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日本における課題の1つに数えられるグローバル人材の育成。海外で生活するという経験を積める留学が、グローバル人材の育成において重要なファクターとなることはいうまでもありません。しかし留学には、その期間は大学教育を受けることができない、社会に出る時期が遅れてしまうなど、デメリットも存在します。こうしたデメリットを解消し、学生の「留学したい」という意向を最大限尊重した教育を提供するのが、北海道大学大学院 工学研究院工学系教育研究センターです。

北海道大学大学院工学研究院 工学系教育研究センターでは、2006年に「CEEDeラーニングシステム」と呼ばれるしくみを構築し、留学中でも遠隔教育によって教育を受け、単位が得られる環境を整備しています。同センターではこれまで、Moodleで構築したCEED eラーニングシステムについて、オンプレミスの環境からサービスを提供してきました。しかし、外部向けサービスを、機密情報を保有する校務システムと同じオンプレミスで運用し続けることは、セキュリティの観点でリスクがありました。

そこで北海道大学大学院工学研究院 工学系教育研究センターでは、2017年に提供基盤をMicrosoft Azureへ移行。Azure Media ServicesやMicrosoft Cognitive ServicesといったPaaSを最大限活用して新たな環境を構築したことで、セキュリティの確保だけでなく、ユーザーの利便性の向上、教材制作の自動化を実現した「発展を伴ったシステム移行」に成功しています。

プロファイル

世界を牽引する最高水準の研究、技術への挑戦と、それを可能とする若手研究者、技術者の育成を目指す北海道大学大学院工学研究院。グローバル化でも活躍する人材を輩出すべく、同研究院では海外インターンシップ派遣を積極的に支援。積極性や問題解決力、国際コミュニケーション力を養う「質の高い教育」に向けた取り組みを進めています。

○導入の背景とねらい外部向けサービスをオンプレミスで運用し続けるのは、セキュリティの観点でリスクがあった

社会や経済のグローバル化が急速に進行しています。国際社会における日本のプレゼンスを高めるうえで、グローバル人材の育成は、いっそう重要度を増しているといえるでしょう。

このような情勢を見据えて、多くの大学が留学制度を充実させています。しかし、留学中は大学教育を受けることができない、単位互換がない、といった理由から、留学期間を短期に設定する、もしくは留学自体を控えてしまう学生も多いのが現状です。この状況をかねてから危惧し、eラーニングシステムを活用した単位認定制度を整備することで学生の留学を積極的に支援してきたのが、北海道大学大学院工学研究院 工学系教育研究センター(以下、CEED)です。

CEEDでは学生が積極的に海外で経験を積むことができるよう、2006年より「CEEDeラーニングシステム」を提供しています。これと並行し、対面講義だけでなくCEEDeラーニングシステムを経て能力を身につけた学生にも単位認定する制度を整備。こうした取り組みによって、海外留学を行う学生数は増加傾向にあるといいます。

北海道大学大学院工学研究院 工学院長 工学博士 教授 小林 幸徳氏は、CEEDeラーニングシステムの対象ユーザーについて次のように説明します。

「CEEDeラーニングシステムが主に対象とするのは、海外への留学生や、社会人で博士課程の取得を目指す関東圏の学生など、『対面で授業を受けることが難しい学生』です。もちろん、通学する学生が復習、予習に活用するという用途もありますが、いちばんの目的は、遠隔教育で対面授業と同等の知識を提供することにあります。こうした理由から、CEEDeラーニングシステムで提供するコンテンツは、90分講義の撮影データをベースとする動画教材が多くを占めています」(小林氏)。

CEEDeラーニングシステム上にある動画コンテンツの累計数は1,800以上、時間にして延べ2,383時間にのぼります。CEEDではこれらのコンテンツを、オープンソースソフトウェア(OSS)のラーニングマネジメントシステム(LMS)「Moodle」で構築した、オンプレミスのシステムから学生へ配信してきました。しかし、教育機関を対象とするサイバー攻撃は増加しつつあり、外部向けサービスをオンプレミスで提供することは、大学にとって大きなセキュリティリスクになっていたといいます。

