「Thinkstock」より

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 7月、金融庁の森信親長官が異例ともいえる在任3期目に突入しました。森氏在任中の金融行政の目玉はいくつかありますが、そのひとつに、銀行に土地などの担保や保証に頼ってきた融資姿勢の見直しを迫るというものがあります。事業に将来性があっても担保がなかったり、創業から間もなかったりする企業が融資対象から除かれている現状を森氏は「日本型金融排除」と批判し、銀行に目利きの力を高めて将来性のある事業への融資を増やすよう求めているそうです。金融庁は、特に収益性が下がっている地銀に対しては「稼ぐ力」という言葉をキーワードにして、厳しく監督していく姿勢を打ち出しています。

 筆者はそうした理想や方向性についてまったく異論はなく、心の底からがんばっていただきたいと思っています。しかしそうした方針がある一方で、まだ3社ではありますが事業承継の受け皿としての活動も行っている筆者が、この半年以内に自分自身で遭遇したり、親しい知人が体験したりした話を聞くにつけ、監督官庁の抱く像と現場の実態との乖離を大きく感じることがありました。

 事業承継そのものは(否応がなしに)拡大していく領域ではありますが、個別の事業を見ると成長・拡大傾向にあることはほとんどないという厄介な状況も根底にはあります。今回はそんなエピソード紹介を中心に述べたいと思います。

●ケース1:見殺しが行動基準?

 筆者は赤字で債務超過の地方企業を自己資金で救済・保有・再生している経験が複数あるために、よく企業の救済の打診を受けます。数カ月前に紹介された会社は、資金ショートが目前に迫ってきている状態にありました。ただし少し見聞きすれば、その原因や対処法は明白で、店舗の人員構成や運営方法を変えるべき状態のまま何も変わらず年月が過ぎていた状態でした。

 創業者の孫に当たる経営者にその覚悟が足りなかったといってしまえばそうですが、メインバンクの主導で救済先を探していたため、不思議に思って「銀行としても、どうしてこうなるまで放っておいたのでしょうか?」「今の経営者になってからも融資を追加していますが、途中で方針について議論しなかったのでしょうか?」と尋ねました。すると、途中何回か入れ替わったものの代々の担当者は課題がわかって引き継がれていても、あえて進言することもしなかったそうです。その理由としては、言葉を濁しながらではありますが、「下手に会社に意見を出して、その通りに会社が取り組んだ場合、結果がうまくいかなかったときには、債権の回収に全力で走れなくなってしまう」ことをリスクととらえていたからでした。

 もちろん経営判断の責任は経営者にあり、融資をする側に責任はありません。そしてこうした話は10年も15年以上も前からよく聞いてきた話でもあります。将来性があるかどうかわからない事業に対しては、積極融資をしなくてもいいのかもしれませんが、目利き力を身につけるべきという錦の御旗があるのであれば、健全な意見交換はすべきだったのではないでしょうか。

●ケース2:投資は悪?

 いわゆる事業承継問題は、国家として対応しなければならないと認識されています。筆者は事業承継で複数の会社を引き継いだ時点で自己資金が枯渇しつつあった際、某金融機関が事業承継を目的とした融資制度を設定しているという情報を知り、相談に行きました。

担当「身内や社員に後継者のいない会社を、関係者でも同業者でもない他人のあなたが買う? それは、投資に当たりますね」

筆者「え? いわゆる投資会社とは異なって、売却前提ではなくて保有することを目的にしています。ちょっと違うようなニュアンスは感じますが、言葉の定義がそうであれば、そうだと思います」

担当「ですよね。では、ダメです。投資なんかに融資はできません」

筆者「事業承継の問題が顕在化した会社を譲り受けることが目的ですが……。この融資は、そうした目的の融資ではなかったんですか?」

担当「目的はそうですが、いずれにせよ、ダメですね。他人であれば、同業他社を買収する以外はほぼ認めません。ラーメン屋を譲り受けるなら、あなたが財務に問題がないラーメン屋だったら融資できるということです。それ以外はダメです」

