「スピードゴルフ」はゴルフとランニングを組み合わせた新しいスポーツだ(写真:ゴルフダイジェスト・オンライン)

「10秒前……5、4、3、2、1、スタート」

合図と同時にティーショットを放ったゴルファーが駆け出す。 フェアウェーに飛んだボールに駆け寄り、2打目を打ってまた走り出した。

9月4日、茨城県土浦市にあるワンウェイゴルフクラブで「スピードゴルフオープン2017」が開かれた。

「スピードゴルフ」は、ゴルフとランニングを組み合わせた新スポーツだ。通常のゴルフが18ホールの打数を競うのに対し、打数とタイムの合計スコアで競う(いずれも少ないほうが上位になる)。

たとえば、18ホールで打数が90、タイムが60分だとするとスピードゴルフスコア(SGS)は150となる。つまり、1打と1分が等価になる計算だ。もちろん歩いても構わないが、SGSをよくするには、必然的に「走る」ことになる。

使えるクラブは7本まで

スコア以外でも「ゴルフ」との違いはいくつかある。使えるクラブの本数は、ゴルフの最大14本に対してスピードゴルフは最大7本。キャディーやカートは使わずに、自分で持ち運ぶ。ほかにも、グリーン上ではピンを抜かずにパットを行う(グリーン上は走ってはいけない)、1人(通常のゴルフは2〜4人)で回る(走る)といった違いがある。

今大会で優勝した松井丈選手のSGSは127.23。18ホールを81打、46分23秒で回った。

ゴルフをしない人には、このスコアがどの程度かピンとこないかもしれない。アマチュアゴルファーで最も多いのは打数100前後とされる。また、ゴルフ場側が゙9ホール”を回る時間として推奨しているのは2時間15分である。

SGSが127.23なのは「超絶すごい」。実は、松井選手は第1回大会から今大会まで4連覇を果たした日本のスピードゴルフ界の第一人者である。なお、今大会の参加69選手の平均は97打、71分46秒、SGS168.46だった。


優勝した松井選手。SGS127.23は「超絶すごい」(写真:ゴルフダイジェスト・オンライン)

ちなみに、世界記録は米国のクリストファー・スミスという人が出した65打、44分06秒のSGS:109.06。こちらは完全に想像の域を超えている。

今大会を主催するのは、インターネットのゴルフ総合サイト「GDO」を運営するゴルフダイジェスト・オンライン。同社は2014年に第1回大会を開催し、その後も各種イベントを開くなど、日本でスピードゴルフの普及に努めてきた。

日本スピードゴルフ協会会長でもある石坂信也社長は「新しいゴルフの楽しみ方を提案したい。ゴルフを身近に感じてもらい、ゴルフ人口の拡大と市場活性化につなげたい」とその狙いを語る。

20年でほぼ半減、近い将来にもう一段縮小

石坂社長が危機感を持つのも無理はない。ゴルフ市場(用品、ゴルフ場、練習場)は長期右肩下がり。1991年の約3兆円から2015年は1.3兆円にまで縮小してしまった(日本生産性本部刊「レジャー白書2016」より)。

市場縮小はゴルフに限った話ではない。1995年とその20年後の2015年の市場を比較すると、ゴルフは52%、スキー・スノーボードなど(用品、施設)は35%、テニス(用品、施設)が70%、スイミングは46%、ボウリングは37%と半減以下も珍しくない。

ゴルフ産業の関係者にとって、ほかのスポーツも厳しいことを知っても何の慰めにもならない。しかも、ゴルフ市場は近い将来にさらなる急縮小が予測される。

ゴルフ人口(コース利用者)に占める60代以上の割合は48.4%に達する(同白書)。ほかのスポーツよりも圧倒的に高い。ゴルフは「年寄りのスポーツ」なのだ。

数年前には、ゴルフ人口の中心を成す団塊の世代が65歳を迎えることで市場が急減する「2015年問題」が深刻に語られたが、割安な平日にゴルフ場へ行くプレーヤーが増えたため、底割れは起きなかった。だが、コア層が70代を超える近い将来、市場が一気に縮小することは容易に想像できる。

