年1回のマンモグラフィ検査で乳がん死が減るのか?(depositphotos.com)

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 6月22日、乳がんのために34歳の若さで亡くなったフリーアナウンサーの小林麻央さん――。闘病生活を綴ったブログとその死は多くの人々に影響を与え、女性にとっては乳がんを自分自身の問題として考えるきっかけになった。

 乳がんを早期発見するために効果的なのは、定期的な「がん検診」だ。日本では「40歳以上の女性」に「2年に1度」の乳がん検診を受けることを薦めている。その乳がん検診で行われるのが、乳房エックス線検査(以下マンモグラフィ)だ。

なぜマンモグラフィは「40歳以上」?

 ところで、麻央さんのように「30代以下」で乳がんに罹る人の数は年々増えていると言われる。それなのにマンモグラフィ検診が「40代以上」を対象としているのはなぜか?

 それは、30代以下のマンモグラフィ検診が、乳がんによる死亡を減らすという明確なエビデンスがないからだ。30代以下の乳がんは滅多に見つからない。そのため、がんを発見できるメリットよりも検診によるデメリットのほうが大きいのだ。

 乳腺が発達している20〜30代は、乳腺密度が高いため、マンモグラフィでは乳腺とがんによるしこりを判別しにくい。どちらも同じように白く写るからだ。そのため、本当はがんではないのに「疑いあり」とされる偽陽性も起こりやすくなる。

 その結果、不要な検査や過剰治療によって手術を受けたり、放射線を被曝したり、不安感や精神的なストレスを感じたり、進行しない微少ながんの発見に繋がるリスクも負わなければならない。このような不利益が利益よりも大きいことから、30代以下の検診プログラムは設定されていないのだ。

最新研究では「40歳から毎年検診」を推奨

 一方、「乳がん発症のピークが40代の日本」に対し「多くが60代後半と遅い欧米」では、マンモグラフィの開始年齢や頻度について多くの議論がある。過去にはアメリカやカナダで「40代の乳がん死亡率減少に効果が認められない」といった報告も出されている。

 そんな中、アメリカのがん専門誌『Cancer』(8月21日オンライン版)に報告された研究で、乳がんの死亡率を最大限に減らすことができるのは「40歳から84歳までの間に年1回」であることが新たに示された。

 アメリカではマンモグラフィ検診を必要とする年齢や頻度について、学会や団体によって異なる指針を示している。

 たとえば米国がん協会(ACS)は「45〜54歳は年1回、55〜79歳は隔年」。米国産科婦人科学会(ACOG)は「40〜75歳まで隔年か年1回」。米国予防医学専門委員会(USPSTF)は「50〜74歳まで隔年」という立場だ。

 そこで今回、米コロラド大学医学部放射線学教授のR. Edward Hendrick氏らは、1960年生まれのすべての女性が、「40〜84歳まで年1回」「45〜54歳まで年1回」「55〜79歳まで隔年」「50〜74歳まで隔年」のいずれかのスケジュールでマンモグラフィ検診を受けた場合のリスクとベネフィットを分析し、比較した。

 その結果、乳がんによる死亡を最も低減できるのは「40〜84歳まで年1回」であることがわかった。そして、この通りにマンモグラフィ検診を受けると、乳がんによる死亡を39.6%低減できると推定した。

 一方「45〜54歳まで年1回+55〜79歳まで隔年」の場合は30.8%、「50〜74歳まで隔年」の場合は23.2%の乳がんによる死亡低減につながると推定された。

 さらに、1960年生まれの米国人女性全員がいずれかのスケジュールでマンモグラフィ検診を受けた場合に回避できる乳がんによる死亡は、,婆2万9400件、◆椨で約2万2800件、い婆1万7200件だった。

「マンモグラフィは万能ではない」との指摘も

 この結果を踏まえて、「乳がんによる早期死亡を回避するには40歳から毎年受けるのがベスト」とHendrick氏は結論づけた。

 アメリカで生涯に乳がんと診断される女性は「8人に1人」にのぼる。しかし、40歳から2年に1回以上マンモグラフィを受ける女性は5割程度だという。「どのスケジュールで検診を受けるのかにより、回避できる乳がん死亡数はかなり変動する」と同氏は強調している。

