韓国民団のデモ行進の様子

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 度重なる弾道ミサイル発射に加えて、9月3日には6回目の核実験を強行した北朝鮮の脅威が高まっている。そんな状況に不安と怒りの声を挙げているのが、在日コリアンだ。

 北朝鮮の暴挙に対して、在日コリアンからは「糾弾すべき」「沈黙することは暴挙を容認すると受け止められかねない」という意見が噴出しており、危機感を抱いている。

 9月16日には、在日コリアンで構成される在日本大韓民国民団中央本部(韓国民団)が東京・日比谷公園で抗議集会を開き、在日朝鮮人の組織である在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)を厳しく糾弾した。韓国民団が大規模デモを実施するのは、実に15年ぶりのことである。

 冒頭、東京本部の李壽源監察委員長が開催趣旨を読み上げた後、同じく東京本部の金秀吉団長が以下のようにあいさつした。

「北朝鮮は国際世論を無視し、核実験・ミサイル発射を続け、日本上空を通過しています。私たちは、この暴挙を絶対に許してはいけません。金正恩独裁政治が続くなかで、北朝鮮国民は人権を無視され、餓死者も出ているのが現状です。朝鮮総連は北朝鮮に対しての追従を即刻中止し、心から怒りを込めて北朝鮮と朝鮮総連に届くよう、シュプレヒコールによって強く抗議しましょう」

 続いて、中央本部の呉公太団長が激励の言葉を寄せた。

「本日のデモ活動では、少数ではありますが日本の方もいらっしゃいます。ぜひ、みなさま拍手をお寄せください。私たちは同胞で殺し合った朝鮮戦争の歴史を経験しています。これも、金日成が野望のために起こした戦争です。

 私たちの先輩の在日コリアンは624名が朝鮮戦争に参加し、135名が戦死しています。戦争なんて、絶対にあってはいけません。北朝鮮の金正恩はバカか。あの小さな国土で核実験をやったらどうなる。環境破壊もいい加減にしろ。私たちの朝鮮半島の美しい山河を後世に残すことが、我々の責任です。

 日本は原爆によって被爆し、多くの方が亡くなり、後遺症に苦しんでいる。その際、私たちの先輩が3万人以上亡くなっている。私たちは、北朝鮮に対して怒りをもって行動すべきです。金正恩は核開発・ミサイルを止めなければならない。私たちは世界の平和を愛し、この美しい地球を愛する民団でありたい。朝鮮半島に核はいらない。そう、私は考えます」

●「朝鮮総連は一刻も早く目を覚ませ」

 この後、約1000人(韓国民団発表)が参加し、「世界平和を脅かすな」などと書かれたプラカードを掲げながらデモ行進が行われ、「北朝鮮は核開発をやめろ」「北朝鮮の弾道ミサイル発射を許さないぞ」「金正恩は世界平和を脅かす戦争挑発行動をただちに中止せよ」「朝鮮総連は抗議に立ち上がれ」「北朝鮮は拉致者をただちに返せ」とシュプレヒコールが上がった。

 そのなかで印象に残ったのは、「朝鮮総連は一刻も早く目を覚まし、北朝鮮の核開発・ミサイル阻止に立ち上がることを強く求めます」という言葉だ。そして、この場でも在日コリアンからはさまざまな声が挙がった。

 在日本大韓民国青年会東京地方本部の郄晴美宣伝部長は、「やはり、朝鮮半島での核開発・ミサイル発射は悲しいことだと思います。私たちは日本に居住しており、日本の方とともに核開発やミサイルに反対することが大切だと思います」と語る。

 また、中央本部の朴相泓事務副総長兼総務局局長は「今回のミサイル発射については、在日コリアンも日本の方々と運命共同体であり、大きな被害を受けます。日米韓、さらにはヨーロッパと連携して北朝鮮の制裁を進めることが必要です」と言う。

 さらに、若い在日コリアン3世の方からは「北朝鮮が核開発を行って世界を脅かしているのはよくないです。朝鮮総連に関しては、韓国民団と意思疎通ができないことは残念です。また、ヘイトスピーチは限度があり、人として問題があります。最低限、人としてのルールは守ってほしいですね」という意見が聞かれた。

 以下のように語ったのは、栃木県地方本部の崔龍治団長だ。

「『核をなくさなければならない』という思いで参加しました。北朝鮮が核保有国になれば『韓国、そして日本も核を持つべきだ』という意見が強くなる。それは避けなくてはいけません。また、日本人から見れば在日韓国人も在日朝鮮人も区別がつかない。しかし、同等に見られては困る。今こそ、在日韓国人として声を挙げることが大切だと思います」

●「朝鮮総連は核を称賛している」

 この抗議活動を、韓国本国はどう見たか。韓国のテレビ局であるSBSのソン・フェヨン東京支局長は「私見」と断りつつも、「民団の立場からすれば、このような活動をするのは当然のことだと思います。日本国内の世論とうまく調和して、いい解決ができることを期待しています」と語った。

 デモを終えた後、呉団長は朝鮮総連に対して「このままでいいのですか。あなた方は核を称賛している。それでいいのですか」と訴え、金正恩朝鮮労働党委員長に対しては「祖国のきれいな山河を壊していいのですか」とメッセージを発した。

 また、中央本部の林三鎬副団長は「私たちの思いは、日本人の方々にも伝わったと思います。なかなか反応はよかったと思います」と語った。

 在日コリアンは、さまざまな事情があって日本に居住している。先祖が徴用を余儀なくされてそのまま居住したケースや仕事や結婚で来日するケースもあり、特別永住資格の有無もさまざまだが、いずれも朝鮮半島にルーツを持つ。

 そして、多くの在日コリアンは日本人との共生を願っている。そんななかで、北朝鮮の核開発やミサイル発射について、日本人と同様に脅威や不安を感じるというのは当然のことだ。

 仮に日本人の間に「北朝鮮の核・ミサイル開発に賛同している在日コリアンが多い」という考えがあるとすれば、それは誤解だ。同じ日本社会に居住している以上、在日コリアンも同じく不安を抱えているのが実情だ。

 今こそ、北朝鮮の脅威に対して日米韓が連携して対峙することが必要だ。仮に、ここで嫌韓のムーブメントが起きるようなことがあれば、それは北朝鮮を利する行為にほかならない。日韓間には「従軍慰安婦」や「徴用工」などの諸課題があることも事実だが、在日コリアンに対するヘイトスピーチやヘイトクライムを誘発するような空気があってはならない。

 日本社会において、日本人と在日コリアンは同じように日本に貢献し、同じように日本の発展を願う気持ちを持っている。それは、筆者が多くの在日コリアンと意見交換を行った実感だ。より多くの在日コリアンと接することで、誤解があったとしても解くことができるだろう。朝鮮半島情勢が緊迫化する今だからこそ、お互いに意見交換を進めることが何よりも大切だ。
(文=長井雄一朗/ライター)