スタートトゥデイの前澤友作社長。2017年度中に予定しているプライベートブランド展開の準備に力を入れている(写真:スタートトゥディ提供)

PBという新たな展開へ

「プライベートブランド(PB)に関するある製品をまもなくこの工場で生産開始します」――。9月16日、ファッションECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長(41)は、自身のツイッターでこうつぶやき、”新工場”の写真を公開した。


9月16日に前澤社長のツイッターで”公開”された新工場の写真。ここでいったいどんなプライベートブランドを作るのか

ツイートとともにアップされた写真は4枚。そのうちの1枚は広大な施設内を撮影したもの。外国人らしき作業員が見受けられるが、この施設が国内にあるのか海外にあるのかは判然としない。スタートトゥデイに詳細を問い合わせたが、「回答は控えさせていただきます」と言うのみだった。


『週刊東洋経済』は9月19日発売号(9月23日号)で、「メルカリ&ZOZOTOWN 流通新大陸の覇者」を特集。流通業界の新常識をつくる2社の取り組みを追っている。

そのうちの1社であるスタートトゥデイでは2017年度中にPBの展開を予定しており、前澤氏はこの準備に今、最も力を注いでいる。詳細はほとんど明かされておらず、ヒントがあるとすれば、今年2月に前澤氏がツイッターに投稿した「ICT、IoTをフル活用します」「老若男女、広くお楽しみいただけます」という2つだけだ。

ゾゾタウンの開始は2004年。「服はネットで売れない」という常識を覆し、今では年間の商品取扱高が2000億円を超す。今年8月には、上場から10年足らずで時価総額が1兆円を突破した。

百貨店首位の三越伊勢丹ホールディングスは約4600億円だから、すでに2倍以上の差をつけている。これまで国内アパレル業種で時価総額が1兆円を超えていたのは、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングだけ(約3.3兆円)だった。小売業全体でも時価総額が兆円単位の企業はセブン&アイ・ホールディングスやイオン、ニトリホールディングスなど数社しかない。ゾゾタウンの拡大に加えて、PBという新たな展開に打って出る前澤社長とはどんな経営者なのか。

「人知れず努力する」「数字に強い」

古くから前澤氏を知るのが、EC事業本部担当の武藤貴宣取締役だ。武藤氏が入社したのは2002年で、当時は輸入CD・レコードの通販とネット上のセレクトショップ「EPROZE(イープローズ)」の運営が中心だった。(1998年に有限会社スタート・トゥデイ設立。2000年に株式会社スタートトゥデイに組織変更)。

15年にわたって前澤氏を見てきた武藤氏は、「昔から変わっていない。人が見ていないところですごく努力して、あるとき(完成形を)バンッと出す。今も(PBのために)いろいろ調べているんでしょう」と話す。武藤氏が入社したとき、社員は数人しかいなかった。「今の従業員からすると信じられないかもしれないが、当時は前澤がいちばん早く会社に来て、いちばん遅くまで残って作業をしていた」と振り返る。

PBの展開でも「あるときバンッと出す」としたら、今回公開された巨大な工場が重要な拠点になりそうだ。


胗澤孝旨(やなぎさわ こうじ)/銀行、証券会社などを経て2006年にスタートトゥデイ常勤監査役。2008年取締役就任。09年からCFOを務め、2017年4月から副社長を兼務(撮影:今井康一)

スタートトゥデイのナンバー2である胗澤孝旨副社長兼CFO(最高財務責任者)は、前澤氏について「ものすごく数字に強い」と話す。

胗澤氏は富士銀行(現・みずほ銀行)、NTTデータ経営研究所、みずほ証券などを経て、2006年にスタートトゥデイの常勤監査役に就任。2009年からCFOを務める数字のエキスパートだ。スタートトゥデイの上場前からそばで見てきた印象は、「前澤は右脳と左脳の両方を使う。アイデアマンだが、思いつきで事業はやらない。これは10年前から同じ。自分でアイデアを出しつつ、数字に強いからきちんと採算を考えて、『あ、これは儲からない』と即座にわかる。だから結構、石橋をたたいて“壊す”」(胗澤氏)という。


澤田宏太郎(さわだ こうたろう)/2008年スタートトゥデイコンサルティング代表取締役。2013年からスタートトゥデイ取締役。かつて在籍したNTTデータ経営研究所では胗澤氏と同僚だった(撮影:今井康一)

マーケティング本部担当の澤田宏太郎取締役も、右脳と左脳という言葉で前澤氏の特徴を語る。「右脳と左脳の切り替えがとても速い。前提や制約がないところで、突拍子のない案を次々と出す。一方、どこかの時点で絶対に『数字で積み上げるとこうなるよね』と言ってきて、非常に細かい単位で考えている。彼の中で右脳と左脳の思考が行ったり来たりしながら、いいあんばいのところにたどり着く」という。

「ヌーの群れの先頭」

EC事業本部担当の武藤氏と同じく経営幹部として社歴が長いのが、物流とシステムの両方を統括するフルフィルメント本部担当の大蔵峰樹取締役だ。もともとソフトウエア開発会社の代表を務めており、創業間もない頃のスタートトゥデイと取引したことがきっかけで、その後、2005年に入社した。


大蔵峰樹(おおくら みねき)2005年入社。フルフィルメント本部長を経て、2011年に取締役就任。システム面を担当する子会社のスタートトゥデイ工務店の取締役も務める

大蔵氏が語る前澤氏の印象はほかの役員のそれとは少し異なる。「もちろん(右脳・左脳の)両方が動いているが、感覚的に右脳メインで決めるときと、理詰め、理詰めの左脳メインで決めるときがある」(大蔵氏)。

今回のPBについて、前澤氏は「企画開始から6〜7年かかっている」としており、準備にかなりの時間をかけている。大蔵氏の言葉を借りれば、「左脳メイン」のプランなのかもしれない。

また、大蔵氏は前澤氏の経営手法について「ヌーの群れ」に例える。「ヌーは大群で次の水場を求めて移動する。行き先をいちばん前の1頭が決めているイメージ。あるときは崖の上に登って『こっちに水があるから行こう』という。でもたくさんの群れを連れていくのは大変。なぜそっちにあると思うのかと聞くと、『理由はどうでもいいから、こっちだ』とは言わない。納得する答えを(前澤氏は)返してくる」(大蔵氏)という。


先頭に立つ前澤氏が次なるステージへ向かおうとしているのがPBの展開だ。ただ、EC事業本部担当の武藤取締役ですら「PBの戦略自体は共有しているが、細かいところは把握していない。前澤の指揮の下、別部隊がやっている」と話すのみ。社内でもかなり情報統制が敷かれたプロジェクトである。

どの役員もPBの具体的な戦略について問うと堅く口を閉ざすが、「ゾゾタウンにとってプラスアルファになる。ぜひやってもらいたい」(武藤氏)、「当然やるからには、PBを第2の柱にしたい」(胗澤副社長)と期待を寄せる。マーケティング担当の澤田取締役は「前澤の性格からして普通にはやらない。(PBを発表して)『あぁ、それね』『やっぱりね』とか、絶対に言われたくないだろうから」と語った。

ファッション業界の注目を集めるゾゾタウンの自社ブランド展開。前澤社長の右脳と左脳を駆使したPBとはいかなるものなのか。ベールを脱ぐときが近づいている。

『週刊東洋経済』9月19日発売号(9月23日号)の特集は「メルカリ&ZOZOTOWN 流通新大陸の覇者」です。