高価なbling。

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 国外に住むようになった時、最初に直面するのが生活習慣の違い。言葉ができても、歴史を理解していても、こればかりは実際に暮らして慣れていくしかないところ。数え切れないほどある違いの中で、今回は「水まわり」についてご紹介しよう。国はフランスだ。

 旅行でも分かる違いは、フランスの水の硬さ。日本の水よりカルシウムやマグネシウムが多く含まれていて、何だか石けんが泡立ちにくい、と感じる人は少なくない。ホテルなどでは、ポットもきれいに洗浄されているからあまり気付くことはないが、家庭では、よほどしっかり手入れしていないと、湯沸しの内側には石灰分がついてくる。黒っぽい色の鍋などは、きれいに洗った後でも乾くと白い粉が見えてくる、ということも。

 洗濯機には、洗剤の他に石灰分を分解する薬剤を入れることが多い。定期的にこれをやらないと、ドラムの穴が石灰で詰まってくる。

 そんな硬水ではあるが、水道水をそのまま飲むことに健康上の問題は指摘されていない。カフェで食事をする時に、ミネラルウォーターを注文せずに、無料の水道水(カラフ入りの水)を頼むこともしばしば。家庭ではもっぱら、味や見た目の問題で浄水器を通した水を使う、という人が多い。例えば、紅茶を入れるのに水道水をそのまま沸かして使うと、色が悪く、カップのふちに石灰分の輪ができる。お米を炊く時も、浄水器の水やミネラルウォーターでないとおいしく炊けない、と言う在仏日本人も多い。

 水質に恵まれ、水道水にまったく問題のない日本でも、最近は数多くのミネラルウォーターが販売されているから、スーパーの水売り場の様相はさほど異なるとはいえないが、デパートなどでは客が写真を撮っていくほど高価な水を扱っている店もある。左岸の百貨店、ボンマルシェの食品売り場では、一本51ユーロ(6,000円以上)もするミネラルウォーター“bling”が売られている。キラキラ、金ぴかなイメージを持つblingというボトルの商品名は、スワロフスキーで飾られており、売り場の前を通る客が足を止め、ワインになぞらえて「これがシャトー・ブリンだ」と苦笑する姿が見られる、ちょっとした”名所“だ。

 水まわりの違いで、日本との違いを実感するのはキッチンの構造だ。蛇口があってシンクがある、という外観にあまり違いはないが、フランスに住み始めたばかりの日本人の中には、生ごみの処理方法に頭をひねる人も多い。料理中に、または調理後に出る生ごみは、日本ではいわゆる「三角コーナー」や排水溝のストレーナー、最近はディスポーザーなどの設備がある家も増えたが、基本的にはそれらの“ゴミ入れ”にその都度入れていく、ということが多い。フランスのキッチンにはその手の“ゴミ入れ”がついておらず、シンクの下にふた付きのゴミ箱があるといったケースがほとんどだ。日本なら、料理しながら、むいた野菜の皮を捨て、さばいた魚の骨を捨て、という作業をシンクの中でやるわけだが、フランスでは、いちいちシンク下のゴミ箱のふたを開けて捨てるのも面倒だから、例えば不要な新聞紙などを脇に広げておいて、そこに生ごみを一時置きし、料理が終わった段階で新聞紙を丸めてシンク下のゴミ箱へ、という手順を踏む人が多い。

 これをやってみて分かるのは、生ごみの水分量の違いだ。三角コーナーやストレーナーなどに生ごみを入れると、その上から水がかかることが多く、結果的にかなり水分を含んで重くなる。網状のゴミ入れだからそれなりに水分は落ちるが、新聞紙に直接生ごみを置いていく場合とはかなり異なってくる。実際、日本の家庭から出る可燃ごみの半分は、生ごみの水分だといわれている。食後の食器を洗う場合も、フランスでは、ストレーナーのゴミ入れの上で水で流す、ということができないから、必然的に細かい食べ残しや油脂分をふき取ることになり、排水溝から流れていくものも違ってくる。

 お風呂やシャワーでは、さすがに浄水器というわけにはいかないから、そのまま水道水を使うわけだが、日本との水質の違いがあまりに大きいため、クリームやトリートメントなどで肌や髪のケアを手厚くするという人も少なくない。一番大きな違いはやはり、風呂場の構造。当然のことながら、フランスのバスルームに洗い場はないから、バスタブがあっても湯をはってその中で体を洗うことができるだけ。あとは湯を落としてシャワーで流すことになる。旅行中ならシャワーだけでも十分だが、何年も住むとなると、やはりバスタブの湯につかりたい、という日本人は多い。家族の人数が多いと、さすがに人数分のお湯を毎日張りかえるわけにはいかず、湯船は数日に1回、あとはシャワーだけ、という人がほとんどだ。そもそもバスタブが付いておらず、シャワールームだけ、という住居も少なくない。水回りに関しては、日本に戻るとほっとする、という日本人が多いゆえんだ。

(text by coco.g)