ラグジュアリーなシティホテル、老舗温泉旅館、リゾート地の高級ヴィラ…。宿泊予約サイトのクチコミ評価では、サービス・設備・食事などが高評価で5点満点の宿泊施設は数あれど、世の中にはその真逆をいく低評価施設も存在する。よくある地方のビジネスホテルは評価は悪くても3点前後、カプセルホテルでもせいぜい2点台。ところが、編集部が興味本位で低評価施設を探していたところ、1点台前半という施設も日本各地にいくつか存在していることが判明した。果たして低評価の原因は何なのか。愛想が悪い?設備が古い?はたまた食事の問題か…。その理由を探るため、実際に編集部で身をもって体験してみた。

今回実際に宿泊してみたのは福島県の「ほりい荘」。福島県の真ん中、猪苗代湖に近い民宿街にある宿だ。近くには五色沼や磐梯山などの観光地があり、猪苗代スキー場の麓にあたる立地なので、夏は登山客、冬はスキー客などの需要があると思われる。

大手宿泊予約サイト「R社」のサイトにおける宿泊客からの評価では、5点満点中の総合評価が1.00点。R社のサイトでは評価0を付けられないため、評価1が実質的には最低評価ということになる。

項目別の評価を見てみると、立地で2.00点となっている他は全て1点台。サービス、設備・アメニティ、食事については最低評価の1.00点が付けられている。宿泊客による口コミに関してはR社のサイト上に限らず、極端に神経質な視点で書かれたようなコメントも少なくないことから、正直なところ筆者は普段あまりあてにしていない。しかし、ここまで低評価となるとさすがに心配になってくる。クチコミ欄に連なる酷評のコメントを読むたびに、怖いもの見たさにも似た感情を覚えながら宿泊日を迎えた。

当日、福島県は5月にもかかわらず予想最高気温が34度という猛暑日一歩手前の厳しい暑さとなった。筆者は朝の天気予報を見て消沈しながら新幹線で郡山駅に向かい、駅前でレンタカーを手配。「ほりい荘」のある猪苗代湖町へ向かった。

駅から車で走ること約1時間、宿に着いたのは16時ごろだった。奥には磐梯山、その下に神社の鳥居が見える道路の両側に、「ほりい荘」と書かれた看板が掲げられた建物がある。その裏には駐車場。そこに車を停めて宿に向かおうとしたが、どちらに入ればいいのかわからない。

両方の様子を見て、ひとけのありそうなこちらの建物を覗いてみた。

玄関を開けると、「御用の方はこちらの番号へ」と書かれた看板が掛けられていた。右を見ると、「御用の方はこのボタンを押してください」と書かれている。奥の方で物音がするので、宿の人はいるようだ。奥に向かって「こんにちはー」と声をかけた瞬間――

「ワン!ワンワン!!!」

犬が吠えたてながら飛び出してきた。動物好きの方なら喜びそうな小型犬だったが、犬嫌いの筆者はもうこの時点で帰りたくなった。しかし「犬が嫌で帰ってきました」なんて言えるわけがない。そうして玄関先でうろたえていると…

「ウー、ワンワン!!!」「ワンワン!!!」

奥からもう一匹出てきた。今にも飛びかからんとするワンワンの共鳴。もう帰りたい。

とりあえず出直そう、そう思いながら後ずさりすると、「こら!うるさい!」と、おばちゃんが犬をりつけながら顔を出した。ニコニコした感じのよさそうなおばちゃんだ。内心やれやれと思いながら「宿泊の者ですが」と告げると、「階段あがって3号室です」との答え。名前を尋ねられることもなく告げられた。今日の予約は1件だけらしい。

おばちゃんは「車は停められた?隣の駐車場でも向かいでもいいからね」、「猪苗代湖でも見てきたの?」と気さくに話しかけてくれるので親しみは感じる。

そして、布団は部屋にあるので宿泊客が自分で敷く、1階の階段裏にある浴衣やシーツを適宜持って行って使うということを伝えられた。「お風呂はこの奥です。もう入れます。なるべく早めに入ってね。夕食は17時半です。あとはご自由にどうぞ」と言いながら、おばちゃんはなおも吠え続ける犬たちを奥へ追いやった。

