中国進出で成功する企業と失敗する企業 その決定的な違いとは?

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人口が14億人にせまり、経済成長の歩みを止めない中国は、日本企業にとっても魅力的な市場。

しかし、「チャイナリスク」の言葉通り、企業の中国進出は取引先の倒産や契約不履行など、思いもよらないトラブルで頓挫したり、当初の計画に狂いが生じることも多い。

思うに任せない中国でのビジネスを成功させるために、日本のビジネスパーソンは何を知り、どう考えるべきか。『本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?』(集英社刊)の著者で、中国社会のオモテとウラを知り尽くした作家の谷崎光さんにお話をうかがった。注目のインタビュー後編をお届けする。

――中国で成功する日本企業と、失敗する日本企業の違いはどんな点にあるとお考えですか。

谷崎:まずは代表の資質だと思います。自分の家族だけを大切にすることも含めて個人で生きる人の集合体であるという中国の本質をつかんでいること。度胸と責任感があることは成功の要因だと思います。企業が派遣するならひとりで判断&戦略立案&実行&マネジメントできる人。

最初から勝つ気がなかったり、戦う気がない人がきても、失敗します。そういう人を送る本社が悪いです。熱心でも中国に向いていない人もいますね。

それと、商品力の見極めですね。商品の品質と価格の両方で中国人にとって優位性があるものは成功しやすい。BtoBなら中国人が造れないもの。一般消費財なら、中国人が持ち込んでいるようなもの。たとえばサイゼリアは中国の他の洋食レストランより安く、ウケてます。

売る方の思い込みや希望が入っていたり、中国人からの客観的なヒヤリングが少ないと失敗しやすいといえますね。

一時、中国には富裕層がいると言うことで、漆塗りの超高級食器とか、日本でも売れないような伝統工芸品が大量に持ち込まれていました。日本人が買わないものは、中国でも売れません。少しずつ様子を見ればいいのに、失敗するところは、最初から全力でやってしまう。

逆に趣味のものでも、日本刀などは中国でも一定のファンがいますから、優良アンティークルートをつかめば売れるかもしれません。ただ、こういうものはプロの中国人に日本で売ったほうがいいかもしれませんが。

――日本企業が中国市場の需要を読み違えるケースはやはり多いのでしょうか。

谷崎:代表的なのは携帯電話です。私は2000年代から日本の携帯の中国市場戦をつぶさに見てきました。当時参戦していたのは、ソニー、東芝、京セラ、シャープ……、大手ばかり20社ほど。

しかし正直、各社これが大手か、と思うほど、中国市場とずれた商品ばかりでした。中国語が一切表示されないものがあったくらいです。技術力はすばらしいはずなのに、中国人が必要とする基本的なことができない。こうなると店頭でも隅っこに置かれホコリをかぶる運命です。かろうじてソニーエリクソンが音楽携帯を出し現在も残っていますが、あとは全滅といっていい。

逆にユニチャームなどは、他社の2倍近い値段でも品質が抜群によく(どこの国でも必要なのは同じモノ)、この頃から優勢でした。

付け加えるなら、中国で成功する企業は、参入する業界や国を時代や全体から構造的に見ています。そろそろ中国でもうちの商品が売れる時代だとか、単純な労働集約産業は世界中を移動していくとか。一方、失敗しがちな企業は情報に単独で反応してしまいます。一時、大連政府と関係の深い某著名ジャーナリストが中国進出をあおり、その情報だけを頼りに、大連に進出した中小の会社がたくさんありました。小さな人脈だけをきっかけに、その業種に特に優位性のないエリアに行くと負けます。あとは、ちょっと偉そうですが、日本で負けている会社やオーナーなどが、起死回生とばかりに中国に来ても、基本勝てないです。

――中国でビジネスをする時に考慮すべきリスクについて教えていただきたいです。

谷崎:投資した資本を失う、売上回収の困難、卑近な例でいえば、小姐と遊んで逮捕拘留されたり犯罪に巻き込まれる、詐欺まがいの契約を結んでしまう、撤退できない(維持費がかさんでいく)、労働運動、市場の変化が速い、ニセモノリスク、技術移転、業種によっては黒社会とのかかわり、政府との関係など、挙げればたくさんあります。

日本の大手企業が、現地の政府と契約し、開発区の土地を紹介されたが、実はそこは沼地だったとか、資本金を振り込んだら、相手の会社が資金難で他社の支払いにあててしまったとか、予想のつかないリスクもあるので注意が必要です。

ただ政変や国家崩壊等の、いわゆるカントリーリスクは、私はこれから10年はたぶんないと思います。

――日本のビジネスマンが戸惑いがちな、中国との商習慣との違いがありましたら教えてください。

谷崎:交渉では、中国側はライバルを出して競わせる。疲れさせて有利に持っていく、やたら自分を大きく見せる、ブラフかける、梯子かけて外す……等、中国4000年の戦術は使うでしょう。

意外な一面としては、面子のため、会話や通信文ではっきり要求を言わないときがあります。たとえば中国のA社は日本のB氏から技術を学ぶつもりで交渉中です。Cという技術が欲しいのですが、地方で旧式の技術しかなく、そんなこともできないのか、と思われるのが嫌で、わが社はDEFもできる!ばかり強調し、何を言っているか日本のB氏側はさっぱりわからないとか。

