サービス開始からおよそ4年でアプリダウンロード数は7500万に達している

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「メルカリ」と「ZOZOTOWN」がつくった流通業界の新常識を『週刊東洋経済』9月19日発売号で追っている(写真:マリンプレスジャパン/アフロ)

スマートフォン一つで不要品を処分し、おカネに換える。そんなシンプルなサービスで成長を続けてきたフリーマーケット(フリマ)アプリ「メルカリ」。2013年2月に設立された運営会社・メルカリは、いまや多くの投資家や優秀な人材を吸い寄せる日本屈指のメガベンチャー企業に成長した。『週刊東洋経済』は9月19日発売号(9月23日号)で、「メルカリ&ZOZOTOWN 流通新大陸の覇者」を特集している。
そんなメルカリに今年6月、米グーグル、米フェイスブックなどで要職を務めた「超大物」、ジョン・ラーゲリン氏が参画した。同氏は執行役員CBO(Chief Business Officer、最高ビジネス責任者)として職務に当たり、9月からは米国子会社CEOの任に就いている。海外での成功という大きな期待を背負い、この先のメルカリをどう牽引していくのか。今回、メルカリ参画後初の単独インタビューに応じた。

「絶対成功する」という確信

――これまでグーグル、フェイスブックと名だたるIT企業で要職を務めてきました。なぜ、メルカリへの移籍を決断したのでしょうか?

自分にとっては当然の流れなのだけど、違いますかね(笑)。僕が転職するときは毎回、皆がびっくりする。今回も「せっかくフェイスブックでマーク(・ザッカーバーグCEO)のリーダーシップチームに入っているのに、なぜ辞めるの?」と。

フェイスブックは本当にいい組織だった。でも、やっぱり新しい会社やサービスを作り上げていくのは楽しい。本当に自分が役に立てるという実感があるし、これだけ会社づくりの初期の段階で仲間に入れるのはとても刺激的。しかも、メルカリには「絶対成功する」という確信を持っている。


――メルカリの山田進太郎CEOとは以前から知り合いだった。

もう彼とは10年くらいの付き合い。グーグルに在籍し、日本で仕事をしていた頃、スタートアップ業界の人との出会いが多くて、シン(注:山田進太郎CEO)とはその頃に知り合った。アドモブ(グーグル傘下のモバイル広告配信プラットフォームの提供企業)にいた頃には、シンと一緒に仕事をしたこともあった。

以来ずっと付き合いがあって、シリコンバレーに引っ越してからも、シンがアメリカに来るたび食事をした。で、シンが(自身の起業したウノウを米ジンガに売却、組織を離れた後)世界一周の旅を経てアメリカに来たとき、次の起業に向けたアイデアを説明してくれた。それがメルカリの原型となるC to Cマーケットプレイスの構想だった。

それを聞いた瞬間、「これはいける!」とすごく興奮したのを覚えている。アメリカにはeBay(イーベイ)などの先行サービスはあったけど、一般の人が使いこなすにはハードルが高い。だから「普通の人が、普通のモバイル端末で、簡単に売買できるサービスを作る」というコンセプトを聞いた時点で、絶対うまくいくと思った。

シンにはソーシャルゲームを作ってきた経験もあるので、遊び心というか、入り口のハードルを下げたり、離脱率を減らしたりする仕組みづくりが非常に上手。それは今でもメルカリの競争力になっている。

海外で勝つため、自分の力が必要と感じた

――気持ちが傾いたきっかけは何だったのでしょうか?


