カール・ハンセン&サンの「CH24 Yチェア」 Photo by FASHIONSNAP

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 松屋銀座が独自のフィルターで厳選した"ホンモノ"の品々を紹介するイベント「HONMONO 〜銀座で出会うホンモノたち〜」が、9月20日の今日スタートした。長く愛され続ける「定番」と先進性のある「新定番」の2つを軸に、ファッションからビューティー、食、インテリア、雑貨までを豊富にそろえる。「定番」の一つが、デンマークの家具メーカー「カール・ハンセン&サン(CARL HANSEN & SØN)」が手掛ける「CH24 Yチェア」(以下、Yチェア)。発売から67年が経過した今も安定的な人気で、世界累計販売脚数は70万を突破している。大型家具の量産・低価格化の流れに反し、長年親しまれているその魅力とは。
 Yチェアは、1949年にデザインされたハンス J. ウェグナーの代表作。Y字型の背もたれが特徴で、「ウィッシュボーンチェア」の愛称でも親しまれている。
 カール・ハンセン&サンのPRを担当する中西孝子氏は、Yチェアが日本で長く愛され続ける理由の一つに、畳の部屋にも馴染む「木製の家具」であることを挙げる。木工職人としてキャリアを積んだウェグナーは、釘を一切使わずにパーツを組み合わせて設計。座面のペーパーコードの構造では1950年以前から用いられている技術を活用し、3本の紙をこより状にした強度の高いものを素材に採用した。環境によっては30年以上張替えなしで使用できるという。設計は発売当初からほとんど変更が加えられておらず、「現代でも飽きられることのない優れたデザイン性と、熟練の技術を用いた耐久性の高さが多くの人々に受け入れられているのでは」と中西氏は分析する。
 ペーパーコードの張替えは、専属クラフト職人の手により行われる。職人が在籍する国は、デンマーク以外では日本のみ。20年以上にわたり職人として活動する佐藤信之氏は、「複雑な技術は必要とされないが、その時の体のコンディション、心の乱れや迷いが仕上がりに影響するため、とても繊細な作業とも言える」とその難しさを語る。1脚ずつ新たな命を吹き込むような気持ちでペーパーコードを編むことが重要だという。
 佐藤氏はこれまでさまざまな修理を受けてきたが、東日本大震災被災者からの依頼が特に印象に残っていると話す。その依頼者はもともと6脚を持っていたが、1脚は津波に流され、残った5脚はダメージが酷い状態だった。通常は座面の張替え以外のクリーニングは風合いの維持が難しいため引き受けていないが、Yチェアへの思いに心を打たれ、可能な限り請け負った。手元に返した際、依頼者からは「震災で失ったものも多いけれど、Yチェアが手元に戻ってきたことに励まされ、心の支えにもなった。これから少し明るい気持ちで暮らしていける」という言葉を受け取り、深く感動したという。佐藤氏にとって"良い家具"とは、目には見えない心の豊かさを与えてくれる存在。Yチェアが長く愛用してもらえるように「心と技をもって向き合っていきたい」と真摯な姿勢を示している。
 1960年代から北欧の家具を紹介している松屋銀座は、北欧家具の中でも最もアイコン的な商品として、Yチェアを今回のイベントの「定番」に選んだという。会期中は自由に触ったり座ったりできるほか、佐藤氏による張替えの実演も行われる。定番品にはこのほか「ヒーミー」や「柳宗理」など、新定番には「ミントデザインズ」や「ブルガリ イル・チョコラート」「銀座十石」といったブランドがそろう。今回のイベントを担当した吉川祐未氏は「使っていただく方を思って作られた商品」がラインナップの共通点とし、イベントを通じて「松屋銀座がお客様にずっと寄り添っているということを伝えたい」と話している。