山田涼介、ヒーローから普通の青年へ 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』“引く演技”で新境地

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 鑑賞前、絶対に泣くまいと思っていたが、どれだけ我慢しようとしても感動の涙が止まらなかった。9月23日に公開される映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』である。

参考:山田涼介が奔走するシーンや涙を流す姿も 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』本予告

 原作は世界累計900万部を突破し、作家・東野圭吾史上最も泣ける感動作と言われている小説だ。とある街にある個人商店「ナミヤ雑貨店」。1980年、店主の浪矢雄治(西田敏行)は商売をしながら客の悩み相談に乗っていた。シャッターの郵便受けに入れられた手紙の回答は店の掲示板に貼り出され、深刻な悩みの回答は店の牛乳箱に。そして時は流れ2012年のとある夜。女性起業家を襲った矢口敦也(山田涼介)・小林翔太(村上虹郎)・麻生幸平(寛一郎)が空き家となったナミヤ雑貨店に身を潜めていた。そこに1980年から悩み相談の手紙が届く。ナミヤ雑貨店は一夜だけ過去と未来が繋がったのだ。3人は過去の悩み相談に回答し始める。物語が進むにつれ、様々なパズルのピースがはまっていき、奇跡が起きる……というストーリーだ。

 主演を務めるのはHey! Say! JUMPの山田涼介。演じる矢口敦也は児童養護施設「丸光園」の出身。翔太・幸平の中ではリーダー的存在で、人を信じることができないタイプである。どこか冷めていて、笑顔を見せることはほとんど無く、やや不良っぽいキャラクターだ。これまで山田が演じてきた役は天才肌だったり、正義感が強かったり、優男だったり……分かりやすい“ヒーロー役”であることが多かったため、山田にとっては珍しい役柄と言える。一見すると、映画『グラスホッパー』の蝉役と共通点があるようにも見えるが、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』では圧倒的な存在感はなく、良い意味で物語に溶け込んでいる。ともすれば、主演ということを忘れてしまうほどだ。実際、山田自身も公式サイトのインタビューで「今回はあえて“引く演技”をいつも心がけていました。主張し過ぎずにいかに自然にいられるか、この映画の世界にどこまで溶け込めるかっていうのを自分の中のテーマにしていました」とコメントしている。

 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に対する山田のこの姿勢は、正解だったのではないだろうか。溶け込もうと意識したことで、敦也という役にもスムーズに入り込めている印象だ。元々、山田は徹底的に役作りをするタイプ。例えば、2015年の24時間テレビスペシャルドラマ『母さん、俺は大丈夫』(日本テレビ系)の佐々木諒平役は、急性脳腫瘍を発病して命を落としてしまうという設定だった。その放送を見てびっくり。食事制限による役作りをした成果か、どちらかというと丸顔の山田の頬がげっそりと痩けていたのだ。ネット上に心配するファンの声が多数挙がったほどである。また、アイドル活動においてもストイックさは変わらない。『Myojo』誌の10000字インタビューをはじめ、様々なところでHey! Say! JUMPのメンバーたちが「山田は努力家」と口を揃えて発言しているのを目にする。

 しかし、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の敦也役は“必死”感が全くない。役作りを感じさせないほど、自然と役に入り込んでいるのだ。山田本人も「翔太を殴るシーンにしても“泣こう”なんて全く思ってなかった。でもあそこははじめて自分たちがこれまで歩んできた道を話すシーンだったし、それぞれの思いをバン!ってぶつけ合った時、自然と涙が出てきたんです」(引用:公式サイト)と語っている。引くことを意識した演技が、山田そのものの感情を引き出したのではないだろうか。そして、それが自然な演技へと繋がったのだろう。

 「斜に構えている部分はあるが、身内には温かく本当は良い奴」という、ある意味普通の青年を自然体に演じた山田。この作品・この役で、彼の役者としてのバリエーションが広がったはずだ。12月1日には、映画『鋼の錬金術師』の公開も控えている。パワーアップした山田は、人気キャラクターであるエドワード・エルリックをどう演じるのだろうか。公開までの約2ヶ月間が、長く感じて仕方がない。(文=高橋梓)