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綱取りの件はナイという方向でお願いします!

大相撲秋場所が大変なことになってきました。「稀に見る低レベル」どころではなく、相撲の歴史上最低のレベルにまで落ち込む可能性を抱いたまま、場所は佳境へと向かっていきます。僕はひとりの好角家としてワクワクしています。千秋楽、もしかしたら史上最低のドラマが見られるかもしれない。見たい。ぜひ見たい。

何も僕は他人の不幸を願っているわけではありません。常に言っているように「勝ち負け」は二の次であり、一番大事なのは面白いかどうかです。その意味で、今場所誰が優勝したところで、それはまぁわりとよくある話でしかありません。

しかし、「10勝5敗」という15日制が定着して以降で最低のラインでの優勝となれば話は別。過去には若貴時代に武蔵丸が一度、そして栃東のお父さんの栃東が一度、それぞれ11勝4敗での優勝を果たしています。それはそれで低レベルではありますが、今回のものとは事情が異なります。

まず、若貴時代の1996年九州場所は、貴乃花の全休という背景はありつつも、横綱・曙、大関・若乃花、大関・武蔵丸、大関・貴ノ浪、関脇・魁皇が激しいデッドヒートを展開したものでした。

中盤までリードしたのは横綱・曙。初日に武双山を相手に星を落とすも、その後は10連勝として十一日目を10勝1敗で迎えます。それに食らいついていたのは大関・武蔵丸。武蔵丸は四日目に土佐ノ海に不覚を喫しますが、こちらも十一日目を10勝1敗で迎えます。

一方、追い上げを見せたのは当時の二子山部屋勢。若乃花は序盤に魁皇・土佐ノ海に負け、さらに十一日目にも黒星として8勝3敗という状態。貴ノ浪は前半戦で4つの負けを喫し、優勝圏外の7勝4敗で十一日目を迎えていました。しかし、ここから終盤にかけて貴ノ浪が奮闘。直接のライバルとなる曙・魁皇・武蔵丸を次々に破り、あれよあれよと星を伸ばしていきます。

リードをしていたはずの曙は貴ノ浪、貴闘力(※野球賭博)、武蔵丸に次々に敗れ、千秋楽には4敗で追う立場に。千秋楽は3敗で若乃花、武蔵丸がトップに立っていましたが、貴ノ浪がまたも立ちはだかり武蔵丸を4敗に引きずりおろします。貴ノ浪は十四日目にも魁皇をトップタイから引きずりおろしており、とにかく誰かがトップに立つと「残念そこは貴ノ浪」と貴ノ浪が立ちはだかって引きずりおろすということを繰り返したのです。

そして千秋楽・結びの一番。4敗曙と3敗若乃花の戦い。若乃花は勝てば優勝。曙が勝てば4敗力士5人による決定戦という状況に。そこで曙が粘りを見せて勝った。これは低レベルというよりは、強い上位陣による壮絶な殴り合いでした。追う者が逃げる者を引きずりおろし、抜かれた者がしがみついて泥沼に引きずり込む。直近の2年で貴乃花が9度優勝するという「貴一強」の間隙をぬって生まれた、死闘だったのです。

↓今場所と一緒にしてはいけないすさまじい戦い!


最終的な番付で言えば「三横綱、二大関」の格の力士が潰し合っていたんです!

ハイレベルな低レベルだったんです!

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そして、もうひとつの11勝4敗の歴史。こちらは僕が生まれるはるか以前の1972年初場所でのこと。優勝したのは現在の玉ノ井親方(元・栃東)のお父さんである先代・栃東。この場所は大関格から大麒麟・前の山のふたりの休場者が出る場所でした。

上位陣の顔ぶれは大関・清國、大関・琴櫻(のちの横綱)、関脇・三重ノ海(のちの横綱)、関脇・貴ノ花(若貴のお父さん)、関脇・長谷川(最強の関脇)、小結・輪島(のちの横綱)、そして最高位の横綱には解説席の陽気なオヤジとしておなじみの北の富士がついていました。

本来なら直前の2場所を連覇中であった北の富士を中心に展開されていくべき場所でした。しかし、前年の末に親友でありライバルであった横綱・玉の海の逝去があり、その他ちょっといろいろあったものですから精神的にメタメタになり、7勝6敗という状態で北の富士は休場してしまったのです。

そんななか、前頭5枚目の地位でひっそりと星を伸ばしていた栃東は、4敗をキープしたまま終盤戦まで駆け抜け、千秋楽結びの一番に優勝阻止のために組まれた大関・清國との直接対決も制して逃げ切り。たまにある「泳がせておいたらそのままいかれた」パターンでの平幕優勝でした。

↓北の富士が急に弱くなるなんて思わなかったから!


この場所もひどいが、それでも上位勢同士の競り合いはそれなりにあった!

みんなで潰し合った場所だった!

