秋の運動会シーズンは目前に迫ってきた【写真:photolibrary】

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秋の運動会シーズン目前、元スプリンターが今からでも間に合う「転ばない方法」を推奨

 スポーツの秋――。9月に入り、涼やかな風が吹き始めると、やがてやってくるのは運動会の季節だ。お父さんにとっては我が子の活躍を見守りたいという願いがある一方、「保護者参加リレー」といったイベントで出番もある。しかし、風物詩のごとく起こるのが「転倒」だ。春の運動会シーズンには「なぜ、お父さんは運動会で転ぶのか」と題して特集し、大反響を呼んだが、今回はどうすれば、お父さんは転ばず、そして、子供は速く走れるのか。今からでも間に合う“時短”練習法を2回に分け、陸上の元トップ選手が紹介する。

 初回はお父さん編だ。アテネ五輪1600メートルリレー代表で、現在は小学生世代の指導を手掛ける伊藤友広氏と、200メートル障害アジア最高記録保持者でプロ野球選手、Jリーグなどのトップアスリートの指導を担う秋本真吾氏に春に続き、話を聞いた。前回、お父さんが転ぶ理由について、スプリント指導のプロ組織「0.01」を主催する両氏によれば、2つのタイプがあることを解説してくれたが、前提となるべき原因について復習しよう。

【筋力低下型】 普段はランニングなどで足腰を鍛えていても、短距離は5、6倍の負荷がかかる。体を支えるために必要な筋肉が衰え、全力疾走の負荷に耐え切れず、進むうちに目線が下がり、結果的につま先がひっかかって転倒する。

【意識先行型】 速く走ろうという意識だけ前に進んでしまい、上半身が前に出て、足が後ろ側で回転してしまうため、体の軸が自然と前傾する。進むうちに傾きが大きくなり、最後はバランスが崩れて足がもつれ、転倒する。

 この2つを踏まえた上で、伊藤氏は「トレーニング次第で、今からでも転ばない走りに変えることは十分にできます」と話す。では、いったい、「転ばないトレーニング」とは何なのか。普段は仕事で忙しい、お父さん。決して十分に時間が取れるわけではない。公園までわざわざ足を運ぶのもおっくうだ。

 それでも、時間と場所を取らずにできる練習法をオススメしてくれた。

本番でダッシュをするなら、練習でもダッシュをした方がいい

 秋本氏が練習で勧めるのは、ダッシュだ。それは「筋力低下型」に効果がある。上述のようにランニングの5、6倍の負荷がかかる全力疾走。練習から同じだけ負荷をかけることが最適だ。

「『ランニングでなんとかしよう』は少し難しいかなと思います。ランニングで体を動かしているお父さんでもアキレス腱を切ったり、転んだりするのをこれまで多く見てきました。毎日ランニングすれば、体は絞れてはきますが、練習で体重が減る=本番でスピードが出るとは少し違います。全力疾走でかかる負荷は別物。まずは全力疾走し、負荷に慣れる体を作ることが大切です」

 全力疾走という言葉に気後れするかもしれないが、公園に足を運んでやる必要も、時間をかける必要もない。

「家の近所で坂道とか、電柱から電柱までの20〜30メートルを3〜5本やるだけでもいいと思います。1日おきに週3日やれば理想的。自分が会社員だったら仕事が終わって家に帰って着替えて30分〜1時間もランニングするモチベーションにはなかなかならないと思うんです。30mのダッシュ5本ならやれそうだなと思いますし、短時間でトレーニングも終わります。全力疾走に慣らしていくだけで『転ぶ走り』はかなり改善されると思います」

 日常的にダッシュをする習慣がなければ、当然、体に変化が起こる。しかし、焦る必要はない。

「ランニングを常日頃からやっている人でもダッシュをやると、次の日、今まできたことのない箇所に筋肉痛になる例は多いです。それは、それだけ大きい力を発揮できていることと、普段そういう負荷がかかっていないことの裏返しです。スポーツをやっていない人は筋肉痛が来ると、ケガをしたんじゃないかと錯覚しがちですが、筋肉痛は保温すると血流が良くなって痛みも引いていくので、少しジョギングをしたり、お風呂に入ったりして、温めたりするといいです」

