宮古島と石垣島の間に位置する多良間村は、多良間島と水納島の2島に約1200人が暮らす農業の村。最も高い八重山遠見台(ヤーマドゥーミ)で海抜32.8mという平坦な多良間島は、長い歴史を持つ「多良間黒糖」の産地だ。宮古空港から片道20分。1日2往復、50人乗りのプロペラ機が飛ぶ。 

空港から、見渡す限りのさとうきび畑を縫うように車を走らせること約10分。多良間村役場に、6月の選挙で2期目の当選を果たしたばかりの伊良皆光夫村長を訪ねた。本連載では全4回にわたり、多良間村における地域づくりの取り組みと成果をお伝えする。  

 Part1   さとうきびとヤギと牛 子どもたちの島 多良間村  Part2  知られていない、おいしいものを島から外へ  Part3  世界の海を知るダイバーを魅了した“最後の楽園”  Part4  食とエネルギーを自給する循環型の島へ

 

村長プロフィール

多良間村長の伊良皆光夫氏

昭和30年生まれ。宮古高校、琉球大学短期大学部を卒業後、宮古郡農協、同金融課長を経て平成17年より多良間村役場勤務。平成25年7月の選挙で第29代多良間村長に就任、現在二期目。趣味は読書と映画鑑賞。リラックスタイムは、出張の夜に宿で缶ビールを飲むひととき。空いた時間は、車で島内をぐるぐるまわる。  

 

Part1   さとうきびとヤギと牛 子どもたちの島 多良間村

手つかずの自然、色褪せない暮らしの文化 

プロペラ機から見える多良間島

多良間村の公式サイトにある「南洋に浮かぶ癒しの島」の文字どおり、広い空と吹き渡る海風が印象的な多良間島。道端では飼いヤギがのんびり草を食み、信号のある交差点は島にひとつきりだ。 

島でただひとつ、信号がある交差点

コンビニも繁華街もなく、夜空は星で満たされる。38年前に生まれ故郷に戻った伊良皆村長の好物は「島で獲れた魚と、にがりを使わず海水だけでつくったお豆腐」。子どもの頃は夏休みといえば毎日海。自作のモリで突いた魚でおこづかいを稼いでいた。Tシャツが高級品だった当時、素っ裸で泳いでいたため、背中の皮はひと夏に10回以上むけた。「山や川がない多良間の近海は、塩が濃くて魚の味も濃いように思います」。 

アカジンとミーバイの煮付け

自宅にはヤギが10頭以上、牛や運搬用の馬、卵をとるための鶏がいて、それらの世話は子どもたちの仕事だったという。 

島のあちこちで、ヤギがのんびりと草を食む

古来、自然の恵みとともにあった島の暮らしは、年間約20回にのぼる神事を生み出し、伝統は今に受け継がれている。特に賑わうのは旧暦8月8日〜10日に行われる八月踊り。旧称は八月御願(パチュガツウガン)で、古くは人頭税の完納を祝い、次の年の豊作を祈願した豊年祭だ。毎年3日間にわたって数々の踊りが繰り広げられ、昭和51年に国指定重要無形民俗文化財に指定された。 


八月踊りの一場面
出典: 組踊「多田名組」 

八月踊りの舞台となる土原御願所やピィトゥマタウガム゚をはじめ、島には祈りを捧げるための御嶽や拝所が数多くある。伊良皆村長のおすすめは、「きれいな気持ちになる。観光で訪れた方にも、ぜひ行ってみてほしいです」と話す泊(トゥマリ゚)御嶽や運城(ウングスク)御嶽。また、鳥居のあるパナリトゥブリを抜けた先の海岸には神様が祀られていて、ここで祈りを捧げた後、子宝に恵まれた人もいるという。島のひとびとが、イシバナの上にいる神様に航海の安全や豊漁を願ってきた場所だ。 


トゥブリの先には海が広がる
出典: 沖縄離島ガイド・プロジェクト おくなわ 

青く透き通った海の向こうに見える朝日や夕日が美しく、独特の文化を持つ多良間村には保養地としての魅力がそろうが、島の主要産業はさとうきびを中心とする農業で、観光業への後押しは近年始まったばかり。観光産業の成長と比例して希少になる手つかずの自然や生活文化・精神文化が、色濃く残っている。

広大な草原で悠々とすごす牛たち

多良間村は2010年に「日本で最も美しい村連合」への加盟が承認された。同連合が価値をおく「人の営みが生み出した美しさ、その土地でなければ経験できない独自の景観や地域文化」が評価されてのこと。沖縄で初めて、2017年8月現在、唯一の快挙だ。 

沖縄県で加盟しているのは多良間村だけ

出典: 「日本で最も美しい村」連合ホームページ 

伊良皆村長は、こう話す。「こういった手つかずの自然を大事にしておきたいという気持ちと、人口減少や過疎高齢化への対策として観光産業を伸ばし、高校進学のために島を離れる若者が戻ってこられる雇用の場をつくらなければならない、という状況があります。欲をいえば、あまりべらぼうな人たちがどしどし入ってきて荒らしていくという感じではなくて、保養を目的に静かに自然を楽しむ感性を持った人たちに来ていただきたいです。大切なお客様を選り好みはできないけれども、できればそういう方向に行けたら、という希望を持っています」。 

子や孫を育て、人口減少と向き合う

島のことを丁寧にお話しくださる伊良皆村長

日本じゅうの多くの離島や農山村地域と同様に、多良間村の人口は右肩下がり。平成2年から22年の20年間で、16%減少した。村は、国における「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に則って、平成28年2月に「多良間村人口ビジョン・総合戦略」を策定。教育、住宅、産業振興と、全方位から持続可能な村づくりを図る。多良間村は2000年、合計特殊出生率で3.14という数字をたたき出し、日本一になった。0〜14歳の年少人口率は21.8%と他の離島や沖縄県全体と比較して高い。子どもを産み育てやすい環境が透けて見えるが、高校進学のため島を出て戻らないケースが多く、高齢化率は26.4%と全体平均とほぼ同じ。「一例をあげれば、産業振興のため観光関連施設を新築しようとしているのに引き受けてくれる建設技術者がいない。どの職種も人が足りない中、UJIターン希望者がいても、こんどは住める家がない。この島で子どもを育てたいと思える環境も必要。人口減少と対峙するのに『これさえやれば』という特効薬はなく、すべてを一歩ずつ進めていくしかありません」。 

その言葉どおり、教育格差解消を目指した村営学習塾「たらま塾」の運営や、地域おこし協力隊を活用した空き家・空き地の情報収集、観光業の伸びしろが大きい他の4離島と協働した情報発信事業「おくなわプロジェクト」などの取り組みを進めている。主力産業の黒糖では、80億円に近い公費をかけて新工場を建設中だ。 

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