2015年にオープンした「方所」の成都店。系列中最大規模で、建築雑誌『ARCHITECTURAL DIGEST』において「世界で最も美しい書店14選」に選ばれるなど、デザイン性でも群を抜く(筆者撮影)

世界11の国と地域から書店経営者を招き、書店と都市の未来を話し合う「成都国際書店論壇(成都国際書店フォーラム)」が9月上旬の3日間、中国内陸部の四川省成都市で開催された。
主催は毛継鴻(Mao Jihong)氏が手掛ける大型書店・方所(Fang Suo Commune)。同店は広州発の高級ファッションブランド「例外(Exception)」の創業者として名を馳せる毛氏が、別途経営する広東方所文化投資発展有限公司の傘下にある。台湾の「誠品書店」、日本の「蔦屋書店」と並ぶ人気の大型書店チェーン・方所について、創業者へのインタビューを交えて紹介していきたい。

多彩な顔ぶれがそろった国際書店フォーラム


方所成都店イベントスペースで開かれた国際書店フォーラム。廖美立氏、香港のクリエーティブディレクター・黄炳培氏らも迎え、立ち見が出る盛況ぶり(方所提供)

2016年に続き2回目となる「国際書店論壇(国際書店フォーラム)」の会場となった「方所」成都店は、東京でいえば銀座に当たる春熙路エリアに位置する。

ゲストはグローバル情報誌『モノクル』アジア地域編集長ジェームス・チャンバース氏、南京市の著名書店チェーン「先鋒書店」の創業者・銭曉華氏ほか、フランス書店協会会長、イタリアの出版社兼書店チェーン「Feltrinelli(フェルトリネッリ)」最高執行責任者、米ロサンゼルスの本屋「The Last Bookstore(ザ・ラスト・ブックストア)」店長など、多彩な顔ぶれ。日本からは東京・下北沢で本屋「B&B」を経営するブックコーディネーター・内沼晋太郎氏が参加していた。


同時通訳を介し意見交換をするゲスト。(左から)台北の古書店「旧香居」オーナー呉雅恵氏、東京「B&B」共同経営者・内沼晋太郎氏、豪ブリスベンの新刊書店「Avid reader」創立者フィオーナ・ステージャー氏(方所提供)

方所スタッフは半年前から準備を重ねており、笑顔の中にも緊張感が漂っていた。

開幕式には成都市政府の担当者も出席し、1000カ所に上る書店の新規出店を支援する「西部文創中心建設行動計画」などを通じて文化事業に注力する考えを強調した。続いて行われた計5回の公開討論では、ゲストたちが壇上で書店経営について意見を交わした。一般客だけでなく新疆ウイグル地区や西安市など遠方からも書店・出版関係者が駆け付け、連日の盛況となった。


壇上の毛継鴻氏(方所提供)

筆者は、このイベントに司会兼コメンテーターとして参加した。他のゲストに参加した感想を尋ねると「中国は初めてだけど、皆さんずいぶん洗練されているのね」「用意してくれたホテルが豪華で驚いた」という素直で好意的な声が多かった。また、フォーラムが1つ終了するごとに出版・書店関係者がわれ先にとゲストに声をかけ、流暢な英語で交流する様子も印象的だった。

方所は2011年の広州市を皮切りに、2015年に成都市と重慶市、2016年には青島市に進出している。これら4都市の流行を担う新形態の大型書店として国内メディアで盛んに取り上げられてきたが、今回のイベントを通じて自らを国際的な立ち位置にまで引き上げようとする積極的な姿勢も垣間見られた。

顧客を引き込む空間づくり

方所の各店舗はいずれも市中心部にあるショッピングモール内に店舗を構える。現地の出版関係者によると、大型書店はショッピングモールの集客力の一端を担うため、比較的有利な条件でテナント入居できるとのこと。台湾で「書店の女王」と称される廖美立氏が経営に携わっていることもあり、方所の高級感漂う空間設計、カフェを併設した店舗設計、国内外の著名人によるイベント開催で集客を図る「複合型」の経営スタイルは、台湾の大型書店「誠品書店」を彷彿とさせる。

成都店の売り場面積は約4000平方メートル、平日で7000人、週末はその2倍以上の客が訪れるという。一般書籍のほか台湾から輸入した繁体字版書籍、洋書や海外の雑誌を含む15万冊をそろえるほか、「例外」ブランドの衣類や日本の伝統工芸品なども販売している。今夏は京都の茶筒司「開化堂」から職人を招いた実演会も開催した。

中国では近年、方所のような大型書店の新規開店が相次ぐ。書店の複合型経営において草分け的存在である台湾の誠品書店は2015年、江蘇省・蘇州市に三菱地所と共同で開発したタワーマンション複合型の店舗をオープン。このほか成都市に拠点を置き全国展開する「言幾又」、インスタ映えする鏡張りの天井で知られる「鍾書閣」などが有名だ。

