広瀬すずのハマり役は“明るいヒロイン”だけではない 『三度目の殺人』『怒り』で見せた“暗”の演技

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 現在公開中の映画『三度目の殺人』で、役所広司演じる殺人の容疑者・三隅に、父親を殺された娘・咲江を演じている広瀬すず。2016年に映画『海街diary』で4姉妹の末っ子・すず役で注目を浴びると、立て続けに主演やヒロインを務める人気女優となった。そんな広瀬だが、これまでの作品の役柄を観ていると、明と暗の大きく二つのキャラクターに分けられる。ここでは“暗”の広瀬の魅力をひも解いてみたい。

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 本作で広瀬が演じる咲江は、殺された被害者の娘という役どころ。しかも、容疑者として拘留されている役所演じる三隅とは、ある事柄をきっかけに懇意となった関係であり、斉藤由貴演じる母親・美津江には、重要な隠し事で不信感を抱いているという非常に難解な人物だ。劇中の咲江は、常に内面に何かを抱えているものの、その感情を心の奥底に潜ませている。

 広瀬といえば、屈託ない笑顔が魅力で、バラエティ番組等でみせる天真爛漫な立ち振る舞いも含め、明るく元気なイメージが強い。実際、主演を務めた映画『ちはやふる』では、競技かるたへの熱い情熱を持つ主人公・綾瀬千早を演じ、そのみずみずしい演技は好評を博した。続く『四月は君の嘘』でも、ある重大な病気を抱えているものの、天真爛漫で明るく元気で健気なヒロイン・宮園かをりを好演した。さらに『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』では、スポコン女子を力強く、そして爽やかに演じ切った。こうした役柄を演じることにより、広瀬のパブリックイメージはより“明”へと強く印象付けられていく。テレビコマーシャルなども“爽やかな青春”を連想させるものが多くなっていった。

 そんななか、吉田修一の原作を李相日監督で映画化した『怒り』では、ある壮絶な事件の被害者となり、心が壊れていくさまを熱演した。まさに今までの広瀬とは真逆の“暗”の演技だ。原作に惹かれ、泉という役をオーディションで勝ち取った広瀬は、李監督の徹底的に内面に迫る演出により、極限まで内に秘める感情を引き出された。悲しみとも怒りともいえる、魂の叫びは、これまでの広瀬のイメージを一変させる鬼気迫る演技だった。この作品を観たとき、広瀬のトーンを落とした“暗”の表情や佇まいに、何ともいえない奥深さを感じた人は多かったのではないだろうか。非常にはまっていたのだ。

 声優を務めたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』で演じたなずなは、やや声のトーンを落とした落ち着いた雰囲気を漂わせていたが、広瀬は「明るく元気な役が多いので、いつもテンションが高いと思われていますが、普段は声のトーンもそれほど高くないんです」と素の自分を語っていた。こうした発言を鑑みると、“明”の広瀬ももちろん魅力的だが、“暗”の広瀬の方がよりナチュラルかつ奥深いのでは……と思いを巡らせてしまう。

 そんな思いがピッタリはまったのが、『三度目の殺人』で演じた咲江という女性だ。『怒り』で演じた泉は、内に秘める負の感情を“爆発”させることで、自身の心の均衡を保とうとしていたが、咲江は負の感情を外に出すことなく、内にくすぶらせ続けることで、なんとか日常をやり過ごしている。

 いっけんすると、感情を激しく表に出した方がインパクトは強いが、本当の怨念は、じっくりと心の内に寝かせ、溜めに溜めたところで静かに吐き出した方が、その威力は増す。その意味で『怒り』でみせた広瀬の演技が“暗”のなかの“動”なら、『三度目の殺人』は“暗”のなかの“静”ともいえる。全編を通して、内に秘める感情がブレることなく、静かに煮詰まっていくさまが、映画のトーンと重なり、より深い闇を表現している。この年齢にして、安定した“暗”を演じられる広瀬の表現力には脱帽だ。

(磯部正和)