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日本のサービス業の特徴ともいえる「おもてなし」。その作法をまとめた日本の飲食店のマニュアルなどが、中国の文書共有サイト「百度文庫」で閲覧可能な状態になっていると読売新聞が報じている。

読売新聞によると、マニュアルでは、「おじぎは上体を15度ぐらいを目安に折る」「会計ではお客様をせかすことがないよう財布がしまわれるまで待つ」などの接客作法が記されているそうだ。

中国での文書共有の実態はどうなっているのだろうか。また、おもてなしマニュアルの流出をどう考えればいいのか。遠藤誠弁護士に聞いた。

●中国では日本の接客は「やりすぎ」と思われている

過去に北京の事務所に駐在していたこともる遠藤弁護士は、日本の接客マニュアルや接客方法について、中国での評価を以下のように語る。

「日本の報道では、『日本人の接客は評価が高い』、『日本の接客方法を、中国が参考にしている』などとされているようです。たしかに、中国人が、日本人の接客方法を参考にすることが、全く無いとはいえません。例えば、中国にある日系企業や、日本人観光客や駐在員がよく行くレストランやホテルであれば、日本の接客マニュアルを参考にすることはあるでしょう。

しかし、中国の大多数のレストランやホテルがこぞって日本の接客マニュアルや接客方法を参考にする、というような動きはありません。日本人の接客方法は、あくまで日本でのやり方であって、中国でそのままの接客方法が用いられることはありえません。

中国では、日本人の接客方法は、細かな点まで決め過ぎていて『やり過ぎ』ととらえる見方の方が一般的です。日本には、日本式の接客方法があるのと同じように、中国には、中国式の接客方法があるのです。もちろん、中国で日本の接客方法が参考とされ、中国でのサービス向上に結び付くのであれば、むしろ歓迎すべきこととはいえるでしょう」

●マニュアル文書アップロードは「アピール」

中国の文書共有サイトで、日本の飲食店のマニュアル類を含むいろいろな文書が閲覧可能な状態になっている。なぜこういったことが起きているのか。

「中国の文書共有サイトにアップロードする人たちのほとんどは、自分がその文書を持っているということが誰かに知られたくて、自己満足のために行っているのです。今回のケースでいえば、おそらく、自分がその飲食店に勤務していた時に入手したマニュアルをアップロードすることにより、『自分はこんなマニュアルを持っているぞ』とアピールしたいのだと思われます。

文書共有サイトにおいて、もし文書の閲覧・複製が有料化されると、サイトの運営はほとんど成り立たなくなります。中国では、ネット上の情報は無料だという認識が一般的で、誰もお金を出したがらないというのが利用者の心理だからです。たまに有料のものもありますが、いずれもタダに近い金額で、そのネットでしか通用しないバーチャル貨幣(ポイント)で清算するため、営利目的はほとんどありません」

●中国のネット上では偽造文書も多い

中国の文書共有サイトには、どのような文書がアップロードされているのか。

「文書共有サイトは、誰でも簡単に利用できるものです。面白そうで、注目されそうなコンテンツの文書を持っている者が、サイトにアップロードしたいと思えば、簡単に公開できてしまいます。中国では、一般に、知的財産権意識が希薄であるため、自制はあまり期待できません。 文書共有サイトにアップロードされたもののほとんどは、実用的なものです。例えば、小中学生の問題集一冊丸ごとのコピーなどがあります」

権利者の要求により削除されることは無いのか。

「こういったものにはもちろん著作権があり、サイトで閲覧可能にすることは権利侵害にあたります。そのため、著作権者が権利を主張すればサイトからの削除を要求できるのですが、ほとんどの著作権者は気づいていないか、そこまで気にしていないかのどちらかです。著作権者から削除を要求されたため、サイト上には文書の題名だけが残っていて、クリックしても何も出ないことがよくあります。

また、『暴露文書』と自称するものもよくあります。が、そのほとんどは真実性が疑わしいものです。中国のネット上では、偽造文書を作成・掲載する風潮があり、一見、有名人や有名企業の本物の文書に見えるものの、実は偽造文書であるものがしばしば見受けられます。日本企業関連の内部文書やマニュアルだと自称している文書についても、必ずしも本物であるとは限りません」

●中国のネット上の情報削除は、日本よりも容易

もし日本企業の内部文書が無断で文書共有サイトにアップロードされた場合、削除の手続はどのように行うのでしょうか。

「著作権者が文書共有サイトの運営者に削除要求を行うと、サイトの運営側が個別に判断して削除するという仕組みになっています。ほぼ全てのサイトは、苦情申立てのメールを受け付けています。著作権侵害である旨を伝えれば、比較的簡単に削除してもらえます。

中国では、『表現の自由』が日本のように強くは保障されていません。そのため、中国のネット上の情報の削除自体は、日本よりもかなり容易に行われています。

著作権侵害の他に、営業秘密侵害を主張することも考えられますが、日本の接客マニュアルの中に、法的保護に値するほどの『秘密情報』が含まれていることは、あまり無いと思われます。日本の書店で一般に販売されている『接客』や『おもてなし』に関する書籍に記載されているような内容は、『秘密情報』とはいえません。

このことからも、日本の『おもてなしマニュアル』中国に流出した、というのは、ちょっと『騒ぎ過ぎ』のように思われます」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
遠藤 誠(えんどう・まこと)弁護士
1998年弁護士登録。2006〜2011年、北京事務所に駐在。2013年に、大手の法律事務所から独立し、「ビジネス・ローの拠点」(Business Law in Japan)となるべく、BLJ法律事務所を設立し、現在に至る。中国等の外国との渉外案件・知財案件を中心とする企業法務案件に従事。「世界の法制度」の研究及び実践をライフワークとしている。
事務所名:BLJ法律事務所
事務所URL:http://www.bizlawjapan.com