初の「3ナンバーになった」スイフトスポーツ

初の3ナンバーボディに、初のターボエンジン

2016年にモデルチェンジで4代目に進化したスズキのコンパクトカー「スイフト」。そのスポーツモデルである「スイフトスポーツ」が9月13日、新型に切り替わった。フランクフルトモーターショーでの世界初公開に合わせた発表だった。

新型スイフトスポーツはタイヤの上にあたるボディのフェンダー部分を張り出すことで、全幅を標準車の1695mmから1735mmに拡大した。標準車は「5ナンバーサイズ」だったが、スイフトスポーツは日本で販売されるスイフトでは初の「3ナンバー」になった。加えて、同車種としては初のターボエンジンを採用した。

初の3ナンバーボディ、初のターボエンジンであることが話題となっている新型スイフトスポーツだが、この2つのポイントがスズキの世界戦略と関係があることをご存じだろうか。


普通のスイフト

日本で販売するうえでやはり5ナンバー枠に収まるかどうかは大切だ。日本の自動車業界では全長4700mm、全幅1700mmに収まる乗用車を「5ナンバーサイズ」と呼ぶ。5ナンバーとはたとえば「品川501〜」「神戸530〜」など、ナンバープレートの登録地域に続く番号。正確にはガソリンエンジンの場合で排気量2000ccを超えると、5ナンバーサイズであっても3ナンバー(「品川301〜」「神戸330〜」など)で登録されるものの、狭い日本の道路になじみやすい車体サイズとして、ユーザーにも認知されている。

スイフトスポーツの全長は3890mmで標準のスイフト(3840mm)よりも少しサイズアップしているが、それでも4メートルにも満たない小さな車。国産車ならトヨタ自動車「アクア」、日産自動車「ノート」、ホンダ「フィット」などと近いサイズとなる。そんなスイフトスポーツが「3ナンバー」だというのだから、日本人にとってみれば驚きかもしれない。

ただ、もともと海外で販売されている標準型スイフトを日本に持ってきて登録すれば、やはり3ナンバーになる。両者のフェンダーは共通だからだ。スイフトは以前からグローバル車種として展開しており、インドなどでも生産される。販売台数では日本よりインドや欧州のほうが多い。

海外には5ナンバー枠などの規定はなく、ボディデザインとして自然なのだ。さらに日本で展開するスイフトスポーツは走りのイメージが強く、それを強調するデザインが欲しい。そこで海外向け標準車と同じフェンダーを与えたようだ。


スイフトスポーツのインパネ

「スイフトスポーツは専用設計のデザインではなかったのか」と思うクルマ好きがいるかもしれない。しかし個人的にはスズキらしいモノづくりだと考えているし、2種類のフェンダーを使い分けているのは日本のみであるわけで、スズキは日本にだけきめ細かい差別化をしていると好意的に見ることもできる。


インドで生産されている4ドアセダンの「ディザイア(DZIRE)」

実はスイフトにはもう1つボディバリエーションがある。アジア諸国向けとしてインドで生産されている4ドアセダンの「ディザイア(DZIRE)」だ。

ディザイアは2008年から存在している車種だが、旧型はスイフトの後部に箱を追加したようなスタイリングだったのに対し、新型はキャビンの造りも別物であり、インパネもまったく異なる。

基本設計を同一としながらきめ細かい作り分け

専用設計の車種だと一瞬思うが、フロントまわりは共通点が多い。全幅やホイールベースの数値も同一だ。こちらもまた、基本設計を同一としながらきめ細かい作り分けがなされている。


インドからの逆輸入車、バレーノ

さらに言えば、同じプラットフォームは日本でもインドからの輸入車として2016年から販売されている「バレーノ」にも使われている。全長に余裕を持たせ曲線を多用したスタイリングを持つバレーノはゆったり乗れるクルマ、スイフトは走りを楽しむクルマという性格分けをしているようだ。

もう1つ、スイフトスポーツ初となった1.4L直列4気筒ターボエンジンも、グローバル戦略の中で生まれた。このエンジンはスイフトスポーツに先駆け、今年7月に小型SUV「エスクード」に搭載して日本でも発売されたが、ダウンサイジングターボの本場といえる欧州では2年前の2015年から、同じエスクード(現地名「ビターラ」)に設定されていた。

しかもこの1.4Lターボエンジンは、標準型スイフトに積まれている1L3気筒ターボと近い関係にある。エンジン内のシリンダーボア(内径)の数字は73mmで共通となっており、ストローク(行程)を1Lは79.4mm、1.4Lは81.4mmと微妙に変えるとともにシリンダー数を変えることで、2つのエンジンを生み出している。


スイフトスポーツのエンジン

エンジンの型式名も1.4LターボはK14C、1LターボはK10C型であり、同じ系列であることがわかる。さらに標準型スイフトに用意される自然吸気の1.2L4気筒もK12C型であり、ボアの数字も同じだ。

過去2世代のスイフトスポーツは、いずれも自然吸気の1.6L4気筒を積んでいた。こちらの形式名はM16Aであり、2000年登場の初代スイフトに積まれたM13A型をルーツとする、1世代前のユニットだ。ターボ化と同時にエンジンの世代交代を果たしたことにもなる。

ホットハッチと呼ばれる高性能ハッチバックは欧州で人気が高い。その欧州では、いわゆるダウンサイジングターボがトレンドになっている。欧州の道は日本と比べると発進停止が少なく、一度街を出れば次の街まで相応のスピードで飛ばせるという場面も多い。こうした道路状況ではダウンサイジングターボのほうが高性能と低燃費を両立しやすい。

よってこの分野の先導役を務めたフォルクスワーゲンのゴルフ/ポロGTIをはじめ、多くのブランドのホットハッチがターボエンジンを積んでいる。スイフトスポーツのターボ化はこの点からも納得できる。

日本よりも世界を見つめた戦略か

トランスミッションについては、日本では6速のMT(マニュアル)とAT(オートマチック)が用意される。2ペダルについては先々代が4速AT、先代がCVT(無段変速機)だったから、2回連続で変更したことになる。

日本では多くの車種に搭載されているCVTだが、このトランスミッションは「ラバーバンドフィール」と揶揄される直結感の薄い運転感覚に加え、大きな変速比を取りにくいことから、鋭い加速や高速燃費が重視される欧州では好まれない。

さらにCVTはプーリーをスチールベルトで回すという構造上、大荷重も苦手とすることから、過酷な使用が想定される新興国にも向いているとは言いがたい。軽量かつ低速移動が多いスクーターや軽自動車にふさわしい。

スズキはMT、MTを2ペダル化したAGS、CVT、そしてATと、会社の規模を考えれば多くのトランスミッションを使っている。以前エンジニアの方に聞いたところ、グローバル展開する小型車では、CVT以外を主力としていきたいとのことだった。

その言葉を思い出してスイフトのスペックを見ると、CVTは標準車のガソリン車とマイルドハイブリッド車に使っているだけで、スイフトスポーツ以外に1Lターボ車もATを組み合わせ、今年7月に追加されたフルハイブリッド車はAGSを採用している。CVT比率が低くなっていることがわかる。

日本よりも世界のことを見て開発されたことが濃厚に伝わってくる新型スイフトスポーツ。日本のクルマ好きから見ると残念に思える部分があるかもしれないが、日本生まれのホットハッチが本気で世界に戦いを挑む姿は頼もしさを感じる。欧州などでの人気が得られればなおさら喜ばしい。