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翻って今場所はどうでしょう。3横綱・2大関が休場するなかで、大関・豪栄道は10勝1敗と十一日目の時点で2差をつける大きなリードを築きながら、平幕力士に連敗するという自滅での混戦です。しかも、よくよく勝った相撲を見ると、変化で掠め取ったような相撲や手つき不十分で相手のタイミングをずらす相撲だらけで、総じて強くない。

しかも、休場が多いせいで「自分と同格以上の力士とはひとつも対戦していない」という状態です。誰かと潰し合ったのではなく、ひとりで勝手に潰れてきて大混戦にしてしまっている。褒めるところがひとつもない単独トップというのは、なかなか珍なるものです。

↓改めて豪栄道の今場所を振り返ると、とにかくひどい!
●初日:琴奨菊★
琴奨菊の変化にまったくついていけず。解説席の北の富士は自分のことはひとまず棚に上げて「頼りにならんねぇ」とため息。

●二日目:北勝富士☆
力強い立ち合いから押し出して勝ち。

●三日目:嘉風☆
苦手の嘉風をにらみつけながらの仕切り。先に手を突いて待つ嘉風を、手つき不十分の立ち合いから変化ではたき込んで沈める。お客は「アーーー」。

●四日目:栃ノ心☆
この日も左手をまったくつかない手つき不十分の立ち合いから、左に大きく変化して、最後は押し出し。解説の北の富士は「プライドは捨てましたねぇ」とまたもため息。

●五日目:千代大龍☆
待ったなしと言われてから二度、手をつくことができずに立ち合いが成立しない格好に。大関が待ったする展開には、実況も驚きの声。三度目でようやく立ち合うと、土俵際まで押し込まれながら大きく左にかわして突き落とし。

●六日目:阿武咲☆
注目の若手との取組は、この日も手つき不十分。しかし、自分のタイミングで立っているのに当たり負ける。それでも押し込まれながらもかわして逆転するという連日のパターンで白星とし、場所の盛り上がりに水を差す。

●七日目:正代☆
引きつづき左手は下方向に振り下ろすだけの立ち合いでタイミングをコントロール。強く当たって一気の攻めで完勝。

●八日目:玉鷲☆
この日の玉鷲は「こっちも同じことやってる」とばかりに、片手をついた状態で立たずに粘る嫌がらせ。しかし、最終的にはガマンできずに手をつく玉鷲。豪栄道は地面につかずに浮かせたままの左手で鋭い張り差しを繰り出すテクニックでこの日も完勝。

●九日目:碧山☆
手をつかず、立ってかわして、突き落とす。

●十日目:栃煌山☆
栃煌山は「手をつかずにじらす」というパターンで立ち合いのタイミングコントロール勝負を仕掛けるも、「じゃ、お先に」と豪栄道がパッと手を振り下ろし、手つき不十分の立ち合いでそのまま完勝。

●十一日目:御嶽海☆
さらに鋭さを増す手つき不十分の立ち合い。この日も「右手だけをついて相手を待たせ、左手を振り下ろすと同時にパッと立つ」という、自分のタイミングでの立ち合い。「ついて⇒立つ」ではなく「アッパーのように手を下から振り上げながら⇒立つ」のがコツ。

●十二日目:松鳳山★

2差をつけてほぼ優勝か?という空気のなか、緊張感走る土俵。立ち合いで二度動けず、松鳳山がつっかけてくる格好に。ついには手を下につく意識すらなくなった豪栄道は、手を前に伸ばして立つというインチキ手つきを実践。引いて勝とうとしたら、相手に逆に引き返されてバッタリと落ちるひどい負け。

<まるで昭和の相撲のような空中手つき立ち合い>


●十三日目:貴景勝★
前日の空中手つきを誰かに注意でもされたか、しっかりと手をついて立ったら立ち合いで貴景勝に当たり負け。北の富士は「足がもつれてる」とまたもため息。

総じて言えば「そんなに強くない」という印象!

いつも通りの力関係で上位勢がいれば、9勝6敗くらいで終わっていた場所では?

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5敗となるとあとふたつ、つまり全部負けるということになりますので、さすがにそれは難しいかもしれませんが、もう期待感は日馬富士の逆転へと真っ直ぐに向かっています。自滅でもつれただけのだらしない優勝よりも、思い切って振り切った「史上稀に見る低レベルでの大逆転」のほうが、面白味もあるというもの。それが5敗なら、珍しくて面白いものを見たという自慢にもなります。

そして、結果が出たあとで言うと、後出しのようなので先に言いますが、今場所仮に豪栄道が優勝したとしても、来場所は綱取り場所にはならないでしょう。今場所はノーカンです。内容も、姿勢も、結果も、どれも横綱には値しません。とても「品格・力量抜群」ではない。1敗のまま走り切ったならともかく、平幕に3つ負けて同格以上の力士とはロクに対戦もない状態で「品格・力量抜群」はないでしょう。

名古屋場所で負け越しての角番という状況も踏まえれば、今場所優勝して、来場所も優勝したら、来年の初場所で1差の優勝次点くらいで仕方なく綱取りかなぁというところ。この辺りは、理事長あたりも早めに牽制しておいたほうがいいと僕は思います。もしも豪栄道が優勝したら、その瞬間に「その栄誉をたたえ、賜杯にその名を刻すとともに、来場所の綱取りはない」と流れるように言ってしまうくらいでいいでしょう。時間をおけば世間に多い「二場所連続優勝=横綱」と思っている勢への説得力を失っていきます。

昨年の秋場所での全勝優勝を含めて、豪栄道が直近一年で積み上げた勝ち星は50しかありません。全勝優勝を入れて一年で50しかないのです。まず、そのベーシックな実績・信頼を積み上げることから始めなくては。日馬富士も言っています。横綱の勝ち越しは10勝であると。6場所60勝、これが最低ラインです。「1回や2回優勝したところで綱取りはない」、優勝後の祝賀ムードに水を差すのは恐縮なので、あらかじめ強く申し添えておきたいと思います。

とりあえず空中手つきはやめて、手をついてしっかり立つように!