ブラック企業=長時間労働=残業抑制」の図式は間違っている(写真:プラナ/PIXTA)

「ブラック企業」という言葉は、いまや当たり前のようになりました。最近は厚生労働省が「ブラック企業リスト」なるものをホームページに掲載するようになり、労働基準関係法令に違反している企業に警鐘を鳴らしています。しかし、結局のところ、何をもって「ブラック企業」というのでしょうか。いま一つスッキリしないブラック企業の定義を、草食投資隊の3人に議論してもらいました。

「ブラック企業リスト」の基準とは?


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渋澤:厚生労働省が作成して公表している「労働基準関係法令違反に係る公表事案」というリストがありますよね。通称、「ブラック企業リスト」などといわれているのですが、厚労省はこれを毎月発表するということです。残業代の未払いや違法な時間外労働以外のケース、たとえば安全措置を講ぜずに危険な作業をさせたなどの事例も多く載っています。

中野:確か、ブラック企業リストって当初発表されたのが5月で、そのときの社数が332社。この8月に発表されたときには401社に増えたものだから、ちょっと話題になっていましたね。でも、このブラック企業リストに掲載される基準って何ですか。

渋澤:表題のとおり、労働基準関係法に違反したという疑いで送検された企業が掲載されるもので、送検を公表した日から約1年間、厚労省のホームページに掲載されます。確か、初めて公表されたときに、例の大手広告代理店をはじめとして、大企業がいくつかリストに含まれていたことから、話題になりました。

中野:でも、誤解を恐れずに言うなら、ベンチャー企業って、形式的な基準だけで判断すれば「ほぼブラック企業」ですよね。「サブロク協定」といわれる労働基準法第36条を、杓子定規に守っていたら、仕事が回らなくなります。

ブラック企業というと長時間労働ばかりが問題視され、働き方改革では、労働時間の短縮化が議論の俎上に乗せられていますが、なかには働くのが好きな人もいますよね。研究などに没頭しているうちに、気づいたら毎日終電だったという人が、いてもおかしくない。スタートアップ段階のベンチャー企業だったら、そういうところは結構たくさんあると思うのですが、それも十把一絡げでブラック企業認定するとしたら、それはおかしいと思います。

労働基準監督署から見たら、「労働は悪」?

藤野:「労働は悪」というのが、労働基準監督署の制度設計の背景にある気がしています。

中野:それ自体、おかしな話ですよね。

藤野:とはいえ、国民の中にも「労働は悪」という考え方に対して、同意する人は結構いると思います。当然、今の若い人の中にも、そう思っている人は少なからずいて、リクルーティングのとき、学生がやたらと「有給はちゃんと取れますか?」とか「残業はどのくらいあるのでしょうか」と質問してくるケースが多いと聞いています。経営者側からすればうんざりしてしまう面もありますが、厚労省的な考え方からすれば、「正しい」ということになるのでしょうね。

中野:結局、会社で残業ができないものだから、家に帰ってから残った仕事をしている人もいます。ビジネスは成長が前提ですから、仕事を減らすことはできません。それなのに、会社からは早く家に帰れと言われるのでは、会社でこなせなかった仕事を、自宅やファミレスで続けるしかなくなる。それこそ不健全だし、ヤミ労働の元凶になります。これでは、ますます労働のブラック化が進むことになります。だから、画一的な労働観はよくないし、ましてや働くことが悪だというような価値観が広まると、社会の成長そのものが低下してしまうおそれがあります。

藤野:確かに、残業は少ないほどいいという風潮だけが先に広まると、労働は悪であるという考え方が、今まで以上に強まる懸念はあります。

渋澤:ただ、一方で日本人は休み方が下手だともいえますよ。たとえば経営者の中には、自分が休むことについて、悪いことだと思っている人が、実は結構いらっしゃいます。それではダメでしょう。やはりリセットは大事です。特に、クリエーティブな仕事をしている人は、休みを取らないといいアイデアも生まれてきません。経営者だって、立派なクリエーターですからね。

そういう立場にある人が、まったく休みを取ろうとせずに働き続けるのは、結局のところ効率を下げることにつながります。休み方がきちんとできないと、働き方も満足にできないことになります。だって、考えてもみてくださいよ。欧州ではサマーバケーションを1カ月くらい取るのが当たり前ですが、欧州経済って破綻していないじゃないですか。

