トヨタの新スポーツカーブランド「GR」シリーズをお披露目する豊田章男社長(右)(撮影:梅谷秀司)

「80年の歴史があるトヨタ自動車が改めて面白い車を作れることを示したい」
 
トヨタは9月19日、走行性能を大幅に高めたスポーツカーの新ブランド「GR」をセダンからミニバンまで一同にそろえて大々的に発表。「モリゾウ」の名前で自らレースにも参戦している豊田章男社長もサプライズ登壇し、そう力を込めた。

GRシリーズで年間5万台販売目指す

トヨタは2010年から「G Sports」(通称G‘s=ジーズ)などの名前でスポーツカーブランドを展開してきたが、あまり浸透していなかった。個々の車種ごとに企画や開発などの機能が分散していたこともあり、今回から組織もブランドも統一して戦略的に打ち出していく方針に転換する。


発表会会場には9月19日に発売した7モデルに加え、2018年春までに追加される4モデル、合計9車種11モデルが勢ぞろいした(撮影:梅谷秀司)

新たなブランド「GR」はトヨタのモータースポーツブランド「GAZOO Racing」(ガズーレーシング)の頭文字。エンジンの性能を高めた「GRMN」を頂点に、量販スポーツモデルの「GR」、ミニバンなどにも設定し気軽にスポーツドライブを楽しめる「GR スポーツ」という3つのラインを設定した。

19日に全国のトヨタ販売店で発売したGRシリーズは「ヴィッツ」や「プリウスPHV」、「ハリアー」など計7モデル。7モデルで月間2100台の販売を目指す。2018年春までに「86“GR”」や「アクア”GRスポーツ“」など4モデルを追加し、合計9車種11モデルに増やす計画だ。5年以内にGRシリーズで年間5万台の販売を狙う。

会見でガズーレーシングカンパニーの友山茂樹プレジデントは「GRブランドは完成車に後から手を加えるのではない。生産工程の中にGR専用のチューニング工程を組みこみ、生産ラインで車体周りから剛性を強化する、いわゆるファクトリーチューニングだ。高品質で低価格のスポーツカーを提供していく」と話した。

価格は「ヴィッツGRスポーツ」が208万7640円から。同じベースで比較可能なモデルでは、「ヴィッツハイブリッドGRスポーツ」がベースの「ヴィッツハイブリッドU」に対して、24万1920円高い232万9560円だ。量販モデルは手軽にスポーツカーを楽しみたい消費者を取り込もうと、抑えめの価格設定だ。

豊田社長も「ファン・トゥー・ドライブ」をアピール


発表会では豊田社長自らスポーツカー「86」のハンドルを握り、ドリフト走行を繰り返すパフォーマンスまで披露した(写真:Yoshio Tsunoda/AFLO)

トヨタがスポーツブランドの強化で狙っているのは、団塊世代を中心とした車好きへの購買喚起と車離れしているとされる若年層の新規開拓の両方だ。

この日のイベントでは、豊田社長自らが「86」のハンドルを握り、タイヤをきしませながらドリフト走行を何度も繰り返してみせ、トヨタが掲げる「ファン・トゥー・ドライブ」を必死にアピールした。


豊田社長は新ブランド「GR」で車好きの購買層と若年層の両面で開拓を進める考えだ(撮影:梅谷秀司)

豊田社長は「車は便利な移動手段と考える人が多数だが、そんな中でも俺ってクルマ好きとアピールできるのが今回のモデルだ。両方のお客様をあえて満足させたい」と話す。

顧客との接点をできるだけ増やすため、「町いちばんの楽しいクルマ屋さん」をコンセプトにスポーツカーを軸にした販売店「GRガレージ」を今年度中に全国に39店舗オープンさせるほか、ファンイベントも増やしていく考えだ。

トヨタはハイブリッド車(HV)などの環境性能や品質で高い評価を得てきたが、走行性能となると独のダイムラーやBMW、アウディといった欧州系と比べブランドの訴求力が弱い。そこで最近は新たな顧客層の獲得を狙い、モータースポーツ分野を強化中だ。

2017年には世界屈指のレースである世界ラリー選手権(WRC)に18年ぶりに復帰。世界耐久選手権(WEC)でも最高峰のクラスをHVで戦っている。こうした活動が効いてスポーツカーの販売では成果が出始めていて、GRシリーズは欧州を皮切りに海外でも展開していく。

モータースポーツでトヨタの壁を壊す


ガズーレーシングカンパニーの友山茂樹プレジデントはGRシリーズを世界展開する考えを示した(写真:梅谷秀司)

組織も改正した。モータースポーツは単なる一部門だったが、今年4月から社内カンパニー「ガズーレーシングカンパニー」に昇格。企画や開発、設計などを統合し、レース活動での知見を生かした市販車作りを目指す。

友山プレジデントは「レースが人を鍛え、車を鍛える。市販車にどれだけ落とし込めるか挑戦する」と抱負を述べたうえで、「トヨタの壁を壊すのが使命。ガズーレーシングは変革と挑戦の旗印であり、新しい時代に向けたトヨタの新たな挑戦がここから始まる」と鼻息は荒い。モータースポーツ活動は莫大な資金がかかるため、業績次第で撤退する会社も多いが、トヨタは永続的な活動として展開していく方針だ。


お披露目された「86“GR”」。「ファン・トゥー・ドライブ」で新たなファンを開拓できるか。新ブランド「GR」の展開に注目が集まる(撮影:梅谷秀司)

もっとも足元では100年に一度の転換期を迎えている自動車業界。電気自動車や自動運転、コネクテッドカーなどの発表が相次ぎ、ITなどの異業種からも参入が絶えない。走行性能から移動するための総合的なモビリティサービスに競争の軸足が移りつつある。そういった意味では”逆張り”ともいえるトヨタの新たなモータースポーツ戦略はどこまで支持を広げられるか。