元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。

今回より、テーマは富裕層からプライベートバンクに移ります。その名前だけは知られるようになってきたプライベートバンクとは、どのような存在なのでしょうか?

プライベートバンクは「一族のCFO」

 お金の傭兵。
 お金の執事。
 お金の番人。

 プライベートバンクをたとえる言葉はさまざまありますが、私なりの表現をするなら「一族のCFO(財務責任者)」といったところでしょうか。

 私自身も単身でベンチャー企業を立ち上げた身なのでよくわかるのですが、煩雑なお金のことを一任できるCFOが会社にジョインしてくれたときの安心感たるや。しかも、財務だけではなく経営判断で悩んだときのよき相談相手にもなってくれます。外部の税理士にお願いするだけではこうしたメリットは得られません。

 富裕層にとっての理想的なプライベートバンクのあり方もこのような位置付けです。顧客の目標が実現するように、時に参謀として、秘書として、メンターとして、そして友人として、顧客とその家族に寄り添っていく存在なのです。

「人生とは自分という会社を経営するようなものだ」──これは私の口癖です。誰にでも当てはまる言葉だと思っていますが、富裕層の方であれば特にその実感を持つはずです。

 戦略のない会社が市場から淘汰されるのと同じように、漠然と資産を管理してきた結果、資産を増やせるチャンスを逃したり、資産はあるのにキャッシュフローでつまずいてしまったりする富裕層はたくさんいます。それどころか、相続の際に資産承継に失敗し、資産を大きく減らさざるをえなくなったケースも多数存在します。

 その点、「一族のCFO」であるプライベートバンクが富裕層の側にいれば、資産を見える化し、最適化戦略を立ててくれますし、そこに障害が見つかれば全力で取り除くためのノウハウと人脈を提供してくれます。

 その結果として富裕層は資産を確実に守り、次世代に資産をスムーズに継承していくことができるのです。

三位一体で動くプライベートバンク

 通常、プライベートバンク以外の金融機関から受ける提案は、商品レベルの話でしょう。その商品を買うことで資産配分がどう変わるのか、そしてそれが自分の将来の資産形成にどのような影響を及ぼすのかについては自分で考える必要があります。
 一方で、プライベートバンクの役割は、大きく次の3つに分類されます。

(1)資産管理方法の検討
(2)具体的な商品提案
(3)投資戦略の立案

 他の金融機関と同じく具体的な商品提案もおこないますが、顧客の資産をトータルで管理していくためには、この3つのプロセスを三位一体で提供できる体制が必須です。

 プライベートバンクの直訳は「私的な銀行」です。顧客からしてみれば「自分と一族のためにフルカスタムで動いてくれる銀行」ということ。

 銀行といっても預金口座やATM、融資の窓口があるわけではありませんが、お金にまつわる高度なサービスをワンストップで一任できるサービス形態こそがプライベートバンクの本質的な価値であり、世界の富裕層から必要とされるゆえんといえるでしょう。そしてそのサービスを享受できる基準が、富裕層とそれ以外を分ける「1億円の壁」になるのです。

プライベートバンクの歴史的な成り立ち

 日本ではまだ馴染みの薄いプライベートバンクですが、その発祥の地はスイスです。

 もともとは無限責任を有する個人(プライベートバンカー)によって運営される銀行を意味していました。無限責任というのは、もし顧客の資産を毀損してしまった場合はプライベートバンカーも一緒になって責任を取るということ。つまり、経営と所有が一体化した銀行ということです。顧客と運命共同体であることも意味しており、そうした献身的な姿勢がプライベートバンクというブランドを築いたといってもいいでしょう。

 ちなみにスイスでは、「プライベートバンカー」と名乗れるのは無限責任を有する個人が所属する組織のみと法律で定められており、その他の「プライベートバンク」と明確に区別されています。今ではスイス・プライベート・バンカーズ協会(http://www.swissprivatebankers.ch/en/)に所属する次の6行のみとなっているようです。

Bordier & Cie(ボーディエ)
Rahn + Bodmer(ラン・アンド・ボドマー)
Baumann & Cie(バウマン)
E.Gutzwiller & Cie Banquiers.(ガットウィラー・バンカース)
Reichmuth & Co. Private(ライヒムース)
Mourgue d'Algue & Cie(モーグ・ダルグ)

 また、スイスには無限責任にはこだわらないスイス・プライベート・バンク協会(https://www.abps.ch/en/)も存在し、そちらでは次の10行が会員となっています。

Bordier & Cie(ボーディエ)
Rahn + Bodmer(ラン・アンド・ボドマー)
E.Gutzwiller & Cie Banquiers.(ガットウィラー・バンカース)
Reichmuth & Co. Private(ライヒムース)
Mourgue d'Algue & Cie(モーグ・ダルグ)
Gonet & Cie(ゴネ)
Lombard Odier Darier Hentsch & Cie(ロンバー・オディエ)
Mirabaud & Cie(ミラボー)
Pictet & Cie(ピクテ)
Landolt & Cie(ランドルト)

 これら以外にもスイスには多くのプライベートバンクが存在しています。いまだにプライベートバンクの聖地であり、集めているオフショア資産(居住地外で運用される資産)の総額では世界一の国なのです。

BCGによる調査(Global Wealth 2015 : Winning the Growth Game)では、世界のオフショア資産の25%に当たる2.7兆ドルがスイスで運用されているそうです。

 プライベートバンクの最も古い形態は、外国に出稼ぎに出るスイス人傭兵たちの資産管理から始まったといわれています。
 その後、小国にすぎないスイスのプライベートバンクがヨーロッパ諸国の富裕層からお金を集めることができるようになったきっかけは、スイスの永世中立をヨーロッパ諸国が認める条約が19世紀のはじめに結ばれたことです。

 衝突の絶えないヨーロッパにおいて「不可侵の国」であるということは「資産を守るのに最適な場所」を意味します。第2次世界大戦でも、ナチスの迫害から逃れるために近隣諸国の資産家がスイスのプライベートバンクに資産を移したという歴史があります(スイスは裏でナチスに協力していたため侵略されなかったといわれています)。

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