かなりニッチな市場でも、ガッツのある秀子さんはあきらめなかった(イラスト:堀江篤史)

「20代の頃は野心満々でした。大学受験に失敗したあたりから失敗だらけだったので、チャンスをつかんで人生を変えたいと思っていたんです。つねに自分の現状に満足していませんでした」

東京・有楽町にあるビストロで、大手企業に総合職として勤務する酒井秀子さん(仮名、36歳)と向かい合っている。自らのキャリアと婚活への考えや思いがあふれ、話し言葉にするのがもどかしい様子だ。少し早口で、勢いよく話す。「個性が強くて、変わった性格」を自認しているらしい。子どものような笑顔なので圧迫感は覚えない。

率直に意見しすぎてしまい…


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秀子さんは短大を卒業してから、現在の会社に就職し、店舗の販売スタッフとして働いていた。率直に意見をしすぎて、先輩の女性スタッフからいじめられてしまったという。しかし、本社の重役に自分を売り込むことに成功し、重役秘書に転じた。夜間の大学に通って4年制大学の卒業資格を取り、4年間の海外駐在も経験。一般職から総合職への業種変更も果たし、帰国してからは国際業務に携わっている。女性会社員版のシンデレラストーリーである。

一方で、恋愛に関しては35歳で結婚するまで「全然ダメだった」と振り返る。合コンなどに積極的に参加したが、普通そうに見える男性には興味を持てず、遊んでいる雰囲気の男性ばかりに惹(ひ)かれてしまった。自分からアプローチしたこともある。相手にされなかった。

秀子さんの分析によれば、日本人男性は「手が届く範囲」の女性を好み、引き立ててもらうことを求めている人が多い。行動力、積極性、野心の塊のような秀子さんは好かれにくいのだ。

「仲よくなると一緒に旅行する話が出ますよね。ハワイや沖縄に連れて行ってもらいたがるのがかわいい女性なんだと思います。私は興味がありません。サハラ砂漠やメキシコの遺跡を見たい。実際、どちらも自分一人で行ってきました」

恋人が見つからぬまま、海外勤務になったのは29歳のときだった。駐在先は、日本人会社員の中でもトップエリートが赴任する世界的な大都市である。出会いのチャンスもあったのではないかと聞くと、「英語に自信がない日本人同士で固まっていて、魅力的ではなかった」と秀子さん。ただし、彼女自身も現地になじんだわけではない。

「現地の人たちのコミュニティに参加したことがあります。でも、男性が積極的すぎる。露骨に体目的だったり。絶対にない!と思いました。怖かったです」

かけがえのない存在になりたい!

遊び人っぽくて面白い日本人男性と、まじめな交際をして結婚もしたい秀子さん。かなりニッチな市場である。しかし、ガッツのある秀子さんはあきらめなかった。むしろ、帰国後は結婚への思いは高まっていた。

「私は『自分にしかできない分野で人から必要とされて成長する』ことを生きる原則にしています。必死で仕事をしてきましたが、大企業の社員はしょせん歯車ですよね。かけがえのない存在にはなれません。家庭は違います。うちの両親はすごく仲がよくて、お互いを必要としながら成長し合っている関係です。やっぱり仕事よりも家庭だ!と気づきました」

秀子さんが勤務する大企業は、社員に同質性の高さを求める社風で業界では知られているという。秀子さんの価値基準からは「賢いけれど面白みのない」男性が多い。そんな中で、飛び抜けて優しく人間味のある上司がいた。部長職でありながら、部員と一緒に泥臭い仕事をすることも厭(いと)わない、さわやかな外見の男性だ。

彼の名前を義雄さんとしておく。秀子さんより7歳年上のバツイチ独身男性である。秀子さんは積極的に食事に誘って、月に3回は夕食を共にする関係になることに成功。夏休みは2人で海水浴もした。

しかし、半年ほど経っても、義雄さんは秀子さんとの距離を縮めようとはしない。秀子さんは気持ちを抑え切れず、「大好きなんですけど」と告白をした。義雄さんはなぜか驚愕の表情を浮かべ、信じられない返事をしたのだ。

「オレは全然、君のことが好きじゃないよ。部下が慕ってくれているのかな、としか思っていなかった。オレは恋人もいらないし、結婚もしない」

聞けば、義雄さんは前妻と不幸な形で10年前に死別している。それ以来、前妻の思い出と一緒に生きていくと決めているという。

それは1つの生き方だけど、独身女性の気持ちをもう少し推し量るべきではないだろうか。義雄さんは優しそうに見えて、心の大事なところが欠落しているのかもしれない。

「私の半年間を返して!と思いました。ショックで会社を1週間も休んでしまいました」

悪いことは重なる。以前から折り合いの悪かった別の上司からのパワハラが強まった。さらに別の年上男性からは飲み会で「会社の男をたぶらかしているんだろう。お前は遊び人だから結婚できないんだ!」と罵倒された。完全なセクハラである。