とにもかくにも犬たちから逃れて無事に入館できたので、まずは部屋へ向かう。指示通り細い階段を2階に上がると、左手に「3号室」、右手に「5号室」と書かれたドアが現れた。4号室がないのはよくあることだが、1号室と2号室はどこにいったのだろう。

ドアを開けると、平成初期を感じるキッチンルームがそこにあった。正面の棚の上にはタオルが放置され、上の扉は片側が開いて中に何やら色々なものが雑然と置かれていた。下の扉には何かが挟まっている。生活感を感じるので触れない方がいいのだろう。

その左側に和室。8畳+板床約1畳+広縁で、1人での宿泊には十分な広さだ。

ここで気付いたのだが、そういえば部屋の鍵すら渡されていない。部屋は内側から鍵をかけることはできるが、外に出ている間は自由に出入りできる状態になってしまう。民宿だとはいえ、セキュリティ対策が気になる人にとっては問題点である。

床や畳は汚いというわけではないが、ところどころに髪の毛や埃が落ちており、掃除が行き届いているとは決して言えない。広縁にはカメムシの死骸が落ちていた。おばちゃんが一人で切り盛りしているようなので仕方ないだろう。いずれにせよ、アレルギー性鼻炎(ハウスダスト)持ちの筆者にとっては辛い。

テレビはブラウン管。地上デジタル放送用のチューナーが付いている。スイッチを押してみたが電源が付か入らない。裏を見ると、コンセントが抜けていた。コンセントを差し込んで再度スイッチを押すと、「プッ、キィーン」というブラウン管の懐かしいノイズとともに電源が入った。

この日の福島県内各地はかなりの高温が予想されていたとはいえ、この辺りは盆地からはやや離れており比較的涼しい。窓を開けておけば初夏の風が入ってくる。部屋からの眺望もそれほど悪くはない。

部屋にはエアコンがあったが、こちらもコンセントが抜けている。それよりも、そもそもリモコンが見当たらなかったので操作のしようがなかった。

トイレには意外にもシャワー機能のリモコンが壁に取り付けられていた。関心したのも束の間、例によってトイレ側のコンセントが差されていなかった。当然ボタンを押してみても何の反応もなかった。

▲部屋の隅にあった行灯。電源を入れたが残念ながら点かなかった。

さて、「お風呂は早めに入ってね」ということだったので、早速温泉に入ろう。そういえばアメニティが見当たらないが、タオルくらいはあるだろう。もしや棚の上に乱雑に置かれていたタオルがそれだろうか…と手にしてみたが、湿っているのでやはり違うようだ。

持参していたタオルを手に下に降りると、再び行く手を阻まれた。

「ワンワン!!!」「ワンワン!!!」

猫は見知らぬ人を見ると逃げ出すのに、犬はどうして向かってくるのだろうか。ほどなくして、おばちゃんが「うるさい!お客さんがお風呂に入れないでしょう!」と犬たちを奥の部屋にいれた。「源泉そのままで熱いから埋めて入ってね。タオルは入り口のところに掛けてあるから使ってください」。今夜の宿泊客は筆者だけなので、1人のためにお湯を張ってくれたのはありがたい。手すりに掛かっていた「ほりい荘」の名入れタオルを手にのれんをくぐる。

▲名入れタオル。「タオル100円」という貼り紙もあった。

脱衣所には洗面台と洗濯機があった。洗濯機は200円という貼り紙がある。後で聞いた話では、水道代100円、洗剤代100円という内訳らしい。

浴室の方からはジャバジャバと勢いよく水が注がれている音がするので、もしかすると掛け流しなのかもしれない。そう期待して浴室のドアを開けた。

一瞬、場所を間違えたかと思ったが浴槽に蓋が置かれていただけである。ちなみに、脱衣所で聞こえていた勢いよく水が流れる音は浴室の裏手にある川の音だった。

手こずりながら重い蓋を開けると、褐色のお湯がなみなみと張られていた。濁っているのは泉質のためである。よく見ると湯面に羽虫が浮いているが、これくらいは山間の温泉にはよくあることなので特に気にならない。源泉のまま入りたいところではあるが、やはりかなり熱かったのでおばちゃんの提言通り水で埋めることにした。