 ただ、今回の研究では費用面が考慮されておらず、既存の検査機器とスタッフで、検診受診者の増加に対応できるのかも検討されていない。また偽陽性の結果が出ることで、本来必要のない追加検査が行われる問題もある。

 それに対しHendrick氏は「平均的な40代の女性が毎年検診を受けても、擬陽性の確率は12年に1回程度。また、実際には乳がんでないのに生検(針で組織の一部を抜き取って行う検査)が実施される確率も150年に1回ほど」と話す。

 さらにマンモグラフィで乳がんを見逃したり、放射線被曝により乳がんになったりするリスクもわずかだとする。

 一方、◆椨を推奨する米国がん協会(ACS)のOtis Brawley氏は、この研究結果について「平均的な40歳女性では、マンモグラフィ検診を受けたかどうかが5〜10年以内の健康状態に影響する可能性は極めて低い」と指摘。「マンモグラフィは不完全なツールであり、偽陽性の確率も高い」と懐疑的だ。

検診で見つかるがんの多くは「無害」なのか?

 もっとマンモグラフィの頻度を増やせば、本当に乳がん死を減らすことができるのだろうか? 今年6月には、そうした論争に一石を投じる衝撃的な論文が米イェール大学の医師らによって『New England Journal of Medicine』に発表されている。

 タイトルは「小さな乳がんは小さいからたちが良いのか、たちが良いから小さいのか?」というものだ。
 
 研究チームは、米国内の数十万人の乳がん患者の悪性腫瘍データの解析。腫瘍をその悪性度合いや、特定のホルモン受容体の有無など、生物学的特徴に基づいて「予後がいい」「中間的」「予後が悪い」の3グループに分類。サイズや年齢、生存率などとの関係を調べた。

 その結果、予後のいいがんは小さなものが多く、成長も遅いためマンモグラフィで見つかってから悪性化まで15〜20年もかかることがわかった。

  逆に、予後の悪いがんは大きなものが多く、進行のスピードが極めて早いため1〜2年のうちに生死にかかわる段階へ進行する。そしてたいていは、患者自身が胸のしこりを見つけている。

 つまりマンモグラフィで発見するような「小さな乳がん」の多くは、もともと成長速度が遅く「たちの良い」もので、たとえ早期発見できなかったとしても根治が簡単だというのだ。

 論文共著者であるDonald R. Lannin氏は「小さながんの予後が良好なのは、早期発見したからだというのがこの100年の常識でした。しかしそれは重要ではなかった。小さながんの方が、治療効果が高いのは、そもそも特性が根本的に異なるからなのです」と述べている。

致死的ながんを判別できる検査法の開発を

 小林麻央さんは生前、人間ドッグの再検査で受けたマンモグラフィで、乳がんが見落とされてしまったことをブログに綴っている。

 そして検査をした病院に3カ月後に再来院するよう言われていたものの、多忙のあまり受診が遅れた。8カ月後、胸の硬いしこりに気づいた麻央さんが急いで受診すると、乳がんはすでに脇のリンパ節に転移していることが判明した......。

 もしかすると麻央さんを蝕んだがんは、きわめて進行が早い「たちの悪い」ものだったために、最初のマンモグラフィでは病巣を捉えきれなかったのかもしれない。

 そして仮にもっと早く、3カ月後に乳がんと診断され治療を始めていても、結果は大きくは変わらなかった可能性がある。それだけ悪性の乳がんは、早期発見・早期治療が困難だといえる。

 臨床利用は始まったばかりだが、従来とは違う新たな検査方法も開発段階にある。複数の遺伝子検査と、腫瘍細胞の特徴を総合することで、将来的には致死的ながんに進行するかどうかをより正確に判断できるようになる。

 進行性のがんだとわかれば、患者にはより高度に個別化・細分化された治療法が必要になる。しかし、小さく進行しないがんに対しては「共存」を選び、過剰検査・過剰医療に陥らないという選択肢もあるだろう。患者の利益になる乳がん検査・判定方法の早い開発を望みたい。
(文=編集部)