ジョン・ラーゲリン/ストックホルム商科大学修士課程修了。在学中、東京大学大学院経済研究科でも論文研究を行う。米グーグルでAndroidグローバル・パートナーシップディレクターなどの重要なポジションを7年間務めた後、2014年に米フェイスブック社のバイスプレジデントに就任。グローバル・ビジネス・デベロップメントやモバイルパートナーシップをはじめ、数多くの分野で事業提携業務を統括。2017年6月、執行役員CBO(最高ビジネス責任者)としてメルカリに参画。同9月よりメルカリ米国子会社CEO(最高経営責任者)を兼任。現在41歳(9月19日時点)(撮影:今井 康一)

その後もシンに会うたび、会社設立やアプリローンチなどの経過を聞いていた。程なく日本でヒットした後も、シンはずっと「海外で勝たないと意味がない」と言っていたし、自分もそう感じていた。ただ、海外で成功する日本企業の例は、特にネット業界では最近ほとんどない。

一方、僕自身は日本に12年ぐらい住む中で、日本企業の強みと弱みを何となく見てきたので、メルカリに何かアドバイスできることがあるならしたいと思っていた。するとやはり、シンから「フルタイムで入ってもらえないか?」と声を掛けてもらって。当時はフェイスブックにいたので、やり遂げたかった仕事にメドがついたタイミングで、今年6月からメルカリの一員となった。

――実際に参画してみて、会社としてのメルカリにどんな印象を持ちましたか?

シンが本当に能力の高い人を呼び込んで、的確なところに配置し、的確な権限を与えている。ポリティクス(社内政治)がない会社だなと。ミッションがはっきりしていて、それぞれ持ち込んだ経験をそれぞれの役割で生かし、皆が全力で走っている感じ。

もうひとつ感じたのは、「本気でアメリカ(で事業を)やるぞ」という気概。今は共同創業メンバー(山田CEO、富島寛取締役、石塚亮取締役)が3人とも、ほとんどの時間をアメリカで過ごしている。今、日本でこれだけ勢いのある会社で、こんなことは普通ありえない。必死さが伝わってきた。

――現地版アプリの投入からは3年が経ちました。今、米国におけるメルカリのサービスはどういう段階にあるのでしょう?


メルカリの創業者で会長兼CEOの山田進太郎氏(39歳、9月19日時点)。今年4月に社長職を譲り、自身は海外事業の開拓に専念している(撮影:今井 康一)

メルカリをひとつの機械に例えると、日本生まれの機械だが、アメリカという環境の中で、アメリカの電源につなげてもちゃんと電圧が合って動くということはわかったという段階。競合の関係上、あまり具体的な数字を出したくないが、少なくとも現地で機能することは証明できている。

ただ、サービスの認知度はまだ高くなく、これからもっとマス向けにアピールしていかなければならない。幸い日本ではすでにしっかり利益を出せていて、アメリカでどんな動きを取るかも計画しやすい。だから9月からはアメリカのCEOとして、いっそうこれを加速していきたい。

採用やプロダクト作りも、今かなり現地化を進めている。6月にはアプリそのもののコードのベースを日本と分けた新アプリを出した。ベースが同じままだと、大きな変更をする際、日米両方でその影響に対応しなければならないため、スピードが落ちる。今回の刷新で本当にアメリカ向きの機能を即時に判断、追求できる土台ができた。

アメリカでは人と人とのやり取りが減っている

――サービスをマスにアピールしていくにあたり、今、米国の消費市場、消費者心理などの傾向をどう分析していますか。

今、アメリカの消費者は、けっこう「大企業疲れ」しているように見える。何でもアマゾンで買う、何でもウォルマートで買う……という傾向が強くなって、個人経営の小さな商店が閉め出され、結果として、人と人とのやり取りがどんどん少なくなっている。政治に目を向けても、わざと皆をバラバラにするような方向に走っている感がある。

だからこそ人と人を結び付けるサービスが求められているはずだし、メルカリはそれを提供できる。人の命を救えるようなサービスではないけど、今、アメリカで必要とされていることの一部を担える。そういう意味では今、社会的に非常にタイムリーなサービスだ。

メルカリの特徴は単なる売買ではなく、「捨てるかどうか」迷っていたものを誰かの生活に役立てられてよかった、しかもある程度のおカネが手に入ったから寄付よりはよかった、というもの。そういう自己肯定感とか、満足感、温かい気持ちが生まれるプラットフォームであるということを、きちんとストーリーとして仕立ててアメリカの消費者に伝えていきたい。