中野:休み方、忘れちゃうんですよ。だって、草食投資隊の3名はそれぞれ小さな会社を経営していますが、われわれトップが土日と祝日はきちんと休み、加えて夏休みと冬休みをしっかり取っていたら、今頃会社そのものがなくなっていますよ。

藤野:確かに、スタートアップの段階では、どうしてもトップ依存にならざるをえないのは事実です。すべての企業は、創業期のトップのブラック的な働き方によって成り立っているし、創業メンバーの準ブラック的な働き方によって、より大きく伸びていくのは、どうしても避けがたいところがあります。また、そこで働いている従業員も、何となく「自分たちの仕事ってブラック的かも」と思っているけれども、自分たちの働きによって会社と社会が変わっていく実感があるし、実際に結果に表れてくるから面白くなって、頑張っているという事実もあります。

働く時間で形式的に判断しても、意味がない

渋澤:本当のブラック企業は、多様性を許さない世界なのではないでしょうか。たとえば定時で帰ることを許さないというような。でも、それは絶対に間違っています。

中野:これは人事制度を作るときに思ったことなのですが、労働基準法の仕組みそのものが矛盾だらけなのですよ。極端に言えば、仕事ができない人ほど相対的に高い給料をもらっていて、それが新たな不公平感を組織内に広めている。しかも、社員は労働基準法によって守られているから、辞めさせたくても辞めさせられない。結局、今の労働組合法、労働基準法、労働関係調整法という労働三法の下では、フェアな人事制度を作るのは不可能です。で、結局のところ年功序列がベターということになってしまう。

渋澤:ただ年功序列って、人の能力に対する評価は不要ですよね。結果は出さなくても、年功を重ねればある程度まで役職が上がっていく。で、その間、ただひたすら「頑張ります」と言っていれば、何となく上司の覚えもめでたく、会社に残っていられる。これでは会社も伸びません。

中野:いろいろ考えてみると、やはり世間のブラック企業に対する定義が間違っているのではないでしょうか。なぜ、ブラック企業なのかということを、再定義する必要があると思います。おそらく、働く時間は問題ではなくて、たとえば製造現場の人を、まるでロボットであるかのように、何も考えさせずに働き続けさせるとか、無言の圧力でノルマに達しなかった分を社員の自腹で買わせるなんてのは、ブラック企業の典型例でしょう。


企業価値だけでなく、物事の本質を見極める力がある。「草食投資隊」が個人投資家から支持されている理由はここにある(左からセゾン投信の中野晴啓社長、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長兼CIO、コモンズ投信の渋澤健会長)

「やりがい」「報酬」「労働管理」の3つの軸で考える必要

藤野:法律に沿って定義するならば、基本的に労働基準法に違反するのがブラック企業です。ただ、より深く考えると、ブラック企業かホワイト企業かということと、社員の幸福度合いは、また別の問題なのかもしれません。多くの若い人は、会社自体がブラック的な存在だと思っているフシがありますが、それは身を粉にして働いているのに、キャリアも給料も上がらない。でも、「やりがいがある仕事なんだ」と思い込まされて、働かされる。

いわば「やりがい搾取」によって多くの人が絶望しながら働いているのが現実だと考えているからです。だから、やりがいという軸と、それに報いる報酬体系、そして適正な労働管理という3つの軸で考えていく必要があるわけですが、残念ながら今、話題になっている働き方改革では労働管理に偏っている。ここに問題があるのだと思います。働く人それぞれにとって、何が大切なのかというバランスが大切なのだと思います。

渋澤:最後に、ちょっと違う視点の話について触れたいと思います。何かというと昔、残業といえば、定時になっても終わらない仕事をこなすためのものだと思っていたのですが、今は違うようですね。朝残業といって、朝早く来ても、それが残業時間にカウントされる。まあ、労働者からすれば当然の権利ということなのでしょうけど、これどう考えればいいのでしょうかね。

藤野:朝、体操を5分間やったら、凡例では残業にカウントせよという話もあります。

中野:某銀行では行員が早朝に来て仕事をしないように、会社のパソコンは午前9時前には稼働しないようになっていると聞きました。

渋澤:正直、これだけ窮屈になると、なんだか経済の成長力をそぐことになるのではないかと、正直、心配になります。

中野:そうですね。確かに労働者の権利ではあるのですが、線引きの難しいところはあると思います。経営者が従業員に無理強いをしてブラック企業化する一方、従業員は自分たちの権利を声高に主張してモンスター化する。何というか、この社会の余裕のなさこそが、会社と従業員の関係を考えていくうえで、いちばんの問題になっているような気がします。