【結城康平コラム】TACTICAL FRONTIER

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サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか?すでに世界各国で起こり始めている“ 戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。

文 結城康平

 欧州フットボールと日本人の距離は、SNSの発展によって急速に近づいた。両者の果てしない距離を、世界を繋ぐインターネットは極限まで狭めてくれる。

 日本にいながらにして試合中の詳細な情報を手に入れるのは簡単なことではなかった。頼りになるのは実況や解説だが、自分が知りたいことだけを話してくれるわけではない。応援している選手に触れられないまま、試合が終わってしまうこともあったはずだ。

 しかし、SNSでは試合に関する情報がリアルタイムで飛び交い、公式アカウントが画像付きでスターティングメンバーを発表してくれる。筆者がスコットランドに住んでいた数年前、高台からスタジアムをのぞいて試合観戦していた地元の若者たちが、スマートフォンを見ながらスタメンをチェックしていた姿が印象的だった。試合開始の1時間前にはフットボールを愛する世界中の人々が小さな画面をのぞき込むのだ。

スタジアムの空気を味わえる観客席

 スタジアムを埋めるサポーターはそれぞれが携帯電話で動画を撮影し、間髪入れずにSNS上に拡散する。練習中の選手の状態などをスタジアムで観戦中のファンがリアルタイムで教えてくれるのだ。また、プロのジャーナリストも積極的にTwitterなどで情報配信する。彼らは記者席から選手の状態や監督のコメントだけでなく、サポーターたちがどのように反応しているかなども事細かに教えてくれる。

 EURO2016のアルバニア対スイスでは、両代表に別れたジャカ兄弟の母親がスイスとアルバニアの国旗を半分ずつ貼りつけた特製Tシャツを着て応援席に座っていることが注目を浴びた。これはスタジアムのいたるところに情報発信者がいるソーシャル時代ならではのニュースだ。

The mother of the Xhaka brothers representing for both sons in Albania v Switzerland. pic.twitter.com/b9ICQvXAFq- SPORTbible (@sportbible) 2016年6月11日

 同大会では記者が「ファンが試合中に歌っているチャント」を動画や写真とともにレポートすることも多かった。EURO2016のベストチャントは、北アイルランド代表サポーターが歌った“ウィル・グリッグは燃えている!!”だろう。相手チームのサポーターも一緒になって、フランスの街中でこの曲を楽しむ姿がSNS上にあふれた。そうした現地サポーターや記者をフォローすることで、現地でしか味わえないはずのスタジアムの雰囲気が、様々な情報とともに疑似体験できるのだ。当然感動の深さはリアルな体験と比べものにならないかもしれないが、距離感は確実に縮まっている。

Northern Ireland fans after beating Ukraine. Will Griggs on fire....Na Na Na Na (@ColinMurray) #NIR #Euro2016 pic.twitter.com/xF2PWTlSJO- The Fans View (@FansView_) 2016年6月17日

 試合後のコンテンツも充実の一途をたどる。テレビ放送では入り切らなかった選手や監督のインタビューを現場にいる記者がSNSを使って配信し、選手自身が個人アカウントを使って生の声や写真を届けてくれることもある。「ここがもう一度見たい!」というハイライト映像も、SNS上ですぐに見られる。昨季のCL決勝後には、主審のクラッテンバーグが舌を出し入れしていた映像に多くのサポーターや記者が注目し、あっという間に動画が作られた。舌を出し入れするクラッテンバーグと口の周りを舐める羊を組み合わせた動画はコミカルで、思わず笑ってしまうようなものだった。

あなた専用のニュースサイト

 移籍期間に様々な情報が飛び交うのも、欧州サッカーの醍醐味の一つ。SNSはその楽しみを何倍にも増幅してくれる。移籍が正式発表される少し前に、メディアが次々に移籍のニュースを発表していくのを見ているとワクワクすることだろう。特にイングランドでは、信頼性の高い『BBC』、高級紙の『インディペンデント』、『ガーディアン』、『タイムズ』、タブロイド紙と呼ばれる『サン』、『デイリー・メール』、『デイリー・ミラー』といった情報筋がピラミッドのように連なっている。デマや雑な情報も多いが、情報量と速報性はタブロイド紙の強み。まずタブロイド紙が情報を発信し、徐々に後追いで高級紙がサポートするように真実に近づいていき、最後に『BBC』が報道して公式サイトが発表する、という流れで移籍が確定する。嘘だと思っていた情報が少しずつ他の媒体に広がっていくことで、サポーターの熱量も高まっていく。様々な噂に踊らされ、期待しながら愛するチームの動きを見守るのはリアルタイムのエンターテインメントだ。

一流のエキスパートが集う分析室

 試合中にリアルタイムで選手のデータを配信してくれるデータ分析サイトも観戦を豊かにしてくれる。テレビではハーフタイムと試合終了時にしか確認できないようなスタッツも、自分が見たい時にチェックできる。『Whoscored』、『Squawka』、『FourFourTwo』の『Statzone』のような高質なデータ分析サイトは、実際にプロの指導者や記者などにも重宝されている。

 各サイトで働くデータ専門家は個人アカウントを持ち、試合中にSNSで積極的にデータを届けてくれる。例えば、詳細な選手データは試合の見方を変えてくれる。相手チームに知らない選手がいても、簡単にデータを調べられる。ゴール数やアシスト数だけでなく、プレースタイルなどの情報まで即座に知ることができるのだ。

 データを見るのが好きであれば、サッカー系の統計学者や『Opta』で働くスタッフのアカウントをフォローしてもいいだろう。彼らの扱うデータは時に複雑だが、だからこそプロの分析担当者が生きる世界を垣間見られる。

 統計データの楽しみ方の一例を挙げてみよう。3位も成績次第でグループステージを突破できる可能性があるという新レギュレーションに変更されたEURO2016だが、統計学の専門家が計算した結果、「0-0を3回続ければ87%の確率で決勝トーナメントに進出できる」ことが証明された。それに伴って統計学者は「グループステージは守備的になるだろう」と予測していた。それを知ってからEUROを再度観戦すると、試合の見方も変わってくるのではないだろうか。