セキュリティに対する社会的責任が高まる中、今日の大学教育は、「質の高い教育の提供」とともに「教育の安全な提供」を担保することも求められます。外部向けサービスはその性質上、脅威侵入の入り口となる危険性を擁しています。これをオンプレミスで運用し続けることは、同環境にある校務システム、つまり成績や個人の情報を扱うシステムへの侵入経路を開くことにつながるのです。

小林氏は、機密情報を扱うクローズドシステムのセキュリティを確保するためには、CEEDeラーニングシステムの提供基盤をオンプレミスから分離しなければならなかったと語ります。

「仮に外部向けサービスをオンプレミスで運用し続ける場合、当然ながら高い水準のセキュリティを担保する必要があります。しかし、セキュリティ対策には高度に専門的な技術、知識を必要とします。必然的に、管理作業は属人化せざるを得ません。人事異動が決して少なくない大学機関において、外部向けサービスに耐えうるセキュリティ対策を講じることは、継続性の面で限界があったのです。そのため、2017年に控えるリプレースを機に、CEEDeラーニングシステムの提供基盤をオンプレミスとは別の環境へ移すこととなりました」(小林氏)。

また、同システムはセキュリティだけでなく、教材拡充という観点でも課題を抱えていました。前述のとおり、CEEDeラーニングシステムは現段階で1,800もの動画コンテンツを有しています。しかし、全科目、全講義を母数とする場合、教材化できている講義の数は全体の1/2を満たしません。

残り半分の教材化を進め、なおかつ過去の講義動画のアップデートも進める場合、教材制作に要する工程を最適化することが求められます。しかし、下に挙げるこれまでの制作工程では、1つの教材を作成するのにも多くのコストと工数、期間を要していました。

北海道大学大学院工学研究院 工学系教育研究センター eラーニング教育プログラム 技術職員 角井 博則氏は、この点について次のように説明します。

「たとえば1つの動画コンテンツの文字起こしを外部業者へアウトソースする場合、依頼から原稿が到着するまでにまず1週間ほどの期間を要します。また、大学教育の専門性から外部業者が専門用語のすべてを正しく認識することが難しく、到着した原稿はそのままで使えるクオリティではないことが大半です。よって、今度はCEEDの職員と教員で校正することとなりますが、これにも数日から数週間を要します。その後ようやく映像コンテンツとして編集を行い、約6時間のエンコード作業を経て1つの教材が完成します。ここまででわかるとおり、これまでは教材1つ制作するだけでも、膨大な工数、期間を要していたのです」(角井氏)。

さらに、教材の拡充だけでなくシステム運用においても、管理に要する工数が課題化していました。CEEDではこれまで、HTML5をベースとしたシステムをもって、PC、スマートデバイスなどマルチデバイスで視聴可能な環境を提供。しかし、スマートデバイスのOSは短期間で多くのアップデートが発生するため、バージョンアップのたび動作確認に追われることとなります。角井氏は「Androidに関してはiOSに比べて端末のバリエーションが多く、バージョンアップも度重なるため、対応しきれないと判断し、やむなく対象外にしました」と、運用側が自力でこれに追従していくのは限界があったと明かします。

○システム概要と導入の経緯Azure Media ServicesやMicrosoft Cognitive ServicesといったPaaSを活用することで、教材制作から配信までの工程が自動化できる

あらゆる環境の学生に向けて、あらゆる学生が必要とする動画教材を提供する。こうした「多様な学び」を今後も継続して提供するためには、単に提供基盤を移行するだけでなく、教材の制作工程、そして配信のしくみ自体を抜本的に見直すことが求められました。