あとは、賄賂といいますか、通行料的なお金の支払いについては、ある程度の以心伝心が必要ですから、まじめな日本人はつらいかもしれません。

中国では決定のスピードが大事になります。今の中国は無数のベンチャーが起業してはつぶれ、をくりかえしている状態で、連鎖して資金難のところも多い。その分、資金調達のため、その場で決定すれば半額、明日は倍、みたいな話もあるし、逆にいい物も人も話も油断すると持っていかれてしまう。返答や決定の遅い日本は取引先として敬遠されつつあります。競争社会で判断を早くしないとチャンスがなくなるというのは、大手が寡占している日本にはあまりない感覚です。

さらにいえば、苦労して話を決めても、契約でサインをするまでは話をくつがえしていいのが中国です。有利な話が決まったら、速攻で契約に持っていかないと他に奪われたりもします。

――日本企業が海外で成功する秘訣として「お金を積んでも優秀な中国人を採ること」という意見が紹介されていました。日本では優秀な人材でも「お金よりも、仕事のやりがい」というように、賃金以外のことを理由に仕事を決めることがありますが、中国ではどうなのでしょうか。

谷崎:中国人にも「お金よりやりがい」ということで仕事を決める人もいますが、最終的には、そのやりがいが自分の資産になること、上昇できることを重視します。「発展空間(その場での自分の上昇の余地)」という言葉が使われますね。

「やりがい詐欺」にかかる人は日本人より少ないのではないかと思います。能力があるのに、低賃金のアニメーターを10年やるような人はいないです。炭鉱など超絶ブラック企業は多いですが、そこにいるのは学歴や戸籍(!)がなかったり、借金があったり、他に逃げられない人も多いです。

逆に日本人もそうですが、「給料はそこそこだけど、安定した楽しいラクな職場」というのも、これはこれでまた一種の資産なわけです。日本人もやりがいといいながら、会社だと自分で仕事が決められないことも多いので、これに高得点をつける人も多いのではないでしょうか。

中国人も環境やその職場で得られる「賄賂的副収入」も含めて、総合点で評価する人もいますね。「給料は安いが(4点)、安定(8点)、職場の雰囲気(7点)、含金量多(賄賂)(10点)……」みたいな。

逆に中国的プレッシャーとしては「独立」があります。起業して成功するのがエラい、みたいな価値観が強く、実際成功している人も身近にいるので、無理する人もたくさんいます。

――経済成長率の鈍化が指摘される中国ですが、それでもまだ確実な成長を続けています。谷崎さんは北京在住とのことですが、北京の街を歩いていて経済成長による活気を感じる場所はどんな場所ですか?

谷崎:ビジネス街の国貿あたりはおしゃれな女子が多いですね。学生街の五道口も、休日のレストランは若者で長蛇の列ができています。
北京の古いエリアの四合院(昔の日本の一戸建て的な建築)の中に看板のないレストランが林立し、若者でいっぱいなことも経済的な発展を感じさせます。
郊外のマンション群と、政府に移転される研究所などがどこまでも果てしなく成長していく様子も勢いを感じます。

――北京で、あるいは中国で最近ヒットした商品やサービスがありましたら教えていただきたいです。

谷崎:今、外食のデリバリー(店が配達者を共有)サービスが大ヒットで、たとえばスマホでタップしていくだけで、「コンビニでジュースとお菓子と吉野家で牛丼、買い集めて持ってきて」というのが配送料100円でできます。オフィス街の昼食、夜食は今7.8割方これです。たいていのレストランがこのデリバリーに対応しているので、普通の料理も持ってきてくれて、共稼ぎの家庭でもラクです。

――中国暮らしが長い谷崎さんですが、中国で最初に感じたカルチャーショックはどのようなものでしたか?

谷崎:とにかく、モノが壊れます。最初、留学した大学の寮(一人部屋)は、入浴中ドアノブが壊れて服がなく裸同然で助けを求めにいったり、仕事用に買い求めた見かけは立派なオフィス風椅子が突然分解して、石の床で死ぬほどお尻を打ったり。櫛や物差しも何度も折れ(出かける前に櫛だと不吉な気分に……)。ホチキスは10個買っても使えるのがひとつもない。電話線がニセモノで、ネットの速度が遅かったり、電球の爆発は日常茶飯事、エレベーターが落ちた、ガス設備が爆発という話もしょっちゅう聞き、毎日の生活に命がけ感がありました。それが今の中国に変わりましたから、まあすごいです。

――最後になりますが、この本の読者の方々にメッセージをお願いいたします。

谷崎:中国はたいへんと思うかもしれませんが、中に入ってみればものすごくおもしろいです。

会社員の頃は、現地の中国人とケンカばかりしていましたが、会社を辞めたとき、彼らがいっせいに転職の声をかけてくれました。それもそれぞれの転職先とポジションが具体的で、関係的にもほぼすぐ実現する話ばかり。今の仕事がしたくて辞めたので、いかなかったですが、印象深かったです。当時の知人の一人は現在、国籍も変わってカナダで富豪になっています。

中国人のビジネスマン(外国籍や華僑も多い)は昨日上海、次はアメリカ、休日は日本という感じで歩幅がやたらと広く、かつ男女とも死ぬまでみんな何かやっているし、時代的に壮絶な世界をくぐってきている人も多いので、視点が日本人と違う。接すると日本とは違う世界がある。何があっても生き抜くことが大事、という気持ちになれます。

(新刊JP編集部)

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