祝ミニ四駆35周年! 三十路レーサーが20年のブランクを背負って全国大会に参戦してきた

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2017年8月26日、品川シーサイドフォレスト・オーバルガーデン(東京都品川区)にて「富士通乾電池提供ミニ四駆ジャパンカップ2017(東京大会3)」が開催された。

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初の土日開催となった本大会では、2日間で合計3000人を超えるミニ四レーサーが品川に集結。本記事では、ジャパンカップに初参加した三十路レーサーの奮闘を通じて“ミニ四駆日本一決定戦”の熱気をレポートする。

取材・文:結城紫雄 撮影:市村岬 編集:新見直

「ミニ四駆ジャパンカップ」とは?


2次ブームの主役「フルカウルミニ四駆」シリーズの初期モデル「ソニックセイバー」。車輪を覆うデザインが特徴的な同シリーズは「空気力学(空力=エアロ)」の要素を取り入れヒット/画像は株式会社タミヤ公式サイトより



老舗模型メーカー・タミヤより、1982年からリリースされているモーター駆動式自動車模型「ミニ四駆」。第1次ブーム(88年〜)、2次ブーム(94年〜)という2度の隆盛を経て、35周年を迎える今年は3次ブーム(2012年〜)の真っただ中である。

「ミニ四駆ジャパンカップ」とは、88年にスタートしたミニ四駆の速さを競う公認競技会のひとつ。毎年夏(00〜11年は中断)全国各都市にて開催され、最盛期は30万人以上を動員した国内最大級のホビーイベントだ。ちなみに第1回ジャパンカップチャンピオン・駒木孝有選手は現在、プロレーシングドライバーとしてスーパー耐久などで活躍している。

運営スタッフは参加者がたとえ小学生でも「君たち」ではなく「選手の皆さん」と呼ぶ。それぞれがひとりのエンジニアかつピットクルー、そしてレーサーだからだ



今年で30歳になる筆者は、94年に初めてミニ四駆を手にした2次ブーム直撃世代(通称“フルカウル世代”)。当時は九州の田舎町で草レース(模型店などによる非公認大会)に興じる日々で、主要都市にて開催されるジャパンカップへの参加はついに叶わなかった。

しかし12年、ジャパンカップが13年ぶりに復活開催されるに伴って、公認競技会に年齢制限のない「オープンクラス」が設けられた。三十路レーサーにも門戸が開かれた今、満を持して20年越しの日本一決定戦へ挑戦する運びとなったのである。

いざ、ジャパンカップ参戦!


参加したのは、初の土曜開催となった東京大会3(1日目)



かくして、真夏の品川にて「ジャパンカップ東京大会3」が幕を開けた。受け付け開始時刻にはすでに長蛇の列ができていたが、それもそのはず参加レーサー数は1238名(翌日曜には2237名の参加があり、2日間の合計は3475名)。

この日はオープンクラスのみの開催だったため、大人に交じって小学生レーサーの姿もちらほら。前ブーム経験者が家族で参加する光景も見られ、いまやミニ四駆は世代を超えるホビーとして定着したと言えよう。

参加抽選や受け付けはスマホアプリ『TAMIYA PASSPORT』によりスムーズに行なわれる。筆者の時代はハガキで応募していた/黒Tが筆者



受け付けで参加番号・参加クラスを示す「エントリーシール」を受け取り、本大会のサーキットを確認。今年の舞台「グレートクロスサーキット2017」と初対面である。

これは……



でけえ!



めちゃくちゃ大きい。昼寝中の龍かな? と思うほどの巨大さである。何せ5レーンの全長は、模型店などに設置されている市販サーキットの実に10倍(200m)。途方に暮れる筆者をよそにレーサーたちはおのおのピット(整備)スペースを確保し、直前のセッティングに臨んでいた。

写真中央、天を衝くΩ状のアップダウンセクション「オメガバンク」



全国女王&マッドマックス覇者が集結!