この課題に対し、CEEDではクラウドの活用を前提に、提供基盤の選定を開始します。事業者側とユーザー側で責任範囲が明確に分かれているクラウドでは、工数負荷を最小限に抑えながら、システム単体のセキュリティ水準を担保できます。また、小林氏は以前、北海道大学が設置する「北海道大学オープンエデュケーションセンター」で、eラーニングシステムのクラウド構築に関する検証作業に携わっていました。検証の対象は、CEED eラーニングシステムとは異なり学外ユーザーにも開かれた遠隔教育システムでしたが、Moodleで構築したシステムだという点は共通しています。この検証成果と知見を転用すれば、CEED eラーニングシステムの移行に要する期間、工数も最適化できると考えたのです。

CEEDでは2016年より、複数事業者を候補としてサービス選定を開始。MoodleがIaaS環境で問題なく稼動すること、高いセキュリティ水準を有すること、以上2点を比較項目として検討を進めます。その結果、Azureを有力候補とすることを決定。小林氏は、「Moodleの動作については実環境での検証結果を、セキュリティ水準については実績や外部認証機関の認証情報を参考に、比較検討を進めました。いずれの事業者もこれら2点を高水準で満たしていましたが、中でもAzureは、CSゴールドマークを国内で初めて取得するなど、セキュリティについて特に高い水準を有していました」と、Azureに注目した理由を説明します。

また、AzureがPaaSを豊富に提供している点も、先の決定の大きな要因だったといいます。ビデオストリーミングサービスであるAzure Media Services、動画内の音声をテキスト化するMicrosoft Cognitive Servicesなど、マイクロソフトが提供するPaaSの活用は、これまで人力で行ってきた作業の自動化を果たす可能性を秘めていました。角井氏は、こうしたRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)の導入によって、教材作成から配信までの工程を自動化できることに期待したと語ります。

「たとえばAzure Media Servicesを活用すれば、OS、ネットワーク帯域ごとに最適化した形でコンテンツを配信する環境を、規格の動向に左右されることなく簡単に維持することができます。また、Microsoft Cognitive ServicesのMedia Indexerでは音声データからテキストを抽出することが可能です。これに翻訳サービスのMicrosoft Translatorを組み込めば、教材制作における文字起こしや英訳、編集作業、アップロード、そして配信までが一挙に自動化できるでしょう。これを実現すべく、MoodleとAzure Media Servicesを連携した設計でもシステムが問題なく動作するか、検証することにしました」 (角井氏)。

単にMoodleをIaaSで構築するだけであれば、Azureに限らず多くのクラウドで問題なく動作することが見込まれます。しかし、PaaSなど他のサービスと連携する場合、動作に不具合が生じることは決して少なくありません。Azureの採用を正式決定するうえで、角井氏が触れた検証は不可欠なものでした。

CEEDはこの検証を、教育用ソフトウェアおよびシステムの企画、研究開発、コンサルティングを主要業務とするこだまリサーチ株式会社へ依頼。その結果、MoodleとAzure Media Servicesを組み合わせた場合でも、動作に問題がないことが確認されました。CEEDではこの結果を受け、2016年末、CEED eラーニングシステムの提供基盤にAzureを採用することを正式決定します。

検証作業とシステム構築を担当した、こだまリサーチ株式会社 マネージャ 篠原 徹氏は、AzureとMoodleの親和性について次のように説明します。

「Azure Media Servicesだけでなく、Microsoft Cognitive Servicesと連携した場合でも、Moodleの動作に不具合はありませんでした。これは、Azureというプラットフォームと Moodleとの親和性の高さを表しているといえます。ただ、Azure Media ServicesとMoodle の両サービスを別画面で管理することは、運用上、非効率的です。そのため、今回、Moodle上の管理画面でAzureの各PaaSの操作も一元化できるプラグインを開発しました。システム構築時にこれを実装することで、管理性を大幅に高めています」(篠原氏)。

