1周年記念イベントには800人を超える大企業の若手社員が集まった(写真:One JAPAN)

大企業の若手による組織横断的なイノベーション促進活動“One JAPAN”が、創設から1周年を迎えました。都内で開催された記念イベントには45社のメンバーをはじめとする800人超のビジネスパーソンが参加。若手の勢いはさらに加速しています。本稿ではその活動の広がりを概観します。

1周年記念イベントは熱気が拡大


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9月10日、日曜日の午後にもかかわらず都内のカンファレンスセンターは大企業の若手の熱気があふれていました。One JAPANの1周年記念イベントです。

「このままで会社は大丈夫か、何とかしなければならないのでは」、そんな焦燥感に駆られた若手が、社内で有志活動のグループを作り、さらに会社の枠を超えてイノベーションや働き方改革に関する連携を始めたのが1年前。最初は120人で開催した会合が、800人を超える参加者が集まるコミュニティに成長しました。

さまざまな業種の大企業において、新事業開発、経営企画、人事、経理などを担当する若手が集合。イベント以外でも、仕事の後や休日を使って、分科会やグループ活動を実施。「空気を読むのではなく、空気をつくる。」行動するプラットフォームの形成を目指しています。


今回のイベントでは大企業のトップマネジメントも登壇した(写真:One JAPAN)

イベントは、One JAPAN 代表の濱松誠氏のオープニングスピーチに始まり、著名なAI研究者である東京大学の松尾豊特任准教授から「年功序列がイノベーションを遅らせる」とのメッセージを含んだ基調講演。そして、旭硝子の宮地伸二常務、JTの岩井睦雄副社長、パナソニックの樋口泰行専務によるパネルディスカッション。今回からは、日本を代表する経営者も登壇することで、経営マネジメント層の巻き込みを図っています。実際、オーディエンスの中にも各社若手の上司である部長や役員の姿が見られました。

その後、分科会プロジェクトの発表や、経済同友会、新公益連盟、経済産業省次官・若手プロジェクトなど外部団体のショートピッチと勢いのあるプレゼンテーションが続きました。

セッションの後には、「モノ・サービス博」と題し、会場でのブース展示を中心に交流会が開催されました。46のブースではOne JAPANで生まれたプロジェクトやオープンな連携を希望する技術を展示。具体的なモノやサービスのデモを前に、話にも熱が入ります。マインドフルネスを誘導するCRE-P(クリップ)ロボットや、日本郵便の荷物配送ドローンの前では人だかりができていました。


日本郵便のブースでは荷物配送ドローンを展示した(写真:One JAPAN)

ブースで説明をするNEC事業イノベーション戦略本部の大久保亮介チーフデザイナーは語ります。

「今回は中央研究所で開発した技術の事業化アイデアを探しています。通常、研究所の技術を外で話す機会は少ないし、話ができるとしても同業種の方が多いのですが、この集まりだと幅広い業種でイノベーションを志向するメンバーが集まっているので、新たな用途開発などの広がりが期待できます」

オープンさを重視する新しい交流のスタイル。さまざまな進展を期待できる様相を呈しています。

分科会の活動は?

One JAPANでは、全体の会合とともに、それぞれの課題意識を持ってメンバーが集まる分科会活動も活発化しています。オープンイノベーション、女性の活躍、子育て、ソーシャルインパクト、ヘルスケアなどの注目分野や、経理、人事などの職種ごとの分科会がさまざまな試みを展開しています。

その一つ「ハッカソン分科会 (代表:富士通研究所 角岡幹篤氏)」では、共同でハッカソンを実施し、ハッカソン企画の運営ノウハウも伝授しています。学生のハッカソンのように徹夜でアイデアを出す、というのではなく、一定の期間をおいて会社に持ち帰りつつ、アイデアを深めるという大人のスタイルになっています。

