1人で走り抜けるには、「100年人生」はあまりに長い(写真:tkc-taka / PIXTA)

ベストセラー『ライフ・シフト』で提唱された「人生100年時代」では、心身の健康という無形資産が重要になる。では実際、私たちはどのように生き方をシフトしていけばいいのか。
予防医学者として、ビジネスパーソンの健康や豊かな生き方についてアドバイスを行っている石川善樹氏に、日本人のための人生戦略を語っていただいた。

50歳になったらギアチェンジを


あなたは何歳まで生きると思いますか。その問いに、男女問わず多くの人が「80歳くらい」と答えます。その先をイメージできないからでしょう。しかしご存じのとおり、すでに日本の平均寿命は男女共に80歳を超えています。『ライフ・シフト』のリンダ・グラットンさんが指摘するように、人生100年時代の到来が大前提。私はこれからの100年人生を25年ずつ、春夏秋冬に分けて考えています。

0〜25歳までは春。肉体的成長の時期です。26〜50歳までは夏、精神的に成長する時期。50〜75歳は秋で、衰退的成熟の時期に入ります。76〜100歳は冬、機能的喪失の時代。こうして人生をトータルでとらえると、少し意識も変わってくるのではないでしょうか。

このうち25〜75歳、つまり夏と秋の50年間は働く時期に位置づけられますが、前半と後半では力の入れ方を変える必要があります。夏の期間は仕事や子育てに全力を打ち込む時期ですから、働く一辺倒でも良いと思います。ただし50歳を過ぎたらギアチェンジする必要がある。「よく学び、よく遊び、よく働く」というバランスが大事。

今までは60歳で定年を迎えるまで働いて、そのおカネで家族を扶養し、また自分の老後も扶養していくことができました。これは、いわば「ライスワーク」です。食べていくための仕事。80年の人生ならそれでいいですが、100歳までとなるとちょっともたない。したがって秋の時期からは「ライスワーク」ではなく、「ライフワーク」を意識する。言い方を変えれば、76歳以降の冬の時代を迎えるために、50歳から準備を始めるということです。

学び、遊び、働く。それぞれ異なるわけですから、少なくとも3つのコミュニティに所属することになります。これがいい。人間、本当は1つのコミュニティにずっと所属していたほうが楽なんです。同じ仲間とツーカーで話ができますから。


10月19日、福岡市にて「『LIFE SHIFT(ライフ シフト)』人生100年時代をどう生きるか 〜自分らしいキャリアデザインの描き方〜」セミナーを開催します。詳しくはこちら(写真:Sergey Cash / PIXTA)

しかし裏を返せば、それは頭を使わずに済むということです。実際、私たちの研究でも3つ以上のコミュニティに属していると要介護になりにくいという結果が出ています。多種多様な人と交わり、いろいろな話をすることで脳が活性化するのです。

もっと言えば、50歳くらいにならないと、ライフワーク、つまり本当にやりたいことなんて見えてこないのではないでしょうか。夏の時期にがむしゃらに働いて、秋に差し掛かった頃にぼんやりとやりたいことが見えてくる。アメリカでは、さまざまな経験を積んで、50歳くらいで起業した人が雇用を支えているといわれています。

人生の黄金期はいつか?


また、自分が何をしたいのか、どんな人生を送りたいのかを考えるとき、大きく分けて3つの道があると私は思っています。主人公としての道、助っ人としての道、観客としての道です。自分がどの道を行くのかでだいぶ変わってくる。

主人公の道を行くのであれば、「これがやりたい」というビジョンやミッションを周囲に明確に示す必要があります。能力はそんなになくてもいいんです。むしろ周りを巻き込み、引っ張っていく熱意、話術や人としての魅力が大事です。

助っ人の人生というのは、いわば主人公を支える脇役です。ビジョンはないけれど、技術や能力を持っている。企業のコンサルタントをイメージするとわかりやすいと思います。実はこの道がいちばんつらい。ナンバーワンかつオンリーワンの能力なり技術を持っていなければ、壮大なビジョンを持つ主人公の目に留まりません。人一倍の努力を要するわけです。

観客の道というのは、サッカーのサポーターのような存在で、舞台に立つのではなく、舞台に立つ人を応援する立場といえばいいかもしれません。

これらは私の勝手な分類にすぎません。しかし、こうしたモノサシがあれば、たとえば50歳までは自分の専門性に逃げず、助っ人の道を歩んで力をつけていこう、それからは主人公の道を歩もう、といった具合に考えられるようになるわけです。100年人生、だいたい50歳までは修業期間です。

もう1つ、自分の100年人生をトータルで考えたとき、黄金期をどこに持っていくかを考えるのも大切です。私自身は、60〜75歳までの15年間だと思っています。春や夏の時期に人生の黄金期を迎えてしまうと、その後の人生がつらいですよね。思い出にすがって生きることになってしまいます。それよりも、人生終わりよければすべてよし。学生時代も社会人時代もパッとしなかったけれど、秋の後半に輝けばいい。それができた人の人生はとてもハッピーです。

予防医学の観点から言えば、長寿の秘訣は「禁煙、減塩、人の縁」。ただし、これだけでは生きる指針にならないんですよね。何のための長寿なのか、なぜ健康を維持しなければならないのか、こうした問いに答えていないからです。それよりむしろ、自分の黄金期はこれからだと考えたほうが、健康への動機付けとしては大きい。

いずれにせよ、寿命が延びるというのは、人生の黄金期を少し後に延ばすことなのだと思います。40代50代のビジネスマンも、これから待ち受ける長寿を憂うより、来るべき人生の黄金期をどう迎えるか、そこに向けて自分はどんな道を進めばいいか、働き方をシフトしながら模索する必要がある。人生のピークがこの先にあると思えば、気持ちも前向きになり、それがまた健康にもつながっていきます。