組み立ては接着剤いらずのはめ込み式&ビスどめ。大人はもちろん小学生でも楽しめるホビーだ



各セクションが会場ごとに異なるレイアウトで組まれるのが「グレートクロスサーキット」の特徴。参加レーサーはサーキットに合わせてセッティングを行なっていたが、ほぼ身ひとつで参加した筆者は特にすることがない。

仕方なく会場をうろついていると、ひと際目を引くピットを発見した。F1ピットのような物々しいスペースで真剣な表情を見せるのは、なんと2015年の全国チャンピオン・藏川美樹選手である。

東北のミニ四チーム「Z-FLYER」の藏川幸彦選手、藏川美樹選手



レース直前に取材を快諾してくれた両選手は「気候によってサーキットのコンディションも変化するので、それに合わせた調整が難しい」と、初参戦レーサーからすると異次元レベルのコメント。

筆者のマシンについて「前後の重量を調整するといいかも」とアドバイスしてくれたが、手に持っただけでマシンバランスを見抜く観察眼もまた異次元レベルだった。

美樹選手はかつて、タミヤのお膝元としても知られる激戦区・静岡大会から勝ち上がり全国を制した猛者中の猛者



「トルクチューンモーター(2次ブーム時の主流)を使っています」という筆者に「ト、トルクチューン!?」と驚く幸彦選手



そして前回記事でも登場してくれた、ルール無用の非公認レース「マッドマックスカップ」第4回チャンピオン「右下のN」選手の姿も(参照記事)。

マッドマックス杯を2度制した右下のN選手。愛車はウイニングバード



今年のジャパンカップについて「そこまで複雑なレイアウトではないスピードコースなので、コースアウトしないように頑張ります」とのこと。あんなグネグネしていて“複雑なレイアウトではない”ってどういうことだ。

これがスピードコース? マジ?



筆者のマシンについて「左右のプレートの間をつなげたら、可動域が抑えられていいのでは」と、徹夜のセッティングをわずか7秒で修正してくれた



「全国チャンピオン」と「無差別級最速の男」の登場により、風雲急を告げる「ジャパンカップ東京大会3」。

自信が揺らぎ始めた筆者は、ひっそりとタイヤを大径(最高速重視)から小径(パワー・安定性重視)へと交換した。人間、土壇場で本性が出るものである。

「ジャパンカップ東京大会3」開幕!


Aコースの実況・進行役のMCガッツ。1・2代目「ミニ四ファイター」の後継者



12時20分、「ジャパンカップ東京大会3」(1日目)の予選がスタート。5人が一斉に出走し、1位のみが2次予選に進出する。




まず驚かされたのはその速度。幼少時の草レースの記憶と比べるまでもなく各車めちゃくちゃ速い!

ストップウォッチで計測したところラップタイムはおよそ30〜35秒なので、トップ集団は時速24km超。ミニ四駆は1/32スケールなので実車に置き換えて計測すると約750km/hとなり、F1の最速トップスピード記録(372.6km/h)を軽く上回る。これがミニ四駆20年間の進化……!

「バンクを駆け上がる姿、まさに昇り龍!」「カーブで散るマシンが打ち上げ花火のようですね」など、風流さも併せ持つMCガッツの実況



さらに驚くのが、超高速のレースを盛り上げるMCガッツの実況だ。「4コース、バンキッシュJr.が前に出る!」「おっとマンモスダンプが追い上げてきてますね」といったマシン名はもちろん、「3コースのマシンが使ってるのは35周年の記念パーツかな?」など細かなパーツまで見逃さない。知識の豊富さに加えて動体視力がすごすぎる。

公認競技会では「本人に限りレースの結果に対する異議申し立てが可能」など、規則も細部に至るまで整備されている。MLBのチャレンジ制度みたいだ



空気(エアロ)の力でジャパンカップを制そう



車体が3分割できる「MSシャーシ」も初見。セパレートならではの“ねじれ”を利用して衝撃を吸収するセッティングがトレンドだとか



ここまで予選、そして各レーサーのピット風景を見た筆者には、驚きの連続であった。なぜならば「両軸モーター」や「マスダンパー」「カーボンプレート」など、使ったことのないパーツを次々と目にしたからである。

というのもミニ四レーサーとして20年のブランクがある筆者は、車体からパーツに至るまですべて90年代当時の2次ブーム仕様で参戦してしまったのだ。

20年でタイヤの常識も変わる。現在主流の極薄加工ゴムタイヤ、通称“ペラタイヤ”で予選突破した浴衣の女性レーサー。市販パーツをただ取り付けるだけでなく、オリジナルの加工も腕の見せどころ



例えばモーターひとつ見ても、20年前の2次ブーム時は「トルクチューン(パワー重視)」「レブチューン(最高速重視)」「ハイパーミニ(バランス型)」の3種、通称“チューン系モーター”のみ。複雑なレイアウトが採用される公認競技会では事実上トルクチューン一択だった。

