多くの事業者が禁止している名刺営業もこっそり行われている

 まずタクシー運転手が、とくに深夜の“ロング客”と呼ばれる長距離利用客に、自分の名前と連絡先(携帯電話番号やメールアドレス)などを記した名刺を渡し、「今度からは無線センターに電話せずに、直接電話ください」として、お馴染みさんになってもらうような営業行為を“名刺営業”と呼んでいる。

 現在では法人タクシーの運転手については名刺営業を禁じる事業者がほとんどとなっているが、深夜になると居酒屋やスナックなどへの無線配車(店から無線センターに電話が入り、無線連絡を受けタクシーがその店へ迎えに行くこと)が稼ぎ頭のひとつとなる地域では、会社に内緒で、名刺営業しているケースはまだあるようだ。

 ただ名刺営業はひとりだけでやっていると、お客さんが来て欲しい時間に迎えに行けないという自体も発生するので、だいたい複数の“仲間”で動き、自分のお客さんから連絡があっても迎えに行けない場合は、仲間に行ってもらうなどしているようである。個人タクシーではこの名刺営業は半ば当たり前のように行われているようで、やはり複数の車両でグループを構成してうまくまわしているようである。

 筆者も少し前に、1カ月に1度ほどは深夜に東京都心から東京隣接県まで、タクシーで帰ることがあった。道路わきで手を挙げてタクシーを停めて、車内に乗り込み行き先を告げ、ロング客とわかると運転手からはたいてい、「頻繁にこの時間にご自宅まで乗りますか?」とか、「いつも深夜乗るときはここからですか」と聞かれることが多かった。月に1度ぐらいでも、実際名刺を受け取ったことがある。

 もうひとつの名刺ネタが、“名刺乗車”。タクシー業界に詳しいA氏によると、「タクシーに乗ってくるお客さんのなかで、意外なほど料金を払わないひとが多い」とのこと。その際たるものが名刺乗車なのだ。

 東京隣接県の某所で聞いたのだが、地元の有力企業の経営者などが、タクシーを降りる際に、「持ち合わせがないので、明日会社に集金にきてくれ」と自分の名刺を渡すのだというのだ。A氏によると「単に持ち合わせがないというだけでなく、”名刺でタクシーに乗れるほど自分の会社はステイタスがある”と思い込み、それをひけらかすひとが多いようですね」とのこと。

 名刺乗車は少し前に聞いた話で、いまやクレジットカードやICカードなど、現金以外の支払い形態も増えてきているので、名刺乗車はかなり減っていると思われるが、“ステイタス自慢”で名刺乗車したがるひとは根強く残っているかもしれない。

 タクシーの世界はじつに奥深いのである。