「社内のセクハラ相談室に訴えて、その男性は左遷されました。でも、忘れることはできません。結婚していればあんなひどいことを言われなかったのに、と自分を責めてしまいました」

職場復帰と同時に結婚相談所に入会

原因不明の高熱が出るようになり、病院ではうつ病と診断された。そのまま休職し、4カ月間は自宅でボーッと暮らしていた。もともとエネルギッシュな秀子さんは元気になり、職場復帰をすると同時に、やや高額の結婚相談所に入会することに決める。35歳のときだった。

「結婚相談所に対しては、正直言って偏見がありました。日常生活では相手を見つけられない、モテない人だけが入っていると思っていたんです。でも、実際に入会して男性のプロフィールを見たら、年収800万円以上のすてきな人ばかりでした。どの人ともデートしてみたい、と思ったぐらいです」

結婚情報サービスは無数にある。秀子さんのように大企業に勤めていて収入も低くない女性が、自分と同等以上のステータスを持つ男性との出会いを求めるのであれば、「老舗」かつ「高額」の結婚相談所に入会するのが正解だと筆者は思う。高額の基準は、入会金や月会費を合せて30万円以上が目安だろう。これだけの金額を結婚相談所に使う男性は、経済的に余裕があり、なおかつ結婚に真剣であることが多い。

ただし、こうした相談所では男性のほうも女性のプロフィールを吟味する。秀子さんも担当者から「35歳という年齢はかなり厳しい。頑張ってください」と激励された。実際、自分からアプローチした12人の男性からはすべて「お断り」されてしまった。お見合いすらできなかった。

現在の夫である光正さん(仮名、43歳)とは、彼のほうからアプローチしてもらってお見合いが実現した。外資系企業を渡り歩いてきた経歴を持つ光正さんは離婚歴がある男性だ。つねに新しい経験をすることを重視しており、嫌いな言葉は「現状維持」。女性に対しても、野心や積極性を求めている。秀子さんにはぴったりである。

「私がマイナスだと思い続けてきたポイントをプラスに評価してくれる男性に初めて出会いました。1人でバックパッカーをしていたり、海外に駐在していたことも、『オレは経験していないので教えてくれ!』という姿勢なんです。私と一緒にいると世界が広がる気がする、とまで言ってくれて……。すぐに告白されたので、『もちろんです!』と即答しました」

わずか2カ月の成婚退会である。現在、秀子さんは愛情深い光正さんとの新婚生活を大いに楽しんでいる。

「何でも腹を割って話し合える関係です。お互いに思ったことをボンボン言うのでケンカになることもあります。でも、すぐに仲直りします。家族としての一体感がすごいんです」

いちばんそばにいるからこそのアドバイス

向上心が強い秀子さん。光正さんからは、組織人としての処世術も学んでいる。会社での言動を彼に話すと、「君は悪い意味で素直すぎる」と諭された。

自信家の上司がいたとする。秀子さんは尊敬できず、彼の欠点をみんなの前で指摘してしまう。光正さんは「〇〇さんってすごいですね、と言っておけばその場が丸く収まることもあるよ」と教えてくれている。愛情と信頼で結ばれた結婚相手だからこそのアドバイスだと思う。普通の友人関係では、「君は悪い意味で素直すぎる」とまでは言えない。

子どもに関しては、「自然に任せる」という共通認識だ。妊娠できたらいいとは思うが、2人きりの生活でも十分に満足している。自由な思考の持ち主である秀子さんと光正さんは養子縁組も視野に入れているという。

「当たり前ですが、私たち夫婦も血がつながっていません。でも、運命は結ばれていて家族になれました。同じように、親に恵まれなかった子どもと気持ちの面で通じることもできるのではないでしょうか」

2人はほかにも展望がある。秀子さんの夢である「民泊ビジネス」を関東地方の海辺でかなえることだ。光正さんの趣味はサーフィン。海での副業は望むところだ。いま、秀子さんと同じぐらいの熱心さで取り組んでいる。

自分では短所だと思っていたことを長所だと喜んでくれる人がいる。何でも話し合い、ケンカしてもすぐに仲直りする。そして、共通の目標のために力を合わせる。秀子さんと光正さんは「よき相棒」同士なのだろう。結婚とは、相棒の体温を傍らに感じつつ、しっかりと前を向いて自分の足で歩くことなのかもしれない。