大型書店を含む中国のソフトパワーは、潤沢な資金と柔軟な思考で伸び盛りにある。経済発展が一段落する中、一般の人々が海外に赴く機会が激増したことも後押しし、生活水準だけでなく文化的素養を高めたいという欲求が国民の間で高まっていることが背景にある。それが表面的なものでないことは、中国の大手企業中信集団(CTIC)の出版子会社・中信出版集団が、蔦屋書店の経営母体CCCと今年5月に資本業務提携したことからもうかがえるだろう。

日中双方、世界各地の書店・出版事業者がより深くつながる時代に向け、方所はどのような戦略を描いているのか。これまで中国のカルチャー産業に20年以上身を置いてきた毛氏に話を聞いた。

――まず毛さんの経歴を教えてください。


毛継鴻(Mao Jihong):湖南省岳陽市出身、北京服装学院卒業。1996年、ファッションブランド「例外」を広州市で立ち上げ、国内約100カ所に販売網を広げる。「例外」は習近平・国家主席の妻、彭麗媛氏が外遊の際に身に着けた国産ブランドとして知名度が高い。2011年に広州市で方所を設立、現在4店舗を展開する。傘下に2015年に上海でオープンした書店「衡山・和集(The Mix-Place)」を持つ(筆者撮影)

毛継鴻(以下、毛):子ども時代は読書をするほうではなかったが、父が退役後に新華書店で働いていたこともあって、当時の一般的な家庭としては家に本が多かった。北京のファッション関係の大学を卒業した後、一旗揚げようと当時最も経済が発展していた広州に向かった。

やっと見つけた広告デザインの仕事は月給600元(1元は約16円)。そのほとんどをつぎ込んで、市内でいちばん勢いがあった五羊新城というエリアに部屋を借りた。そういう場所に住んでると、人が僕を見る目も違ってくるんだ。後にファッションブランドを立ち上げたのも、方所を設立したのも広州。夢をかなえてくれた街だ。

――中国ではネット書店における書籍の割引販売が著しい。ファッションデザイナーとして成功を収めた後、儲からないとされる書店事業に参入した理由は?

:経済発展と同時に、各都市の均一化が進んだ。ファストフード、ファストファッションブランド一辺倒になると、ある時点で人々は自分の存在感の希薄さに気づく。生きる意味や、個性を探りたい欲求が強まる。それは都市も同じことで、個性ある人間、文化的な街づくりには共通したものがある。読書や人とかかわることで知識をどんどん仕入れて、自分の素質を高めていくことが欠かせない。

勉強のためという目的ありきの読み方になりがち

:この国では高校、大学までの読書量は決して少なくないが、勉強のためという目的ありきの読み方になりがちだ。就職してからは読書量ゼロの人も多い。やがて子どもができて「パパ、空の終わりはどこ?」「なんで人は死ぬの?」なんて聞かれて、困るわけだね(笑)。

子どもが発する質問は内発的で、知りたいという純粋な欲求に基づいている。僕も娘を持って初めて、これこそが知識や本に対するあるべき態度だと気づいた。子どもたちに誘発される形で自分がこれまで読まなかった分野の本を読むようになり、子どもが親を牽引する読書環境を整えてみよう、という考えに行き着いた。これが今の方所だ。


方所成都店の児童書コーナー「小方所」(方所提供)


末っ子として兄や姉にかわいがられて育った毛氏。大企業のトップでありながら、親しみやすい雰囲気を漂わせる(筆者撮影)

安全な公共空間として機能する方所

――貴店は複合型形態だが、書籍売り場が大部分を占める。書籍販売の現状は?

:現在の4店舗を見渡すと、書籍販売が全体の売り上げに占める割合は約半分だ。売り上げも当初の目標を達成している。客層は広いが、特に若者や親子での来店が多い。中国の大きな都市では、安心して子どもを遊ばせられる場所が少ないため、弊店が安全な公共空間として機能しているとも見ている。

子どもに行きたいと思わせる場作りを心掛けると同時に、子どもに連れられて来店した親たちも満足できる専門性の高い内容の本、質の高い環境を用意した。顧客からは「子どもが誕生日には方所に行きたいと言っている」「ウエディング写真の撮影をしたい」という声も聞く。周囲の住民から一定の評価を受けていることの証しだと考えている。場作りと売り上げは相互関係にあるだろう。

――同業他社の参入も多い。貴店の今後の見通しは?

:「一城一店(ひとつの街にひとつの店舗)」という形態を続ける。成都店がゆったりした造りになっているのに比べ、重慶店は本の密度が高い空間というように、店の設計にも変化を加えている。また、各都市で売れ筋の書籍が違うこともわかってきたので、入荷やイベント内容でそのノウハウを生かす。来年は上海の浦東地区で売り場面積8000平方メートルの店舗をオープンする。また、需要が大きい児童書についても今後は出版の段階からかかわるプロジェクトを考えている。

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毛氏に「方所」という社名の由来を聞いたところ、6世紀の王朝・梁の皇族で文章家の蕭統(しょうとう)が記した「定是常住、便成方所」から採ったという。解釈には諸説あるが、毛氏は「豊かな文化を育む下地は、人が出会い知識を深める場所にこそある」という意味を込めた。複合経営を行いながらも、「書店の原点」を忘れない姿勢の表れといえるだろう。