W杯出場を決めた今、代表で試してほしい選手(1)
大谷秀和(MF/柏レイソル)

 最近の日本代表戦では、MF長谷部誠の不在による影響が浮き彫りになっている。

 今年行なわれたW杯アジア最終予選、UAE、タイ、イラク、そして9月のサウジアラビア戦と、長谷部がケガで欠場した試合は戦術的に穴だらけだった。一方、8月のオーストラリア戦で出場するや、攻守のバランスを崩すことなく勝利に貢献した。

 代役を務めた山口蛍、今野泰幸、井手口陽介らは有力なMFである。守備は果敢で、ゴールに迫る強度も高く、貴重な得点まで決めている。自らの力を恃(たの)みとし、チームのために働ける選手たちだ。

 しかし長谷部は自らを殺しても、周りの動きをよくする異能を持っている。センターバックを適時に補強し、中盤の選手を気持ちよくプレーさせ、FW、DFとのライン間隔を調整。気が利く選手であり、長谷部がいないとチームに微妙だが乱れが出て、そこを敵に突かれてしまう。

 では、長谷部の代役はいないのか?

「欲を出さない、もしくは隠せること。それがボランチの条件だと思う」

 柏レイソルで中盤を司(つかさど)る大谷秀和(32歳)は語っている。


柏レイソルの主将、大谷秀和。代表で試してほしい選手のひとりだ

 大谷は柏ひと筋15年目になる。驚くべきことに、23歳でキャプテンマークを巻いている。以来、Jリーグ、天皇杯、ナビスコカップ(現行のルヴァンカップ)、ゼロックスカップなど国内のクラブタイトルはすべて手にしてきた。

『勝利するリーダー』

 その肖像が浮かび上がる。23歳当時は年長の選手も多いなか、彼らを納得させたのは、リーダーとしての生来的な資質だったのか。監督と対話し、選手に活を入れながら、自らを律する。多くの選手はその負担に潰れる。

 大谷は、そのメンタルだけでも、代表に招集されても不思議ではないが、実は一度もその経験はない。

 主な理由としては、「アテネ世代」の最年少だけにユースや五輪代表に縁遠かったこと。ひとつ上の「シドニー世代」で小野伸二、遠藤保仁、稲本潤一ら黄金の中盤が君臨していた点が挙げられるだろうか。また、日本サッカーの悪癖として、中盤の選手に華やかさや、数字や、プラスアルファの武器を求める傾向が邪魔をした。スルーパスや、走行距離や、シュートセンスや、インターセプトなどを持ち上げすぎるのだ。

 しかし、大谷ほど”チームという舞台を回せる役者”はいない。

 直近の横浜F・マリノス戦(Jリーグ第26節)、大谷は前後左右をカバーし、バックラインに下がり、不調のチームを好転させていった。ポジション取りひとつで、周りの選手はパスの角度や距離を得られるし、カバーがあるから、と安心して勝負にいける。ワンタッチで的確にボールをつけられることで、味方はアドバンテージを得てボールを持ち運べる。今シーズン、柏のMF手塚康平、DF中谷進之介、DF中山雄太ら若手が成長しているのは必然だろう。

「ダイレクトを使える。それで、ボランチの良し悪しはひとつ見えてくるかもしれません。(周囲が)見えていて、スキルもあるということで、その後の展開も楽になる」

 そう語る大谷は、いわゆるambidextro(スペイン語で両利き)で、欧州や南米では重宝される。利き手、利き足がさまざまな作業で違い(例えば、箸は右だが、投げるのは左)、両足で蹴れるだけでなく、視野も広く確保できる(後天的に利き足の逆を鍛えたのとは違う)。

 今シーズンもサンフレッチェ広島戦(Jリーグ第5節)で、相手GKが出てクリアし損なったボールを30m以上の位置から間髪入れずに放り込んでいる。予測し、準備するダイレクトプレーの結実だった。

<周りを生かし、輝かせる>

 大谷はプレーの渦(うず)を作り出せる。彼自身は脚光を浴びないかもしれない。しかし、チームとしての勝利につながるのだ。

「真ん中のポジションにいる以上、みんなをサポートするのが仕事だと思います。リスク管理するのは当然だし、基本的にポジションはボールの後ろ。ポジションを捨てるときは、サプライズですね。自分が行くことで相手にスペースを突かれるわけですから、行く判断、行かない判断が大事になります」

 中盤の選手としての信条を語る大谷は、ボランチ、インサイドハーフ、そしてアンカーと高いレベルで仕事ができる。実は中盤だけなく、サイドバック、センターバック、トップ下、サイドアタッカーなど、GK以外のポジションでプレーしてきた。

 それは、奇しくも長谷部と同じユーティリティー性で、あらゆるポジションの仕事を理解するインテリジェンスを持っている証左(しょうさ)だろう。味方の気持ちを読み取り、チームを回せる。すべての楽器をこなし、音を司(つかさど)る”オーケストラの指揮者”のようなものだ。

 32歳で代表経験がないことは、デメリットだろう。代表の舞台は異なる重圧がのしかかる。しかし、大谷は主将として、AFCチャンピオンズリーグやクラブW杯など国際大会は経験しており、十分に適応できるはずだ。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、代表予備登録メンバーに大谷の名前を就任当初から入れている――。


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