睡眠には脳の老廃物を除去する働きがあるという研究結果が報告されるなど、睡眠は脳の休息や回復と深い関わりを持っていることがこれまでの研究から分かっていますが、一方で「なぜ生物は眠りを必要とするのか?」という厳密な理由は2017年現在も研究中であるところ。そんな中、大学院生たちが「脳のないクラゲにも眠りがあり、眠るのに脳は必要ない」という研究結果を発表しました。

The Jellyfish Cassiopea Exhibits a Sleep-like State: Current Biology

http://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(17)31023-0

Brainless jellyfish could reveal why we sleep - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/news/speaking-of-science/wp/2017/09/21/scientists-just-discovered-the-first-animal-without-a-brain-that-sleeps/

この研究を行ったのはカリフォルニア工科大学の大学院生であるMichael Abramsさん、Claire Bedbrookさん、Ravi Nathさんの3人。神経生物学について研究するBedbrookさんがあるとき歩いていると、AbramsさんとNathさんが「クラゲは眠るのか」について議論しているところに遭遇したことから、今回の研究がスタートしました。3人の大学院生は監督者である教授に自分たちが行っている内容を告げず、夜な夜な研究室でクラゲの実験を行っていたそうです。「どう考えても頭のおかしいことを始める時は、誰かに話す前にまずデータを取るのがいいんです」というのはAbramsさんの言葉。



「動物はなぜ眠るのか?」ということは、いまだ科学によって明らかにされていません。野生動物の場合、眠っているときに捕食者に襲われれば一巻の終わりです。また、空腹時に眠ることで食べ物を得るチャンスを逃してしてしまう可能性があり、自然選択説の観点で言えば眠りのメリットは「眠ること」以外にないと言えます。しかし、多くの生物がいまだ眠りを必要としていることから見ても、生き物にとって睡眠は重要です。生物にとって睡眠が不要なものであるならば、生物たちはとっくの昔に眠ることをやめているはずですが、これまでに行われた研究で、眠りを奪われた生き物の多くが死んでしまうことが示されています。そしてこれらの実験の結果から、睡眠は脳を休めるという目的があると考えられてきました。

一方で、Abramsさんらが今回実験の対象に選んだサカサクラゲは脳を持たず、神経細胞からなるネットを体に張り巡らせている原始的な生き物です。口ではなく触手にある孔から食べ物を吸収し、光合成によってもエネルギーを生成することもあります。

Abramsさんらはサカサクラゲが眠っているかどうかについて、3つの実験で確かめました。

まず、Abramsさんらは昼間と夜間におけるクラゲの活動状態を観察。23匹のクラゲを6日間にわたって観察し、傘の部分を開閉する動きをカウントしたところ、昼は20分当たり1155回だったのに対し、夜間は3割少ない781回だったとのこと。一方で、夜間であってもクラゲのタンクの中にエサを入れるとクラゲが活動的になったことから、「夜間のクラゲは不活性状態であるが、マヒあるいは昏睡状態ではない」と結論づけられました。



次に、タンクの中に取り外し可能な底を入れ、底を上げたり下げたりする実験を行うと、昼間であればクラゲはすぐに泳いで底に戻りますが、夜間は5秒ほど奇妙な形で漂った後に突然目覚めたように底に向かって泳ぎ始めたとのこと。さらに、夜間に20分ごとにクラゲをつついて睡眠の邪魔をしたところ、まるで寝不足の人のように翌日の昼間にぼんやりと水中を漂うようになり、次の夜にはより深い眠りを見せるようになったそうです。

一連の実験を行ったあとに、Abramsさんらが生物学者であるPaul Sternberg教授に実験結果を報告すると、Sternberg教授は実験を続けられるように部屋を提供しました。「クラゲは我々が『原始的な神経系を持つ』と考えていた生き物であり、この実験結果は非常に重要です」とSternberg教授は語っています。

ペンシルバニア大学の睡眠・概日神経生物学センターの代表であるAllan Pack氏は「これまでに観察された他の生き物も、眠りのような状態を示しました」と語っており、研究結果それ自体は驚くものではないとしつつも、クラゲの眠りの状態を明らかにすることは「眠りの基礎」を示すこと、また「生命の歴史の中で比較的初期の生き物における『体力保存』の行動がどのようなものであるか」を示した点において重要だと語りました。なぜ単純な神経のネットしか持たないクラゲが睡眠を必要とするのかを理解することは、人間における眠りの機能の解明につながりうるとのことです。