定年後のビジネスマンは家の中で自立せよ

こうした試行錯誤は、実は女性がずっとやってきていました。50歳くらいになると子供が社会人となり、「母親定年」を迎えます。それが自分の人生を見つめ直すきっかけとなり、10年ほど試行錯誤して、60歳から超元気(笑)。

そもそも「人の縁」という“つながり”を作るのは女性のほうが得意ですから、複数のコミュニティに属し、自分のやりたいことを見つけ、人生を謳歌する、まさに黄金期です。そこに夫が定年退職してずっと家にいるとなると、本当に憂鬱になるんですよね。

私は最近、企業に呼ばれてライフプランニングの話をするのですが、「定年したら奥さん孝行をしたい」という男性が少なくありません。具体的には一緒に映画を見に行ったり、旅行したり。

とんでもない勘違いです。本当の奥さん孝行とは、台所から解放してあげることです。つまり定年退職した男性は、家の中で自立することが求められます。まずは料理を覚えること。みそ汁くらいは自分で作れるようになりましょう。ご飯とみそ汁と納豆があれば、日本人は生きていけますから。

ちなみにある世界的なインターネット企業では現在、これから社員が健康に生きるための3大スキルとして、「Cook」「Move」「Sleep」を挙げています。プログラミングや統計より、料理すること、体を動かすこと、寝ることを重要なプログラムとして位置づけているのです。

男性のほうが凝り性ですから、料理の腕もどんどん上達する可能性が高い。料理は突き詰めると本当に難しいし、だからこそ面白い。学ぶことも多い。

コミュニティの1つに料理教室を選んでもいいでしょう。若い女性に交じって料理を教わるのも1つの手です。上手にできるようになれば、おいしい料理を目当てに孫が遊びに来てくれるようにもなります。

50歳からの「学び、遊び、働く」というバランスと、3つのコミュニティに属することを考えたとき、男性と女性とでは“つながり”の持ち方が異なる点も留意したほうがいいかもしれません。女性はおしゃべりでつながるけれど、男性は行為を通してつながるという研究があります。

黙って同じ作業をしていく中で絆が深まるのが男です。お互いのことは話さなくてもいい。だから目の前にお茶とお菓子があっても困るんですね。語らずともわかり合えるのが男の友情、語り尽くしても足りないのが女の友情というわけです。

常識は20年スパンで変わっていく

また、今私たちが持っている倫理観や価値観は、比較的最近になって形作られたものです。常識は20年くらいのスパンで変わる。

たとえば20年前、「悪い女」として語られるのはどんな女性だったか。1991年に講談社から創刊された『FRaU』という女性誌があるのですが、創刊号の特集は「悪女かもしれない」です。そこで描かれている女性は、仕事をバリバリこなして、夜はお酒を飲み歩いて、週末には海外旅行に出かける。今となっては普通ですよね。ここで学ぶべきは、常識はすぐ変わるということです。

ファイナンシャルプランの話をするなら、「生涯で最も大きい買い物=家」という価値観も変わっていくでしょう。起業家の孫泰蔵さんが「Living anywere」とうたっているように、持ち家幻想は捨てるべきだと私も考えています。これからは半定住、半移動のライフスタイルになっていく。

「良い暮らし」のイメージとして、多くの人が持つのは、良い家、良い家具、良いソファと良いテレビ。しかし家の中心にテレビが鎮座している「良い暮らし」の常識を疑ってみるべきです。家の中心はキッチンでいい。住宅は支出の中でも最も大きいわけですから、それをもう一度見直したほうがいいというのが、人生100年時代のファイナンシャルプランのポイントです。

そして最も変えるべきは、寿命に対する常識でしょう。繰り返しになりますが、人生の終わりは80歳ではありません。100年を前提として物事を考える。そして50歳からが人生の本番であり、黄金期であるという点です。その時期を充実させるにはどうしたらいいか。「あの頃は良かったな」という思い出だけで半世紀を過ごすのは、あまりにもったいない。

冬の時代を乗り越えるには「かわいげ」が必要

長寿に関する研究はさまざまにあるのですが、まだ確度が高いものとはいえません。“つながり”以外に長寿の秘訣は今のところあまりないと思ったほうがいいでしょう。では76歳からの冬の時代、“つながり”を保つために何がいちばん必要か。

私は「かわいげ」だと思っています。不機嫌で威圧的でわがままな老人は、周りからも疎んじられますよね。だから、76〜100歳までの冬の時期を楽しく乗り越えようと思ったら、男も女も必要なのは「かわいらしさ」なんです。犬は何もしていないのに、人間からかわいがられますよね。だから、「犬を見たら先生と思え」なんです。

演じるのではなく、その人自身の魅力が問われますから、案外難しい。しかしこの時期になると介護の必要が出てきたりもしますから、何かと周りが世話してあげたくなるような人であることが大事です。

予防医学の観点からは、健康のために座りすぎるなとかテレビを見すぎるなとか、ノウハウはいくらでもあるんですが、人生100年時代は、病気予防のために行動を変えるより、感性を磨くことのほうがよほど大事。何がやりたいのか、何が楽しいのか。それらを模索し、かわいいおじいちゃん、おばあちゃんになることを目指す。リンダ・グラットンさんも、60歳を過ぎて「再婚するの」とうれしそうに話をされていて、とてもかわいらしいですよね。

私の専門である予防医学は、基本的に人は弱いという前提に立って物事を発想します。その立場から言うと、人生100年時代、まず「自分でみそ汁ぐらい作れるようになろう」というのが人生戦略の第一歩というわけです。