9月16日、2年ぶりのパ・リーグ優勝を決め、胴上げされるソフトバンクの工藤公康監督(中央上)=埼玉・メットライフドーム(写真=時事通信フォト)

写真拡大

9月16日、福岡ソフトバンクホークスが2年ぶりにパ・リーグ優勝を決めた。優勝までの期間はリーグ最速を更新。強さの秘密はどこにあるのか。今年5月、ホークスは福岡に就航するスカイマークとの共同企画「タカガールジェット」をはじめた。就航記念の公開対談で、ホークスの後藤芳光社長とスカイマークの佐山展生会長は互いの「勝負の哲学」を明かした。白熱した対談の模様をお届けする(全2回)。

※本稿は、5月29日、三井不動産リアルティ福岡支店と西日本新聞社の共催により行われた公開対談と、対談後にプレジデントオンライン編集部が独自に行った両氏へのインタビューをもとに構成した。

■福岡に1日11便でも、認知度は70%

【佐山】福岡で調査すると、スカイマークの認知度は99%ですが、スカイマークが羽田−福岡便を運航していると知っている方は約70%でした。われわれが1日に11便を飛ばしていることを、福岡のみなさんにもっと知っていただきたい。そう考えて、ホークスとの共同企画を発案しました。昨年は神戸に「タイガースジェット」を飛ばしており、それに続く野球シリーズ第2弾です。

【後藤】慶應義塾大学理工学部の鈴木秀男教授が行っている「プロ野球のサービスに関する(満足度)調査」によると、昨年ホークスは12球団中1位でした。その理由は、おそらく一昨年に日本シリーズで優勝したからです。もちろん勝っても負けても「行ってよかった」と思っていただけるような工夫は大切です。ただ、地元の人から愛される球団になるためには、とにかく強くならなければいけません。

【佐山】私は中学から大学まで野球をしていましたが、特に中高と野球漬けで過ごしましたので、球団経営には憧れがあります。

【後藤】球団の収益のうちもっとも大きな割合を占めるのは広告費で、その次がチケット収入です。1試合あたりの平均来場客数は約3万6000人です。広告効果を高め、球場へ足を運ぶお客さまを増やすためには、やはりチームが強くなくてはいけません。

強くなるための方法はひとつではありません。そこで頼りになるのは、王貞治会長です。難しい判断に迫られたときでも、王会長の示した決断であれば、一致団結して取り組めます。たとえば、ドラフトで指名選手を迷ったとき、会長が「右」と言ってくだされば、みんな「右」でまとまることができますから。チームはまとまりがなければ、強くなれないと思います。

【佐山】やっぱり世界の王さんですね。ビジネスでも人生でも、時には勝算が不明なまま決断しなければいけないことがあります。そういうときは、決めたら迷わずにそちらに進むしかないですね。

スカイマークへの投資を決めたときも、確実な勝算があったわけではありません。ただ、初めてお話があったとき、まだやりようはあると思ったのと、2000人の方たちのお仕事と独立系の航空会社を残したいと思いました。民事再生の検討を開始してから決断までの猶予は4日間だけでした。経営状況は徹底的に調べましたが、4日間でわかることには限界もあります。その時点で決断していなければ、いまスカイマークという会社は存在していません。

■野球も経営も「勝負」である

【後藤】経営というのは結果がどうなるか、わかりませんよね。たとえば、僕らは部下に「方程式」をたとえに話すんです。xとyという2つのわからない数字は、式が2つあれば解が出せるんですが、経営とは、その式が1つしかないようなもの。ですから、さまざまな仮説を立てて、あらゆる近似値を想像しながら、「答え」のレンジを幅で押さえていくんです。その幅の中に自分たちが入っていれば、成功です。仮説を立てるのが、経営のいちばん楽しいところですね。そして、絶対に「結果」を出さなくてはいけません。

【佐山】学生時代の野球を思い出しますと、バッターボックスに立ったら、みんなが注目している。かつ、ピッチャーとバッターの勝負、チームとチームの勝負。どんなにラッキーでも勝てばうれしいし、どんなにアンラッキーでも負けたら悔しいんですよ。ビジネスも全く同じですね。結果が全てなので、経営者はもっともらしい説明ができなくてもいい、とにかく結果を出すことが重要なんです。

■利益はトントンでいい

【後藤】チームの戦績は、球団経営に直結します。昨年度はパリーグで2位、交流戦では1位でした。決算は9億円の黒字です。

【佐山】昔の球団経営は赤字が当たり前でした。これだけの黒字を出されるということは、やはり勝負の結果なんですね。

【後藤】チームが結果を出せなかった年の翌年は収益が悪いです。つまり、お客さんの期待値が下がってしまうんですね。われわれの収益を支えてくださっているのは、13万人のファンクラブ会員をはじめとするファンのみなさまです。ですから、われわれの根幹はリテールビジネスだと思います。重要なことは、収益よりもお客さまの満足です。ホークスの経営は利益トントンでいいと考えています。お客さまに楽しんでいただくために、選手の補強や施設の改築、ファンサービスなどで、9億円を使い切らなきゃいけないんです。