 伊藤氏もケガ防止のため、徐々に慣らしていくことを勧め、筋肉痛が出ると好ましくない部位も指摘する。

「普段運動していない人は、まずは緩いダッシュからがいい。ジョギングより速いレベルからちょっとずつ上げていくのが望ましいです。基本的に足の後ろ側の筋肉を使う比率が大きい。走りがいい人は後ろ側、それも上部にくる。具体的には臀部、ハムストリング(太もも裏)の付け根。良くない走りになると、筋肉痛が下部に下がってきます。それは走りで余計な動きをしている表れ。ふくらはぎ、膝裏、太もも裏の真ん中より下が痛くなるようであれば、黄信号です。その場合はケガのリスクが高いので無理は控えてほしいです」

 加えて「ジョギングをやっていたら、ジョギングの体に適応してしまいます。本番でダッシュをするなら、練習でもダッシュをした方が良いと思います」とまとめた。

【ダッシュのポイントまとめ】

・ランニングとダッシュでかかる負荷は別物
・練習で体重が減る=本番でスピードが出るじゃない
・近所の坂道、電柱間の20〜30メートルを3〜5本
・1日おきに週3日の実施が理想的
・緩いダッシュからペースアップが望ましい
・太もも裏の真ん中より下部に痛みが出ると黄信号

家の中でも練習できる…足踏みで「意識先行型」、片足立ちで「筋力低下型」に効果

 家の中でできることはないのだろうか。秋本氏は「足踏み」を勧める。

「意識先行型の場合、意識が下半身よりも上半身にいきがちです。上半身を前に倒すことで前に進もうという意識が姿勢を崩し、足(もも)が上がらなくなってしまいます。走る時に大切なことの一つは、地面に鉛直に足を下ろすことです。缶を踏む意識です。そこで足踏みで意識付けすることが効果的です。その場で足を上げたら下ろすという練習で、動きの確認をします。ゆっくりと腕を振りながら、腰の位置までしっかりと足(腿)を上げること。地味なトレーニングではありますが鏡を見ながら動きの確認をするには非常に大切。ダッシュをする前に足踏みをやるのもオススメです」

 もう一つ、オススメなのは「片足立ち」だという。

「まっすぐな姿勢を作り、片足立ちになります。ポイントは上げている足は腰の高さまで上げてキープします。支えている足はお尻の筋肉が弱いと膝が曲がってしまうので、しっかりと伸ばします。グラグラしたりしないように、理想は20秒しっかりと保つこと。きれいにできると、お尻の筋肉が張ってきます。最初、難しければまっすぐな姿勢を作るためには壁に背をつけてやってみましょう。姿勢も崩れず安定してきたら次はつま先立ちで行うと、効果は高まります」

 それぞれ、期待される効果は「足踏み」が「意識先行型」で、「片足立ち」は「筋力低下型」だ。

「足踏みは全力疾走で足が上がらずに地面に接地し、そのまま後ろに蹴ってしまうことで、過度の前傾になってしまい、転んでしまうことを避ける。片足立ちはドンと強い負荷に負けて視線が下がらないようにする意識付けの効果がそれぞれ期待できます」

 ともに走りの意識を補助的に変える練習。ダッシュと組み合わせることはもちろん、雨で外で練習するときが難しい場合でも、自宅で簡単に取り組むことができる。

【足踏み&片足立ちのポイントまとめ】

・足踏みは「意識先行型」に効果
・足(もも)は腰の位置までしっかり高く
・片足立ちは「筋力低下型」に効果
・まっすぐな姿勢を作って20秒(背後に壁も可)
・つま先立ちでやると効果が増す
・ともにダッシュの準備運動など組み合わせるといい

親子に推奨…「その場連続ジャンプ」で接地の「0.1秒の感覚」を理解する

 伊藤氏は「親子一緒にやるといい」と、その場での連続ジャンプを勧める。「第1段階は、まずはジャンプと走りの共通点を理解してほしいです」といい、ジャンプが必要な理由について説く。