○導入効果Azureへの移行によって、ストレスなく多様な環境から利用できる eラーニングシステムを実現

Azureの正式採用を決定後、CEEDでは 2017年1月より、実証実験を行うための、小規模な環境の構築に着手します。そこで動作に問題がないことを確認した5月より、本番環境の構築を開始。同年10月で、正式にサービスインすることを計画しています。

まだ本番稼動前という段階ながら、オンプレミスからクラウドへ移行することで、より利便性の高いサービスになるだろう、と小林氏は期待を寄せます。

「本番稼動はまだこれからですが、これまで以上にユーザーに沿った eラーニング システムになることは間違いありません。Azure Media Servicesによって、Android、iOS など学生の所持するさまざまな環境からサービスを利用できるようになります。また、ユーザーのネットワーク帯域に最適化したビットレートで動画教材が配信されるため、だれもがどんな環境であっても、ストレスなく学ぶことのできるサービスになることを期待しています」(小林氏)。

Azureへの移行は、コスト面でも高い効果が期待されています。構築から数年後のユーザー環境、ファイルサイズにも対応しなければならないため、オンプレミスではどうしても、最大スペックのハードウェアで環境を構築する必要があります。しかし、クラウドではユーザーの利用状況やコンテンツ数などに併せて、適宜リソースや性能を調整することが可能です。

角井氏は「オンプレミスと比較すると、5年間で50%ものコスト削減効果を見込んでいます」と説明。さらに、教材拡充という側面でもコストメリットが生まれるだろうと続けます。

「実証実験では、エンコードに要する時間が6時間から2時間へと短縮されることが確認できました。また、Microsoft Cognitive Servicesを活用した文字起こし、字幕付けは、1動画コンテンツあたり約20分、数百円程度で行うことができます。これまで必要としてきた工数、期間、そしてコストのすべてが、Azureへの移行によって劇的に削減されるでしょう。ここで削減したコスト、リソースを新たな教材制作に割り当てることで、全講義の教材化に向けた歩を進めていきたいと考えています」 (角井氏)。

○今後の展望今回の成果次第でAzureの全学水平展開も

本番稼動を開始する 2017年10月以降、CEED eラーニングシステムは、ユーザーの「多様な学び」をこれまで以上に支援するサービスとして学生に提供されることとなります。

また、同システムでは今後、学生の教材閲覧時間や閲覧状況の可視化といった、新たな機能についても、随時実装されていく予定です。篠原氏は、「各ユーザーが特定の教材をどのくらい閲覧したか、教材のどこで一時停止したか、といった情報を収集し可視化するしくみを、新たにシステム上へ構築しました。ここで収集した情報は、今後、eラーニングだけでなく講義自体をいっそう質の高いものとしていく上でも有効に活用いただけるでしょう」と説明します。

さらに今回の取り組みの成果によっては、全学の取り組みにまでAzureの活用を推奨していく可能性もあります。小林氏は、次のように語ります。

「本学では、ITを活用したシステム等導入の好事例を共有し、最適化を図る動きがあります。今回の取り組みで一定の成果が出た場合には、他サービスの提供基盤にAzureの活用を推奨するなど、全学水平展開が進む可能性もあるでしょう」(小林氏)。

CEEDが提供する eラーニングシステムは、グローバル人材の育成という、日本の将来を左右する大きな命題を持っています。同サービスの提供基盤をAzureへ移行したことで、ユーザーの利便性をいっそう高めた同研究院。この取り組みは、北海道大学だけでなく、日本の教育全体に好影響を与えるモデルケースになるかもしれません。

「本番稼動はまだこれからですが、これまで以上にユーザーに沿ったeラーニング システムになることは間違いありません。Azure Media Servicesによって、Android、iOSなど学生の所持するさまざまな環境からサービスを利用できるようになります。また、ユーザーのネットワーク帯域に最適化したビットレートで動画教材が配信されるため、だれもがどんな環境であっても、ストレスなく学ぶことのできるサービスになることを期待しています」

北海道大学大学院工学研究院

工学院長

工学博士

教授

小林 幸徳氏

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