ハッカソンイベントでの優勝チームは、「先端技術によるお袋の味の伝承」に取り組んでいます。チームメンバーの富士ゼロックス機能部材開発部太野大介氏は語ります。

「チームでは、フライパンの動きや熱をセンサーでとらえたり、調理の手順を記録したりしながらデータをそろえ、お袋の味を定量化・客観化し、それをコミュニケーションロボットやARを使って、継承者に伝達します。会社内のハッカソンだと、ひねったアイデアを出したつもりでもみんなが同じようにひねっていて面白くない。この集まりは本当に思わぬアイデアが出てきて貴重です」

若手のこの活動は外部の人からはどのように見えるのでしょうか。ゲストスピーカーで参加した東京大学i.school共同創設者、リ・パブリック共同代表の田村大氏は、次のように見ています。

「設立されてから1年も経たないうちに、企業の垣根を超えて、さまざまなオープンイノベーションのプロジェクトが立ち上がっていくスピード感は圧巻。参加の裾野が順調に広がっていけば、”日本の企業間イノベーションのデファクトプラットフォームは、One JAPAN”と認識されるのも時間の問題、と確信めいたものを感じる機会でもありました。この熱気、スピード、そしてスケール感。もう、全方位的にすごい。

もちろん、気になるところもありました。今、起こっている企業間のオープン・イノベーション・プロジェクトは、それぞれの企業の『得意』を持ち寄ったに過ぎず、それを通じてどんな社会へのインパクトを生み出したいのかが、ぼんやりしているものが多い印象です。イノベーションの創出に欠かせない課題の設定は『インパクトの大きさ』と『それが実現できそうな見通し』のセットでないとワークしないので、今のままでは不十分。一段の具体化を伴う『翻訳』が必要になります。ここは対策が必要かと思いました」

One JAPANは“実践共同体”

ここまでの歩みを振り返って濱松代表は語ります。

「One JAPANを立ち上げてからこの1年間、本当にいろいろなことがあったけど、仲間たちのおかげで、この日を無事迎えられ、大盛況に終えることができました。過去最高の800人が集まりました。共創の事例もいくつか生まれました。挑戦する個人が増えました。社内組織風土もほんの少しではありますが、変わりつつあります。ただ、正直、まだまだ足りません。むしろ、スタートです」


1周年の想いを語る濱松代表(写真:One JAPAN)

「日本をよりよくするために、社会をよりよくするために、大企業を変革し、挑戦する個人をもっと増やし、組織風土を変えていく必要があります。アントレプレナーを増やすこととイントレプレナーを増やすこと、この両方が必要です」

「行動・挑戦したからこそ、賛否両論は生まれます。僕たちが大事にしているのは、まず打席に立つこと、その回数を増やすこと、失敗を恐れず一歩踏み出すこと、つながること、そして組織へ持ち帰ることです。One JAPANは“実践共同体”です。今日という記念すべき日を境に、またこれからも試行錯誤を繰り返しながら進化し、歩みを前に進めていきます」

One JAPAN参加企業の若手中堅社員に実施した「働き方」意識調査(1657人が回答)では、イノベーションを興したいという人は全体の85%に上ります。しかし、実際に行動している人は45%。イノベーションの促進には人的ネットワークの拡大が重要との認識が強く、そのための仕組みが必要との要望も出ています。

トップ経営者の集まりである「イノベーション100委員会」(事務局:経済産業省、Japan Innovation Network、WiL)のレポートでも、イノベーションを興す経営者の行動指針として、「挑戦の奨励:社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する」「越境の奨励:組織の壁を越えた協働を推進する」が掲げられています。

若手の活動は周囲を巻き込みながら拡大中

企業においては、中長期的な視点に立って、挑戦する若手の応援や組織の壁を超えた新事業の取り組みを続けることが大事だと思います。

インパクトが大きい具体的な成果がたくさん出てくるには、時間がかかるかもしれませんが、人材への投資、新事業への投資としての仕組みが形成されることが必要と考えています。

One JAPANでは、10月3日から開催されるCEATEC Japanへの共同出展や経済同友会との連携など、新たな取り組みも進めるとのこと。発足から1年。若手の活動は周囲を巻き込みながら広がりを見せています。今後、ますますの運動の拡大を期待しています。