ソフトバンクが球団を持っている理由は、利益ではなく、ホークスというブランドを通じてソフトバンクグループという存在を理解していただくためです。ホークスというブランド価値を、ソフトバンクグループ全体のブランド価値につなげていきたいんです。

【佐山】 スカイマークは「安心・安全で、心地のよいサービスを、身近な値段で」というブランドを目指しています。スローガンは「日本一愛される航空会社」です。普通運賃は大手2社より約4割も安く、座席のサイズは大手2社と同じです。定時出発率と欠航率も国内トップクラス。遅れない→欠航がない→気持ちがいい→スカイマークに乗る、という循環で、企業ブランドを高めたいと考えています。

■目指さないと1位にはなれない

【佐山】野球の場合、優勝と準優勝では全然違いますよね。

【後藤】それはもう、全然違います。

【佐山】われわれも同じです。破綻以前のスカイマークは欠航や遅延が多かった。いまは「定時出発率日本一」を目指して、社内の全部署が業務改善に取り組んでいます。2016年4月から2017年3月までの月間ランキングでは、11社中トップ3に入っていて、2017年度は日本一になります。

すでに欠航率は日本一低い航空会社となっています。天候以外の欠航をなくすため、26機中1機から2機を常に予備機にしているんです。このため航空機の不具合があっても、予備機を飛ばせます。昨年4月から今年の3月までの欠航率は0.58%で、これは大手2社の半分以下です。

お客さまのイメージを刷新するには、定時出発率も日本一にしたい。トップクラスではダメなんです。こうした「1番」の価値は、物事全てに言えることだと思います。

■「選手層が厚すぎる」と言われるが……

【後藤】ホークスのスローガンは「めざせ世界一!」。たった6文字です。そのためには常に勝てるチームづくりが必要です。

人間のやることですから、選手はケガもしますし体調が悪くなるときもあります。そうした非常時に「だから仕方がない」ではダメなんです。主力の選手がケガや体調不良で出られなくても、それに負けないレベルの選手を試合に出す必要があります。

「選手層が厚すぎる」とご批判をいただくこともあります。でも、僕はそれでいいと思っているんです。うちはなぜ層が厚いのか。下で支えてくれている選手たちがものすごい努力をしているからです。彼らはそのものすごい努力をしないと試合に出られない。今年はデスパイネ選手が非常にがんばっています。あんなふうに選手が張り切ると、ほかの選手も「デスパイネを抜くぐらいホームランを打たなきゃ出られない」と発奮するわけです。

【佐山】「一生懸命やっていて、気づいたら日本一になっていました」ということはあり得ませんね。富士山は、富士山に登ろうと準備をして家を出てきた人しか頂上までたどり着けません。天気がいいので足を伸ばして富士山に登ってきましたという人はいません。

つまり、あるレベル以上難しいことは、やろうと決めないと達成できません。1位になろうと思わないと1位にはなれないということですよね。

【後藤】3年に1度優勝すればいいということであれば、もっとおおらかに若手に機会を与えられるかもしれません。でもうちのチームはそれではダメなんです。毎年優勝しないと、世界一にはなれませんから。

僕らフロントは「言い訳はナシだ」と申し合わせています。たとえば、主力選手が4人もケガで出られなくなった場合、優勝に響くんですよね。でも、それを「想定外だから仕方がない」と言ってはダメなんです。デッドボールを4人ともくらって4人とも休養日になってしまうことだってあり得るわけですが、それも想定して戦略を立てるのが、世界一をめざすチームのやり方です。「想定外」という言葉は絶対に使ってはいけないんです。

※後編では「勝つための時間の使い方」「孫正義と事業欲」について語り合います。

----------

後藤 芳光(ごとう・よしみつ)
福岡ソフトバンクホークス社長
1963年生まれ。一橋大学卒業。87年安田信託銀行(現みずほ信託銀行)入行。2000年にソフトバンク(現ソフトバンクグループ)入社。13年10月から福岡ソフトバンクホークス社長兼オーナー代行。ソフトバンクグループ専務執行役員財務統括も務める。

佐山 展生(さやま・のぶお)
スカイマーク会長
1953年生まれ。76年京都大学工学部卒業。94年ニューヨーク大学大学院(MBA)、99年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。帝人、三井銀行(現・三井住友銀行)勤務を経て、98年ユニゾン・キャピタルを共同設立。2008年インテグラル社長。15年より現職。

----------

(スカイマーク会長 佐山 展生、福岡ソフトバンクホークス社長 後藤 芳光 構成=三宅玲子 撮影=プレジデントオンライン編集部)