筆者「でもたとえば、いま検討している会社様はオーナーが病気で急に動けなくなり、まだ経験が浅い後継者・ご子息の育成もしつつ株を引き受けてほしいと言っていて、それを引き受けようとしています。そのための資金です。また、私自身では投資会社の社員として企業再生をやってきましたし、独立後も再生実績はできています。制度の主旨からして、それでもダメなんですか? 個人保証や担保の提供をするのでも、条件によっては構いません」

担当「内容なんて関係ありません。とにかく、投資なんて不確実なものには貸せないんです」

 以上がその金融機関の担当者とのやり取りです。事業承継の事案は増えることが見えているため、安いコストで資金調達できれば機会を広げられると期待してしまっていました。予想を超える対応に面食らってすごすごと帰り、世の中の厳しさを思い知らされました。

●ケース3:保全が第一

 筆者の知人が株主になっている会社では、代表者が個人保証を入れることで融資を受けていました。もともと業績が悪い状態で支援して出資した経緯もあり、過剰債務に陥っている状態で再建中でした。その会社のメイン銀行の担当者はずっと協力的な若手行員だったのですが、定期的な異動慣行によりベテラン行員に変わりました。担当が変わる連絡は受けていたものの、特に音沙汰もなく1〜2カ月が過ぎていたそうです。

 新しい担当者の最初の登場は、いきなりアポなしで支店長と一緒に会社を訪れてきたときでした。そして開口一番、「少し前に株主が変わったという話でしたね。その株主と一緒に改めて来てください。個人保証を付けていただきますし、不動産などを持っていたら担保に入れたいです」と伝えてきたそうです。

 当の知人は、その会社のデータ分析や経営助言など時間の拘束を伴わないことを条件にしており、常勤もしていなければ役職にもついておらず、形式上はただの株主で、所有と経営の分離を成り立たせていました。知人はその理屈をわかっているので、「そんなこと言ったら、東芝やシャープや日本航空の株主は、会社が揺れたときに個人保証を求められたのでしょうか?」など冗談を言っていましたが、事情がのみ込めない社員はしばらく「いったい何が起こるんだろうか? 会社は大丈夫なんだろうか?」と不安な日々が続いたそうです。

 少し日が経ってから、銀行から「先日の話はなかったことで構いません」という連絡が来たそうですが、先に銀行が出してきた条件が満たされなかったことで、業績が回復途上にあるのにもかかわらず、「将来性と保証のバランス悪い」ということで貸しはがしにあうのではないかという不安は残ってしまっているそうです。

 以上、体験もあって少し批判調に紹介してしまいましたが、一歩引いて冷静に見ると、銀行融資の金利は以前と比べると随分と安くなっているため、債権の保全を最優先させることは真っ当な判断にも思えます。

 それでは銀行を諦めて、リスクを受け入れてくれる資金を集めようとすると、たとえばクラウドファンディングに挑戦すると、(返済義務はなくとも)手数料は15-20%前後かかり、かつ初めて話を聞くようないろいろな人に対してわかりやすいストーリーを示せないと成立しないため、ハードルは高いです。たとえばB to Bのビジネスでは伝えるのが難しいことが多々あります。

 また、ノンバンクからの調達や優先株等による調達では、実質的な金利に相当する負担が2桁のパーセンテージになることもあり、銀行融資の金利と比べると調達コストは大きく上昇します。

 ほどほどのリスクテイクと金利によって、目利き力やコンサルティング力を備えて資金を投融資してくれるプレーヤーが増えて活性化されたら、相応に引き合いはあるのではないかと思います。しかし、長きにわたる銀行の行動特性を変えることは簡単なことではありませんので、その役割を銀行が担うことを推進するのが適切かどうかはわかりません。ただ、そうしたニーズを心待ちにしている中小企業のイチ経営者の顔も持つ筆者としては、金融改革によって事業承継の機会が増えることを切に望んでいます。
(文=中沢光昭/経営コンサルタント)