それにしても羽虫が多い。窓から入ってきているわけではなさそうだが…。水を入れながら浴室を見渡していると、見つけなくていいものを見つけてしまった。浴室の壁に空いた小さな穴から別の穴に向かって、シロアリが列を成して歩いていたのだ。つまりここにいる羽虫は羽シロアリだ。蒸気で湿った浴室の壁に羽が引っ付き、動けなくなった羽アリが大量にくっついていた。さすがに見るに堪えないので、巣穴のあたりに洗面器でお湯をかけて全て流した。シロアリは危機感が強いので、身の危険を感じるとそのあたりにはしばらく出てこなくなるはずだ。

湯船に浸かる前にシャワーで身体を洗おうとしたのだが、シャワーからは水しか出ない。カランの温度調節ハンドルを目いっぱい回してもお湯が出ないのだった。すると、折よく脱衣所の方から、「熱くないかい?」と、おばちゃんが声をかけてきた。お湯が出ないことを伝えると、「忘れてた。5分待って」と声が返り、おばちゃんはボイラーの電源を点けに行ってくれたようだった。5分ほど待つと無事にお湯が出た。そうこうするうち、浴槽の湯温がちょうど良い塩梅になった。

脱衣所にあった温泉成分分析表によれば泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉。ややぬめり感のあるお湯だが、pH6.9の中性らしい。源泉温度は60.5度で、温泉としては質のいいものだった。

風呂から上がると18時すぎ。シロアリと格闘していたため遅くなってしまった。急いで食堂に向かうと、いくつかおかずが乗ったお盆がすでに置いてあった。食事の上を大きなハエが飛んでいるのが気になる。

「ごはんと味噌汁は台の上に置いてあるから自分で盛ってください」。業務用の炊飯ジャーを開けてみると、今朝炊いた残りだろうか、黄色くなったご飯が3合ほど保温されていた。その隣には冷凍の水餃子を温めたようなスープが並ぶ。あまり食欲はわかないが全く食べないのも申し訳ないので、それぞれ少なめに盛り付けて席に置いた。お盆の上に並んでいるのは、焼き鳥、メンマ、ミニトマト、豆腐、キムチ、イカの塩辛、山菜と牛肉を煮込んだもの、ほうれん草とサバを和えた物など。それとは別に骨付き肉が運ばれてきた。

豆腐に使おうと醤油さしを手に取ると、白いものが表面に溜まって気泡が生じていたのでそっと元に戻した。品数は多いが、すべてのおかずが冷めきっているので食が進まない。17時半から置いていたとしてもこんなに冷たくならないと思うのだが。

食堂の横にある扉は「露天岩風呂」というのれんがかかっていた。ホームページの情報によれば風呂は4か所あるはずだが、特に案内されることはなかった。宿泊客が1人だったので仕方ない。

食堂にある大きな液晶テレビを見ながら黙々と食べていると、玄関の方から「ごめんくださーい」という男性の声がした。おばちゃんの応対を聞いていると、素泊まりで来た工事関係の男性4人組のようで、今日から連泊するようだ。彼らは200番台の部屋番号が1人1室割り当てられ、筆者の部屋の方とは違う階段を登っていった。さらにその後、もう1人宿泊の男性がやって来た。

筆者は酷評されるような外資系航空会社の機内食も特に何も思わず食べられるのだが、今回は本当に食が進まなかった。そこまで味が悪いというわけではないと思うのだが、黄色くなったご飯のべちゃっとした感じと冷めたおかずの組み合わせがよくないのだと思う。それでもどうにかほとんど食べ切り、おばちゃんに挨拶して部屋に戻った。その際に明朝の入浴時間を聞いたのだが、「朝は部屋のお風呂に入ってください」との答えだった。

