人工知能(AI)が人間に替わって採用を決める時代が来るのだろうか(写真:Elnur / PIXTA)

人工知能(AI)によるエントリーシート分析など、新卒採用領域でも「HR Tech」への関心が高まっています(「HR Tech」は、“HR(Human Resource)× Technology”を意味する造語。AIをはじめとした最先端のIT関連技術を人事関連業務に活用すること)。

リクルートグループはこの分野で10年近く研究を重ね、機械学習やビッグデータを用いた採用支援サービスの開発に取り組んできました。「いかにして求める人材を確実に効率的に採用するか」という、各社の長年の課題を解決するために、私たちがどのような取り組みをしてきたのか、その歴史と今後の展望を紹介します。

求める人材像を言語化して定義する


企業は求める人材を高い確度で効率的に採用したい。しかし、多くの企業が「求める人材像を言語化できない」「学生に直接会わないと求める人材に合致するかどうかわからない」、という悩みを抱えていました。私たちはまずこうした現状について、AIを使って打破したいと考えました。

もし企業が求める人材像を言語化して定義できれば、直接会う前に求める人材像に合致する学生がわかり、対象となる人に優先的・選択的にアプローチできる。こうした状況を作り、確度・効率について改善の糸口とすることを目指しました。

そうやって研究を重ねて生み出したのが、2012年卒向けサービスから取り入れた、「R-SPICE(アール・スパイス)」というリクルート独自のメソッドです。SPICEとは「SPI」+「CE(コミュニケーション・エンジニアリング)」。「企業の『求める人材』の要件の明確化」「学生の志向の測定」という、これら2つのデータを基にしたマッチング技術で成り立つものでした。

では具体的に、企業の求める人材要件を、どのように明確化するのか。まず、求める人材として各企業が重視することを、企業の事業戦略や活躍している社員の行動特性、これまで採用した社員のSPIの結果などを基に、定義していったのです。

そうして定義した重視項目を、SPIの「職務適応性」(「人との折衝が多い」「集団を統率する」「人に気を配りサポートする」など14項目)に当てはめます。

学生の志向はどのように測定するのか。これには、SPIの枠組みを用いて開発した、自己分析ツール(現在の『リクナビ診断』)を活用。学生がリクナビ上でこの自己分析ツールを自由に使えるようにしました。この自己分析ツールでは、組織の特性を「変革と新たな価値の創造」「強い連帯感とチームワーク」など12項目に分類し、そのうちのどれに魅力を感じるかをSPIの枠組みを用いて測定します。

一人ひとりの学生が行った自己分析の履歴はまさにビッグデータです。これが企業の求める人材像に合致する学生を見つけるための材料になることを期待しました。

学生の組織の志向に関するデータを解析して、SPIの職務適応性との相関を分析した結果、たとえば、「予定外の事柄への対応が多い」という職務に適応性がある人は、「理想に向かう情熱と意欲」のある組織に魅力を感じるなど、いくつかの相関を見つけ出すことができたのです。

学生を引き付ける文章を科学的に作成

さらに、組織の志向にひもづいて学生が魅力に感じる言葉や文章表現なども、特定できるようになりました。

以前は、たとえば「協調性のある人材が欲しい」となると「和を大事にする会社です」とアピールするなど、“なんとなく”の感覚で広告の言葉を選ばざるをえなかったように思います。このサービスによって、求める人材がどんなメッセージを「魅力的に感じるか」を、科学的に設計することを実現できました。

ただ、その後現在に至るまで、AIやビッグデータを使った求める人材像の可視化とターゲティングの技術が劇的な進化を遂げたとは言えません。その要因は採用における”正解”がなかなか数値化できないからです。採用における正解とは何か。何をもって正解とするのか、またどのタイミングでの評価が適切なのか、特定することも難しいものです。

たとえば、入社から3年間ほどを追いかけて、活躍している状態の方の特徴を数値化し、それを基にターゲティングするのは現実的な打開策の1つになりうると思いますし、実際に着手している企業もあります。

しかし、そもそも活躍している社員の特徴が「入社前から持っている素地」なのか、「入社後のさまざまな経験や出会いの結果で得たもの」なのか、厳密に切り分けることはできません。

