもめちゃくちゃカッコいいし、メンバーのプレイもしっかり活かされてますよね。

露崎:演奏するのは大変なんですけどね(笑)。他のパートもそうですけど、いままででいちばん難易度が高いんじゃないかな。

三澤:そうだね(笑)。まず、楽曲の完成度がすごく高いんですよ。細かいところまで詰めたし、1音1音をパズルように修正して。

成田:データのやり取りで制作すると、ソリッドになるんですよね。バンド全体で「せーの」でやると、いい意味で雑味もあって。それを含めて「いいね」という判断になるんですけど、今回はできる限り細かく作り上げたので。

ーー<答えを見つけたら 音の鳴る方へ>というフレーズも印象的でした。まさにいまのパスピエを象徴する歌詞だなと。

大胡田:この歌詞は成田さんとの共作なんです。「音の鳴る方へ」というタイトルとサビの歌詞をもらって、そこから私が書いたんですけど、今の自分たちと重なる部分もすごくありますね。聴いてくれる人に伝えているんですけど、自分たちに向かって言ってるようなところもあるというか。

ーーなるほど。ドラマーを入れず、成田さんがトラックメイクした「(dis)communication」「ポオトレイト」も完全に新機軸ですよね。

成田:そうですね。いままでのアルバムは全曲を通して同じエンジニア、同じスタジオで制作してたんですけど、今回は1曲1曲違うやり方で作ってみようと思って。7曲のうち5曲はBOBOさんと謙介くんに叩いてもらったので、残りの2曲はメンバーの4人だけで成立させたかったんですよね。それが今のパスピエを表現することにもなるかなと。

三澤:「(dis)communication」と「ポオトレイト」はトラックメイカー的な曲だと思いますが、そういう曲って普通はギターが入ってなかったりするじゃないですか。いろいろ考えて、イーボウを使ったりして、いわゆる普通のギターっぽくない音やフレーズでアプローチしました。

露崎:打ち込みのトラックに生のベースをどう組み合わせるかも、かなり考えましたね。生のドラムとベースとは違うやり方で楽曲のベーシックを作らなくてはいけなかったので。

ーー当然、ボーカルにも影響しますよね?

大胡田:そうですね。声をエフェクトしたことはあったけど、ここまであからさまにオートチューンを使ったのは初めてなので。派手で楽しいですよね。アルバムのなかにこういう曲があるのもすごくいいと思うし。

ーー大胡田さん、一貫して前向きですよね。新しい状況を楽しんでるというか。

大胡田:うん、新しいことをやるのは楽しいですよ。

成田:メンバーのなかで一番メンタルが強いのは大胡田なので(笑)。でも、こういうやり方もいいと思うんですよね。以前は「打ち込みっぽいことをバンドでやる」というアプローチを取り入れていて、4つ打ちの曲もけっこう多いんですよ、パスピエは。今回は新しい機材も導入して、自分たちなりのエレクトロサウンドを提示できたかなって。使っている音の種類も何でもアリだし、もっとおもしろいことができると思います。もちろん、リスナーのみなさんがどう思うかも大事ですけどね。「これが今のパスピエのおもしろさなんだな」と捉えてもらえたら、またトライしてみたいですね。

ーーライブの見え方も変わりそうですよね。

成田:そうですね。ライブでも打ち込みを使うのか、生バンドでアレンジするのか。ライブによって演奏のスタイルを変える可能性もありますからね。……メンバーにもいま初めて言いましたけど。

三澤・露崎 (笑)。

■「自分だけの言葉ではないし、背負うものも大きかった」(大胡田)

ーー一方では生バンドの躍動感を伝える「正しいままではいられない」もあって。このタイトルにも、今のパスピエの意志を感じました。

成田:音楽って、正しいことが正解だとは限らないと思うんですよ。僕らもいままでとは違うやり方で一歩目を踏み出したわけだし、その決意を込めた曲でアルバムを締めくくりたかったので。

大胡田:1曲目の「音の鳴る方へ」と共に存在している曲だなと思います。「正しいままではいられない」の歌詞も成田さんとの共作なんですが、自分だけの言葉ではないし、背負うものも大きかったですね。好き勝手に歌えないわけではないけど、自分ひとりで書いた歌詞を歌うときとは、また違った心持ちがありました。以前だったら、もうちょっと女の子!っていう感じで歌ってたかもしれないなって。。

成田:そうなんだ?(笑)。

大胡田:もういい大人ですから。年を重ねることで、発する言葉に自然と重みが出て来ることもあるだろうし。

ーー大胡田さんのボーカルもすごく力強くなってますよね。「あかつき」の低音ボイスも、いままではなかったんじゃないですか?

大胡田:声を低くしたいんですよ(笑)。下に響くほうが落ち着いて聴こえるし、説得力も増すんじゃないかなって。「低い声も出るんだな」「高い音もいいな」って思ってもらえるように練習してるんです、いま。これから曲のスタイルも変わっていくだろうし、自分のボーカルももっと広げていきたいなって。

ーー「OTONARIさん」というアルバムタイトルは「音の鳴る方へ」と重なってるんですか?

成田:そうですね。あとは誰かに向かって話しかけてる感じというか。何て言うか、立ち返った感覚もあるんですよね。パスピエはずっと音楽を伝えることを第一に考えてきたし、いままで応援してくれた人に対しても、これから応援してくれる人に対しても、音楽と楽曲を拠り所にしたいので。今回の作品でも、そのことはしっかり伝えたいと思いますね。

ーー大胡田さんが手がけているアルバムジャケットも“話しかけてる人”と“聞いてる人”ですね。

大胡田:はい。どちらも同じ女の子なんですよ、このジャケット。話すことと聞くことってすごく近いんじゃないかなって思って、同じ女の子を違うポーズで隣り合わせにしています。あと、以前のようなシンプルな絵を描きたかったんですよね。今回のアルバムは「もう1回はじめから」という気持ちもあるので、線と紙だけで表現したいなって。

ーー11月には新体制となって初めてのツアー『パスピエ TOUR 2017″OTONARIさんのONOMIMONO』が開催されます。

成田:今回の『OTONARIさん』と5年前に出したミニアルバム『ONOMIMONO』にフォーカスを当てたツアーですね。過去と現在、“これから”をつなぐ公演になると思います。

三澤:『ONOMIMONO』はメジャーから最初にリリースした作品なんですけど、今回の制作中に何度か『ONOMIMONO』のことを思い出すこともあって。ライブのためにはかなり練習が必要ですけどね、特に『OTONARIさん』の曲は。

露崎:どういう形になるかはまだわからないですけど、過去の曲の表現も変わってくるでしょうし。

大胡田:そうだね。メジャー最初の作品と最新の作品をどうやって混ぜるか、来てくれた人に「なるほど、こうなるのか」と納得してもらえるライブにしたいです。

成田:パスピエは4人体制になりましたけど、曲そのものは変わらないですから。過去の曲を切り離すわけではないし、全部をつなげながら、パスピエの音楽を広げていきたいんですよね。

(取材・文=森朋之)