布団は自分で敷かなければならないので、部屋への戻り際、階段裏にあるシーツ類を持って行く。あるシーツ類はどれがどれかわからなかったが、それぞれ1つずつ取ってみた。部屋に戻って見てみると、シーツ1枚の他は全て枕カバーだった。

押入れの右側を開けると、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた布団の山。左側には毛布や枕が入っていた。上の層に掛け布団、下の層に敷布団が偏って詰まっているので、敷布団を取るには下から掘り起こさないといけない。面倒なので掛布団を2枚取って敷布団代わりにすることにした。

▲押し入れの奥には扉があった。

窓を開けると、夜風に吹かれてカメムシの死骸が転がっていく。時折布団に現れる大きなヤマアリを退治しながら過ごす夜は、東北の山に泊まりに来たことを感じさせてくれる。交通量の多い大通り沿いにある筆者の自宅では、窓を開けると車の音ばかりが聞こえる。宿の設備環境はこの際考えないことにして、静かな地で過ごせるのは悪くない。そんなことを考えながら、せんべい布団で一夜を明かした。

――翌朝、朝食の時間は7時半と伝えられていたので7時すぎに起床した。身支度をして1階に降りると、今日も階段の下で犬がこちらを見据えて待ち構えていた。さすがに犬の方もこちらを宿泊客だと認知したのか、吠えてくる様子はなかったので横をそっとすり抜けようとした。

「ワンワンワン!」

やっぱり吠えられた。

朝食は納豆、サケの切り身、ハム、温泉卵など。ご飯は新しく炊かれたものだったが、やはり水分が多め。ご飯が新しいというだけで食欲は促進されるもので、昨晩より美味しく食べられた。ただ、納豆には見慣れない白い粒々が付着していてザラザラしていた。後で調べてみたところ、"白いつぶつぶとしたものは、チロシンというアミノ酸成分の結晶です。長時間10℃以上の場所で保管された場合や、賞味期限を過ぎた場合に、発酵が進んでチロシンが発生します。"(出典:http://www.mizkan.co.jp/kume/information/)ということだった。向かいには昨夜来た男性の1人客が座っていたが、彼も首を傾げながら食べていた。

食事中、足元を犬がちょろちょろしているのが気になって仕方なかった。動物好きの方には申し訳ないが、食事中に近くで犬が走り回るのは本当に勘弁してほしい。食べ終えるころ、昨夜の建設関係と思しき素泊まり4人組が1階に下りてきた。彼らはおばちゃんに「テレビのチャンネルが変わらなかった」というようなことを伝え、仕事に出発していった。

朝は温泉には入れないということなので、部屋にあったシャワーを浴びた。部屋の浴室は一般家庭のそれのような造りで、洗濯機置き場には体重計が置いてある。ボイラーは問題なく電源が入り、文字通り朝から冷や水を浴びせられることにならなかったのが幸いだった。

▲浴槽も備え付けてあったが黒ずみが目立っており、しばらく使われていないことは明らか。

▲洗面台にはブラシなどのアメニティ(?)

温泉に入れないのではこれ以上長居する理由もない。そそくさと荷物をまとめて宿を後にすることにした。1階に下りておばちゃんに挨拶すると、「宿泊代5,850円です」と告げられた。ネットで先に決済していたはずである。すると、特に書類などを確認することもなく「そうですか。じゃあ150円だけください。入湯税ね」と返された。果たしてそれで大丈夫なのかと思うが、地方では性善説の商売が成り立っているので問題ないのだろう。

以上で1泊2日の宿泊体験は終了。筆者の評価は、R社サイトのクチコミ評価に違わず「1点」としたい。あまりに酷くて泊まれないという程ではないが、この内容で1泊2食約6,000円という価格も考慮したうえでの評価である。猪苗代湖や磐梯山、五色沼などの観光スポットが近いという立地ではあるが、冬期にスキーなどのために連泊する場合ならともかく、近隣の観光の場合であれば、郡山や会津若松駅前で同価格程度のビジネスホテル1泊朝食付プランを探した方がいいだろう。

全国にはまだ1点台の宿泊施設が存在している。次の宿泊レポートはどこになるだろうか。