そのため、特徴を採用前の学生にそのまま当てはめることが困難であり、さらに、当てはめたとしても統計的に正しいかどうかはわかりません。その結果、採用における正解の見定めは、なかなか全体的なうねりにまでは至らないのが現状です。

どんなリーダー経験をした学生か見つけ出す

2018年卒採用からは、また異なる観点で、AIを用いることを可能にしたターゲティング技術を導入します。それが「リクナビスカウト」です。

これは、リクナビが提供しているエントリーシート共通化サービス「OpenES」を利用して学生が作成したエントリーシートの文字列を解析し、学生の特徴を分類、その分類を基に企業が欲しい人材を見つけ出して、該当する学生にメッセージを送れるサービスです。

たとえば、自己PRにおいて学生がさまざまな言い回しでアピールする「リーダーシップ」を、その表現の仕方に惑わされずに文字列だけを解析していくと、「メンバーを牽引する形でリーダーシップを発揮していたタイプ」「メンバーを元気づけるなどサーバント型のリーダーシップで組織を活性化させていたタイプ」と、大きく2つに分けられます。

このような人材要件は、企業が言語化できたとしても、フリーワード検索がしづらいものです。そこで、AIがこれらをタイプ別にきちんと分類することによって、企業が必要とするタイプの学生を検索することを可能にしました。

ただし、このサービスにおいては、AI自体が採用・不採用にかかわる判断をすることは行いません。この仕組みの最も重要なポイントは、AIをあくまで人間の判断の補助をする存在に位置づけていること。企業の意向に合致した学生が見つかった結果、その学生にメッセージを送るかどうかは、企業の担当者がOpenESの内容に目を通したうえで判断するのです。

私たちは、就職・採用の場において人間に完全になり代わってAIが合否や正解を判断することは絶対にやるべきではない、と考えています。精神論ではありません。人と企業が出合い、よりよい関係性をある程度の長きにわたって積み上げていくためには、双方の覚悟や納得感が必要なのです。

それを醸成するプロセスを飛ばして現時点の正解を提示することは、瞬間的なマッチングは生み出せても、その後のよりよい関係づくりにはむしろマイナスに働いてしまう可能性があると実感しているからです。

また前述したように、就職・採用の現場において、「何が正解か」の議論はまだまだ積み重ねる必要が大いにあります。AIは正解をしっかりと人間が教えることによって初めて正解を判断できるもの。何が正解かがあいまいなままで何らかの判断をさせ、その判断の責任を機械が負うというのは、AIの使い方として大いに矛盾すると感じています。

一方で、人間が能力と時間の限界から見落としてしまった人材を、もれなくきちんと拾い上げることは、AIだからこそできることです。

採用の正解を出すのはAIに頼らない

今後は、「何をもって『活躍した』といえるのか」「『活躍している』ことをどうやって測定するのか」というところの研究を進めるとともに、「採用根拠の可視化」をAIで実現できないかと考えています。

採用・就職の場においては、企業と学生が互いに納得したうえで、学生が「この会社で働く」と決める過程があるからこそ、入社後、生き生きと働くことができるのだと思います。

ところが、現状は前述のとおり、活躍の基準を明確にするのは難しい。「この大学の出身者ならたぶん大丈夫な気がする」「活躍している社員になんとなく似ている」など、ある意味で消極的な理由で採用・不採用を決定している企業が少なくない。そのため企業と学生の間での納得感が十分に形成されていないのではないでしょうか。

「こういう理由でこの学生は採用された」ということがもし数値化できれば、こうした状況を突破できるのではないか。企業と学生の納得感が増し、より生き生きと社会で活躍できるのではないか。そのためまずは組織として動いているはずの企業側について、「この学生を採用したのは、会社のこういう事業戦略にこんなふうに合致していたから」と構造的に説明できるようにし、それを何らかの数字で示すことを実現したい。と思っております。

もちろん大前提として、「正解とは何か」「正解データとは何か」を企業ごとにさらに議論し尽くすことが必須です。そのサポートとしてできることを考えつつ、納得までのプロセスをいかにして補助していくか、引き続き研究に邁進していきます。