「足が速い人と遅い人の大きな違いの一つは、足が地面についている時間です。トップスプリンターの接地は0.1秒ほどで、その場でポンポンと連続ジャンプをしている時間と同じくらいです。足が速い人はジャンプと同じ要領で走っていますが、『前に進みたい』『力を出したい』と思うほど、ぐーっと力んで、発揮時間が長くなりがちになります。しかし、いい走りの力の発揮はそうではないのです。軽快なジャンプをすることで接地時間が短いことをイメージして、0.1秒の感覚を確認してみるといいです。そうすると、ダッシュの質も変わります」

 さらに「第2段階は頭で理解した上で“ビヨーン”と跳ぶ」。ポイントは以下の通りだ。

「トランポリンの上で弾んでいるような感覚。ビヨーンと跳ね返ってくる感じです。かかとはつかない意識で、下から上方向に跳ぶのではなく地面に落ちてきた身体を一瞬で跳ね返すことを意識するといいです」

 そして、ここまででも十分というが、さらに上手にできるお父さんは、第3段階を勧める。それが「腕振り」だ。

「跳ぶ時に腕を振ってほしいです。ただし、これが難しいんです。タイミングがずれるとビヨーンというジャンプが崩れる。ブランコを強くこぐ時と一緒で、腕が一番下を通過するその一瞬に力を入れる。そのタイミングと足が地面につくタイミングを合わせる。するとキレイに高く跳ぶことができ、腕振りの力発揮の感覚が理解できるようになってきます。」

 走りも腕振りも力の発揮時間とタイミングが重要になる。どちらも、それは一瞬。決して力んで走ることが正解ではない。ジャンプから、その感覚をつかんでいくといいだろう。

【その場連続ジャンプのポイントまとめ】

・足が速い人の接地時間は0.1秒程度
・連続ジャンプで0.1秒の感覚を理解する
・トランポリンの感覚で“ビヨーン”と跳ぶ
・かかとは地面につけない
・できる人は腕振りを加える

練習法はここまで…では、どうすれば成果がわかる? 評価方法は3つ

 ここまで、記してきた「全力疾走」「足踏み」「片足立ち」「その場連続ジャンプ」を織り交ぜながら、練習に励めば、今からでも十分に運動会シーズンに間に合うという。しかし、練習していたとしても、走りが良くなっているのか。不安なお父さんのためにチェック方法はあるのだろうか。

 伊藤氏は「良くなっているかどうかの評価方法は3つあると思います」という。

「1つ目はタイムの評価。2つ目は映像を撮って外から見て、どう変わったかという動作の評価。3つ目は自分の感覚の評価です。タイム・映像をとることは一人で練習する場合は難しいかもしれません。感覚の評価については、その場連続ジャンプが最も変化がわかりやすいと思います。うまくできたら跳ね返りを感じられる。ダメな時は跳ね返らないなど、タイミングがおかしいと感じる。自分で良くなっていると感じたら、だいたい良くなっていると思ってもらっていいです。子どもでも大人でもレベルを問わず、なんだか良さそうだという感覚は不思議と間違っていないことが多いと感じます。自分を信じましょう」

 一方、秋本氏は伊藤氏が2つ目に挙げた「映像」に賛同する。

「最もわかりやすいのは技術的な変化です。そのためには写真よりはビデオがいいと思います。自分の走りを一本、撮ってもらう。ポイントは横から撮ること。その上でスロー再生して、かかとからついてないか、姿勢が崩れてないか、ももは上がっているか、とチェックしていきます。自分のフォームを自分の目で見ると予想以上にギャップがすごいんですよね。こんな風に走ってたんだという発見があります。主観と客観の差を埋めていくことで理想のフォームにつながっていきます」

 こうした方法から、走りの進化を実感できるかもしれない。運動会シーズンは目前、大事なのは実際に練習すること。大前提はダッシュ。カッコイイを子供に示したいお父さん、今から取り組んでも決して遅いことはありません。

(次回は子供編。「どうすれば、子供は運動会で速く走れるのか」)