僕自身、メルカリでいろんなモノをいろんな人から買っているが、みんな包み方が違うし、メッセージを残す人もいてとても面白い。他方で、絶対に売れないと思って出したモノが売れたり、絶対に売られていないと思っていたモノを買えたり、そういう体験もできる。実際、メルカリを使っている人からは「コネクションを感じた」というコメントがよく聞かれる。

日本ではすでに「メルカリってそういうものだよね」との認識が広がっているが、アメリカではまだまだ。この要素をどう伝えるかが、今後のめちゃくちゃ重要なミッションだ。どこかのタイミングで、「アマゾンで買うのと違うよ」と、独自の立ち位置を打ち出すPRを、もっと分厚い形で展開していこうと思っている。

――これからマーケティングを強化していくということですが、その時にグーグル、フェイスブックに在籍していたときの経験はどう生きてきますか?

人脈の部分が大きい。日本のビジネスにおいては人脈の重要性がよく語られるが、実はシリコンバレーも人脈が大事。グーグル、フェイスブック時代にいろいろな人とかかわって、ビジネスをちょっと手伝ったり、助けたりする場面も多かった。だから逆に今は、いろんなところで「助けてね」「手伝ってね」と、遠慮なく言っている。たとえば、新しいコンセプトの広告をトライアル的に展開したいとき、あるいは現地で優秀な人を採りたいとき、人脈は役に立つだろう。

今はメルカリの成功に向けて、今まで作ってきた信頼関係を遠慮せず頼ろうと思えるほど、メルカリという会社に自信を持っている。何も恥はない。かなり手前みそな感じだけど、でも、本当に宣伝というつもりはなく、信じて言っている。

目立った競合はまだいない

――米国現地での競争環境はどう見ていますか。


サービスの開始からおよそ4年でアプリダウンロードは7500万(国内5000万、米国2500万)に到達。不適切出品も話題に上ることが多くなった中、どこまで成長を続けられるか(写真は六本木ヒルズの本社、撮影:今井康一)

似ているサービスはあるが、完璧に同じものはない。まず、取引のためにオフラインで会わなければならないサービス。これは安全性の問題が出てくるのと、ビジネスとして、販売手数料を取る以外の課金ポイントを作らなければならない。一方、メルカリと同じように配送という形でやっているPoshmark(ポッシュマーク)みたいなサービスもあるが、洋服、ブランド品などの狭い商品群しか扱っていない。

あるいは、先ほど触れたイーベイはすでに広く使われているが、もともとウェブサービスなのでモバイルには強くない。そういう意味では、メルカリはすでにユニークな価値を有しているし、大きな市場を取れる可能性を秘めているだろう。


――米国で「ここまで来たら成功」といえる基準は持っていますか?

今の段階で定義すべきではないが、まずは一般的に手段として知られていて、「こんなときに使いたいものだよね」と、ほとんどの人に理解される状態を目指している。ニッチではなく、マス向けのものになるというのは一つの目標だ。

――物流面など、米国には日本とは異なる条件、困難さもあります。

確かに米国現地でメルカリが始まって初期の頃は、売りに出されているモノが少ないので、すべての州をまたいで売り買いできることが求められていた。でも今は、州単位で見ても供給が十分になってきている。

すると今後は、価格に関係なく早く届くモノを買いたい人、州をまたいで届くのが遅くても価格が安いモノを買いたい人、というふうに日本より顕著にニーズが分かれてくる。そこはAI(人工知能)を使いながら、もうちょっと高度なパーソナライズの機能を検討していきたい。

今後はアメリカのCEOとして、プロダクト開発はもちろん、マーケティングや人事・採用も、経営のすべての面により深くコミットしていく。肩書にはこだわっていないが、ここまで山田がエンパワー(権限委譲)してくれているというのは非常に価値があること。もちろんその分、責任も重くなるだろうけどね。

『週刊東洋経済』9月19日発売号(9月23日号)の特集は、「メルカリ&ZOZOTOWN 流通新大陸の覇者」です。