2次ブーム時の常識「レストンスポンジタイヤ」を使うレーサーはついに発見できなかった



しかし現在は上記3種に加え、「スプリントダッシュ」「ハイパーダッシュ2」といった高性能の新型モーター(通称“ダッシュ系モーター”)の解禁もあり計13種から選択可能に。セッティングにさらなる多様性が生まれ、玄人レーサーからビギナーまで個性豊かなマシンに調整することが可能となっている。

プレートを加工したオリジナル機構のマスダンパー



20年間のブランクを出走直前に思い知らされた筆者だったが、しかし。ミニ四駆とは高価なパーツを買えば速くなるものでも、新型車を使えば勝てるわけでもない。技術や経験、丁寧なメンテナンス、時の運で勝敗は左右される。そして何よりアイデア次第で楽しみ方は無限大。

それこそが、ミニ四駆が玩具ではなく“手のひらサイズのモータースポーツ”といわれるゆえんなのだ。

2次ブームを支えたミニ四駆漫画では、「フルカウル」「ダウンフォース」といった空力の重要性がたびたび説明されている/画像は『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』(こしたてつひろ/小学館)より引用



とりわけ筆者は2次ブーム経験者=フルカウル世代。最新パーツの代わりに、当時培った「空力」の知識を存分に生かしマシンを製作した。下記が筆者のジャパンカップ参戦マシン、ソニックセイバー(94年発売)である。

“修羅の国”こと福岡出身なので「車をカスタム」と聞くとどうしてもこういう方向性になってしまう



後輪を完全に覆い空力性能を高めたうえ、可動式リアカウルによるオリジナル機構「エアロ・ブレーキ・システム(ABS)」を搭載。

直線ではフラットのまま最高速を維持し、車体が不安定になるアップダウンでは風圧によりカウルがオープン。パラシュートのように風を受け減速しようという目論見である。

自動開閉式リアカウル。風を味方につけた者が勝つ!



非作動時にも「重量」という足かせから逃れられないマスダンパーに比べ、ABSは非常に軽いためトップスピードの伸びにも期待できる。……これはひょっとしたらイケるんじゃないか?

自信が揺らぐとすべてのマシンが速そうに見える(実際速い)



MCガッツの「同じパーツを使っても同じ走りができるとは限らないんですよね」という実況を耳にしたこともあり、出番が近づくにつれ筆者は次第に自信を取り戻していく。

三十路レーサー&旧マシン、出走!



出走直前の筆者。汗だくなのは、駅を間違えひと足先に2kmほど走ってきたから(気温36度)



予選開始から1時間、ついに筆者の番号が呼ばれた。いよいよ出走となるわけだが、その前に車検場にて「車検」が待っている。

車検とはタミヤが定める「ミニ四駆公認競技会規則」に違反していないかどうか検査するもの。車体の重量やサイズ、ローラーの個数など多岐にわたる項目があり、ひとつでも違反すると出走することができない。

実際の自動車競技さながらのレギュレーションも「制限のなかで工夫する楽しみ」を教えてくれるミニ四駆の醍醐味である。

「マシンチェックコーナー」で車検前に確認してもらうこともできる。写真では最低地上高をチェック中



違反がなければ、公認競技会の車検通過を示す「ゼッケンシール」が貼られる。そして感慨に浸る間もなくすぐ出走! 行くぞ、Keep on Running!

加齢による反射神経の衰えか、青シグナルが点灯してもただひとりマシンを離せていない筆者(赤の第4レーン)。ミニ四駆漫画の主人公が行なう「スタートの練習」にも意味があったのだ



各車一斉にスタート。筆者のマシンはといえば、お……遅い!!

違う意味で独走態勢に入ったソニックセイバー。トルクチューンモーター+超速ギヤーは20年前の王道セッティングのはず、なのだが



しかしミニ四駆はRC(ラジコン)カーのような操縦ができないため、置いてけぼりを食らうマシンを前に、やれることといえば地団駄を踏むぐらいしかない。

とはいえ、直線での不利はある程度想定内だ。旧シャーシならではのショートホイールベース+狭トレッドを生かしコーナーで差す!

