アマゾンのホールフーズ買収、米消費財大手が恐れる破壊的影響

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米フロリダ州オーランドで来月開催される全米広告主協会(ANA)の年次会合では、誰もが意識しつつも議題には上らないであろう話題がある。それは、アマゾンによる137億ドル(約1兆5300億円)でのホールフーズ買収が、大口広告主であるプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)などの消費財企業に厳しい展開をもたらす可能性だ。

アマゾンは、ホールフーズ店舗を現在の450店から2000店まで拡大することを計画しており、これにより8000億ドル(約89兆円)規模の食料品小売業界でのシェアをさらに拡大する可能性がある。ホールフーズ買収により、アマゾンはウォルマートに真っ向から勝負を挑むことになる。

ウォルマート4700店舗での売上高4860億ドル(約54兆円)の中で、食料品は60%近くを占める。ウォルマートの強さの理由は、店舗の戦略的な配置にある。米人口の90%は、ウォルマート店舗から10マイル(約16キロメートル)圏内に住んでいるのだ。

しかし、この点はそれほど圧倒的な強みではないかもしれない。アマゾンが効率性の高いサプライチェーンをもって各市場を「破壊」し、最上級の顧客経験を提供していることは言うまでもない。また、顧客データのマイニングにも優れ、どの小売・マーケティング企業よりも深く顧客を理解することができる。

こうしたデータを基にアマゾンは、消費者が何を、いつ、どれくらいの価格で欲しがるかを予測する高度な分析モデルを構築してきた。また、同社は自社所有のアルゴリズムを使って価格を動的に下げ、商品を常に競合企業よりも安価に販売できる。

アマゾンは、最初に「破壊」をもたらした書籍販売事業で、書籍マーケティングを改革したのみならず、出版社や著者など書籍のサプライチェーン関係者すべてにコスト削減を強制することで出版業の経済モデルを変化させた。アマゾンは現在、消費財企業に容赦ない価格競争の圧力をかける上で一層優位な立場にいる。

特に、コーヒーや育児用品、おもちゃ、電池などの強力な自社ブランドを展開する今、業者との利鞘切り詰め交渉も可能だ。ホールフーズも今後、自社ブランドの「365」を展開する予定だ。

アマゾンは、第三者企業との交渉で、商品の販売停止をちらつかせ、自社がもうかるような取引や値引きを強要したり、他社ブランドの宣伝方法までも指示したりできる。また、今までマーケティングに支出していた資金を値引きに充てるよう要求することも可能だ。皮肉にも、この手法はウォルマートがかつて取ったものとほぼ同じだ。

ウォルマートとアマゾンの価格競争はすでに始まっており、各ブランドには破壊的な影響がもたらされるかもしれない。消費者は、価格の安さだけを唯一の判断基準として物を買うようになり、ブランドとの感情的なつながりやロイヤルティー(忠実度)が損なわれる。ブランド側にとっては、利益が低下し、株主価値が破壊される。これはまさに「底辺への競争」だ。

価格競争により、コモディティ化した市場が生まれる。値引きなどの価格戦略が広告に取って代わり、企業はブランド差別化のための投資を縮小。世界最大の広告主であるP&Gは、今後5年間の間に20億ドル(約2200億円)の広告費削減を見込んでいる。

また、P&Gの競合企業で世界第2位の広告主であるユニリーバは、60億ユーロ(約8000億円)のコスト削減計画を発表した。こうした取り組みの痛手を受けるのは、クリエイティブ業界だ。ユニリーバは、クリエイティブ業務に活用する代理店の数を半分に減らすと発表している。

この影響は米広告業界に即座に広がっており、これまでブランドに仕えてきた広告代理店を弱体化させ、株式も急落している。広告業界はコスト削減や事業不振に見舞われ、新たな顧客の激しい奪い合いが始まり、多くの場合は価格競争につながる。また、アクセンチュアやデロイトなどのコンサルティング企業が参入して競争が激化するにつれ、広告代理店を取り巻く環境はますます厳しいものになるだろう。

食料品小売業界の価格競争が、ブランドにとって有利な環境を生むことはない。過去の経験を基に考えると、この嵐を乗り越えられるブランドは限られている。大半の企業は価格圧迫の犠牲となり、実店舗でもオンライン上でも淘汰(とうた)されてしまうだろう。