イ・ジョンジェら、韓国映画界の実力派が演技バトル! 『オペレーション・クロマイト』の心理戦

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 韓国映画『オペレーション・クロマイト』は、1950年に勃発した朝鮮戦争の中で実際に行われた仁川上陸作戦の名もなき人々たちのエピソードをもとに作られた作品である。韓国では『仁川上陸作戦』のタイトルで2016年の7月から公開され、最終的に国内で700万人を超える動員を記録した。

参考:『オペレーション・クロマイト』約2分のオープニング映像 朝鮮戦争についてのあらましを収録

 このメガホンをとったのは、日本でも『私の頭の中の消しゴム』を30億円を超える大ヒットに導いたイ・ジェハン監督。彼はその後に手掛けた辻仁成原作、中山美穂と西島秀俊主演の『サヨナライツカ』や、ソン・スンホン主演の中国映画『第3の愛』などラブストーリーにも定評があるが、2011年にも朝鮮戦争を描いた『戦火の中へ』を手掛けている。この経験がこの映画に生きていると思われる。

 本作の主演は、いまや韓国で欠かせない映画スターとなったイ・ジョンジェ。『新しき世界』では、紳士的な雰囲気で多くを語らぬ演技の中にも、深い感情が宿っている姿を見せたが、本作でも、そんな静的な演技が彼にぴったりとはまっている。

 イ・ジョンジェが今回演じるチャン・ハクスという人物は、仁川上陸作戦を成功させるため先に行なわれた「X−Ray特殊諜報作戦」のリーダーである。彼らX-Ray作戦には8人のメンバーが存在しており、それぞれ身を偽って北側に潜入している。

 この、潜入中の身分であるために、自分というものを解放できずに常に感情が抑えられている雰囲気を見ると、『新しき世界』のイ・ジャソンを思い起こさずにはいられない。また、映画の中で小道具として使われる“あるもの”もまた『新しき世界』を連想させるものがあった。もちろん、映画全体で似たところはないのだが、ふとした瞬間にそんな思いを抱かせ、『新しき世界』ファンとしては、ふと顔をほころばせてしまう部分があった。

 チャン・ハクスたち8人の前に立ちはだかるのは、リム・ゲジンだ。彼はソ連で留学を終えて帰ってきた北朝鮮のエリート大佐であり、金日成からも寵愛を受けている。このゲジンを演じるのが、デビューから長らく映画にこだわって活動してきて、2000年代後半には『外科医ポン・ダルヒ』などのドラマでその実力をお茶の間にも知らしめたイ・ボムスである。

 個人的には、パク・ヨンハと共演した『オンエアー』で見せた温かみのある芸能マネージャー役が印象に残っているが、今回は北朝鮮の司令官役ということで、恰幅よく見せるためか少しふっくらした姿で、横をきっちりと刈り上げての登場である。大きな目で特徴的な顔をしているイ・ボムスではあるが、役になりきった姿を見て、一目見ただけでは彼とわからないほどであった。

 思えば、2000年代後半に、韓流ブームに沸く韓国ドラマ界を地道に支えたイ・ジョンジェやイ・ボムス、本作には出ていないがファン・ジョンミンたちがいたからこそ、韓国映画のブランドは確固たるものになったのではないか。本作でも、そんな実力派で魅力あるイ・ジョンジェとイ・ボムスの見せる演技バトルがひとつの見どころにもなっているのである。

 というのも『仁川上陸作戦』は、実際の出来事であるが、本作に描かれたことの大部分は、その作戦を遂行する諜報部員たちと、北側の司令部の面々との心理戦なのである。決して知られてはいけない事実を隠しながら、対峙するハクスとゲジン。その緊迫した空気の中で見せる一挙手一投足を見ていると、こちらまで手に汗を握ってしまう。

 特に、ハクスは、ゲジンから徐々にスパイではないかと悟られてはいるのだが、だからといって、それを表情で悟られてはいけない。悟られてはいけないと思い、気をおちつかせようとふと小さく息を吐くような、目の色がわずかに変化するような、そんな細かい演技を堪能してほしい。

 そんな心理戦を描いた本作は、中盤のあることをきっかけに堰を切ったように銃撃戦へと発展していく。後半は心理的なシーンとアクションシーンが交互に現れるのだ。

 このほか、脇を固める俳優たちにも注目したい作品でもある。冒頭に現れるのは、『新しき世界』でイ・ジョンジェとも共演したパク・ソンウンであるし、見るからに暖かい雰囲気を感じさせる俳優、パク・チョルミンは、やはり情に訴える演技をしていたし、韓流ドラマファンには『私の名前はキム・サムスン』などでお馴染みのキム・ソナや、『IRIS -アイリス-』ではイ・ビョンホンのライバルを演じたチョン・ジュノなどのベテランから、『オクニョ 運命の女』のチン・セヨンまで、今をときめくスターたちが揃っている。

 そして、忘れてはならないのが、マッカーサーを演じたリーアム・ニーソンだろう。

 もっとも、このマッカーサーと、イ・ジョンジェ演じるハクスには、この映画の核となるある物語が存在する。そこが、感動を呼ぶのか、ちょっとおとぎ話のように感じるかは、この映画の分かれ目であるようにも思う。

 戦争映画を見るときの基準は難しい。もう二度とこんなことは起こってほしくないし、起こってほしくないということを描いているものを見たいというのが本音であるが、その国の置かれた歴史によっても感情は違うだろうし、同じ国の中でも分かれるものだろう。

 特に、この仁川上陸作戦が1950年に実際にあったことをどうとらえるかで、韓国国内でも意見は割れたという。特に、マッカーサーの描き方によって、その意見が割れることになったとも言われている。ただ、イ・ジョンジェ自身は、こうした意見に対して、この映画は戦争映画ではなく、激しい頭脳戦を描いたスパイ映画であると語っているそうだ。

 私自身も、この文章でも書いてきたが、この映画のもっとも大きな見どころは、ハクスとゲジンの息つく暇もないほどの心理戦にあると思う。韓国映画界を支える達者な俳優たちの演技バトルをぜひとも堪能してほしい作品であることは間違いない。(西森路代)