先頭はまだか、先頭がまだ見えねえ! 右下のN選手が「可動域の広さ」を懸念していたとおり、風圧を受けすぎて180°回転したABS



と思った瞬間、風圧でABSが作動。ただでさえ遅いのにさらに減速してどうする。

またたく間に周回遅れとなったソニックセイバーは、なんと他車に追いつかれクラッシュ。右リアカウルを吹き飛ばされ無念のリタイアとなった。

18秒で人生初のジャパンカップが終了&マシンが大破し、品川の地にくずおれる筆者



ちなみにマシントラブル以外での「追突」はそこそこ珍しい光景とのことである。

筆者と同じ出走回でともに走った美女レーサー(緑の第2レーン)。愛車はサンダーショット



ミニ四駆35年の超進化



筆者が遅いとはいえ、同方向に直進するマシンを後ろから粉砕(右後輪のカウルがもぎ取られている)するハイスピード。これでもまだ予選である



筆者のジャパンカップはあっけなく幕を下ろしたが、大会は予選を順調に消化。開始から4時間後の16時45分には、1500名のレーサーが5人に絞られ「東京大会3」初日の頂点を決める決勝戦が行なわれた。

4時間レースを見続けていると、スタート直後から「このマシン……速い!」と体感でわかるようになる



2次予選・決勝を走るのは当然、予選をコースアウトせず完走したマシン。しかし使用電池の個体差や藏川選手が指摘した「気候によるコンディションの変化」、走行レーンの違いなどによりコースアウトが続出。デジタルゲームとは異なる“再現性のなさ”もミニ四駆の奥深さのひとつだ。

アバンテ、アスチュートといった1次ブームの名車も。人気車種は新型シャーシでリメイクされることもある



パーツや車体の進化については先に述べたが、これも毎年の公認競技会を経てレーサーとタミヤが培ってきた経験から生まれたもの。

30年前から走行に必要不可欠なパーツとして常識だった「ガイドローラー」や筆者が使用した「スタビライザーポール」といった部品も、もともと小学生が洋服のボタンやマチ針をミニ四駆に装着し遊んでいたのを、タミヤ社員が目にし市販パーツ化に至ったものだという。

ジャパンカップはグループでの参加応募もできる。チームで情報交換も勝利のカギ



レーサーがさらなる高みを目指しマシンをカスタムすれば、メーカーであるタミヤもそれに応えニューマシンや新型パーツを開発する。そのような切磋琢磨を経て35年、ついにミニ四駆はF1の速度をも超えるまでに成長を遂げたのだ。

難セクションをクリアするとギャラリーから大歓声が起こる。今大会最大の難所はスタート直後の「富士通ポップ」



かくして見事「東京大会3」の王者に輝いたのは、過去5年間で数度の2、3位を経て、今回初めて栄光をつかんだ津田淳希選手。




表彰台で「やっと勝てました」と心境を吐露した苦労人レーサーは、「チャンピオンズクラスの中橋選手からアドバイスをもらい、(同じレイアウトの)AコースとBコースで微妙にゆがみが違ったので、合わせてセッティングを変えたのがよかったです」とサーキットのコンディションまで読み切る慧眼ぶり。

今回の優勝により、10月に開催される「ミニ四駆ジャパンカップ2017チャンピオン決定戦」への出場が決定した津田選手は、「全国はさらに速いレーサーが集まるので、胸を借りる気持ちで臨みます」と語ってくれた。

ミニ四駆1次ブームはファミコン全盛期、2次ブームはプレステ台頭期。ミニ四駆とゲームブームの一致には「一度ゲームに慣れ親しんだ子供たちが、デジタルにはない“リアル”を求めてミニ四駆を手に取る」という構図が見て取れる



誕生35周年を迎えてなお衰えないミニ四駆の熱気を体感できた今大会。前ブーム時代のマシンやパーツも多くが現在も引き続き販売されており、大型電気店や模型店ではサーキットの設置やレースの開催も行なわれている。

また美しさやドレスアップのアイデアを競う「コンクールデレガンス」という公認コンテストに見られるように、速さを追い求めるだけにとどまらないのがミニ四駆の面白さだ。




10月8日まで各都市で開催中の「ミニ四駆ジャパンカップ2017」のほか、全国の公式ミニ四駆取扱店「ミニ四駆ステーション」でも定期的にレースが開催中。

かつてのミニ四レーサー、そして新たにマシンを手にしたミニ四ビギナーも、35周年を機にサーキットへ足を運んでみてはいかがだろうか。