近年、業界でもゴルフ人口拡大への取り組み、特に若者へのアピールに力を入れている。またバブル期には平日でも3万円したプレー代は、バブル崩壊から四半世紀経った現在では平日なら昼食付き5000円台も珍しくないなど、多少は身近になってきた。

それでも「まだ料金が高い」「コースは遠く交通費もかさむ」「プレー時間が長い」「ドレスコードなどが堅苦しい」「年寄りのスポーツ」といったマイナスイメージの払拭には至っていない。

石坂社長が言うように、スピードゴルフはゴルフ人口拡大につながるか――。結論から言えば、課題は山積みだが活性化のヒントは間違いなくある。

今大会の会場となったワンウェイゴルフクラブの加藤一夫総支配人は「通常営業で、ゴルフとスピードゴルフのお客様が共にプレーするのは難しい」と感想を述べる。プレースピードが違いすぎるので、ゴルフ場側が対応できないからだ。

スピードゴルフの専用日や専用コースを設けるという考えはあるが、1人で回る正式競技となると、プレー時間=コース占有時間は短いとはいえ、ゴルフ場側としては通常営業より収入が減ってしまうことも悩ましい。

スピードゴルフ自体のハードルも高い。ランニングが趣味でも、まったくのゴルフ初心者には難しく、反対に大のゴルフ好きでも、体力・走力に自信がなければ二の足を踏んでしまう。

通常のゴルフでは感じられない達成感

一方、活性化のヒントとなるのは、スピードゴルフの考え方だ。

今大会では通常のゴルフと同じように、4人1組で回るエンジョイ部門も行われた。平均スコア100というアベレージゴルファーの゙アラフィフ記者”が、こちらを体験してみた。

正式競技と異なり、エンジョイ部門では全員が打ち終わってから走り出す。以降も原則として、カップから遠いプレーヤーが打つのを待って走る。ほかのプレーヤーが打つ瞬間は止まるので、多少の休憩はできる。


通常のゴルフでは感じられない達成感がある(中央左が記者)(写真:ゴルフダイジェスト・オンライン)

それでも、走り続けるのはそうとうきつい。ひざや太ももだけでなく、クラブを持って走る腕が意外に疲れる。後半はふくらはぎがつりそうになり、走っているのか歩いているのかわからない状態だった。なんとか走り切れたのは、ほかのメンバーと励まし合ったからだ。

最後のパットを沈めた直後に倒れ込みそうになった。が、すがすがしさと達成感は通常のゴルフでは感じられないものだった。

記者は少しでも荷物を軽くするため、クラブはパターを含めて4本で回った。スコアは106で胸を張れたものではないが、普段と大して変わらない。

「素振りをしなくても、ラインを読まなくてもゴルフはできる」と石坂社長。つまり、スピードゴルフは、゙こうでなくてはいけない”というゴルフの常識から解き放たれるきっかけになるのだ。

ゴルフは道具にカネがかかるスポーツだが、クラブを減らせば費用は抑えられる。練習用バッグで事足りるので、電車でコースに行くことも容易だ。ゴルフへのハードルを間違いなく下げてくれるだろう。

ゴルフ用品メーカーにとっては痛いかもしれないが、大会に参加していたゴルフ用品メーカー社員は「プレー人口が増えてくれるほうがありがたい」と前向きだった。

ゴルフ場の運営へのヒントもありそうだ。わがチームのタイムは、1時間38分44秒だった。もう少しゆっくり、小走りしたとしても、2時間半で回れるだろう。

スピードゴルフの要素を取り入れれば、ゴルフ場の回転率を2倍近くにできる計算になる。安全確保やコース管理など解決しなくてはいけない課題が残るとはいえ、装置産業のゴルフ場の追加コストはあまりかからないので、プレー代引き下げ余地も出てくるはずだ。

まだまだスピードゴルフの知名度は低い。「エンジョイ部門」を含めて体験する機会をどう増やしていくか。市場縮小に危機感を抱くなら、業界を挙げて取り組んでもいいはずだ。