松原良香の南米サッカーレポート(後編)

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 W杯南米予選もたけなわの8月後半から9月にかけて、元日本代表FWの松原良香氏は、現役時代にプレーしたこともあるウルグアイに滞在していた。現在、松原氏はストライカーについての研究論文を執筆している。特に南米に注目するのは、例えば2014年ブラジルW杯の大陸別成績として、次のようなデータがあるからだ。


W杯南米予選アルゼンチン戦に出場したウルグアイ代表のエース、ルイス・スアレス

南米(6カ国)=13勝2分3敗 1試合当たりの平均勝ち点2.3 
総得点44、1試合平均得点2.44/総失点35、1試合平均失点1.94

欧州(13カ国)=18勝7分14敗 平均勝ち点1.6
総得点83、1試合平均得点2.13/総失点60、1試合平均失点1.54

北中米(4カ国)=5勝3分4敗 平均勝ち点1.5
総得点16、1試合平均得点1.33/総失点19、1試合平均失点1.58

アフリカ(5カ国)=3勝3分9敗 平均勝ち点0.8
総得点19、1試合平均得点1.27/総失点32、1試合平均失点2.13

アジア(4カ国)=0勝3分9敗 平均勝ち点0.3
総得点9、1試合平均得点0.75/総失点25、1試合平均失点2.08

 断トツの最下位はアジア。そして勝率、得点ともにトップは南米だった。その理由を探るため、松原氏は今回、ウルグアイのクラブチームを訪問した。ルイス・スアレスやエディソン・カバーニを生んだ国で、松原氏が見たものとは?

 僕が初めてウルグアイに行ったのは18歳のとき。高校を卒業してペニャロールのサテライトに加わりました。そのとき以来の友人であるウルグアイのサッカー関係者に今回、「スアレスやカバーニが出たクラブに行きたい」と言ったら、「それよりももっと面白いクラブがある。そこにウルグアイの秘密があるから行ったほうがいい」と言われたのがプラサ・コロニアでした。

 ウルグアイの1部リーグは16チームからなっているのですが、ほとんどは首都モンテビデオにあります。ひとつだけ離れた、コロニアという町にあるのがプラサ・コロニアです。その名は日本ではほとんど知られていませんが、2015〜16シーズンの後期リーグで初優勝を果たしています。

 カルロス・マンタ会長はウルグアイでも有名な元監督。監督業を25年やって引退し、保養地でのんびりしていたところに、プラサ・コロニアを強くするプロジェクトをやってくれないかと言われ、再びサッカーの血が騒いで4年前に就任したそうです。会長とはいえ、実際に練習にもよく来るし、総監督のような存在でもあります。

 優勝した後、選手が6〜7人売れたので、そのお金で育成のためのグラウンドを3面、造っているところだと言っていました。会長は常にクラブ経営のことを考えているのですが、それはすなわち、選手をいかに売るかということなんですね。毎年、最低1人は売るのがノルマだそうです。


パラグアイ戦で先制ゴールを挙げたフェデリコ・バルベルデ(ウルグアイ代表)と松原良香氏

 というのも、クラブの収入が100あるとすると、テレビ放映権やスポンサー料が30。残りの70は選手を売ることで得るのだと言います。それがないとクラブの経営は成り立たない。だからどんどんいい素材を入れて、育てて、売る。クラブも育てるのに必死になるわけです。

「会長、じゃあよくヨーロッパにも行くんですか」と聞いたら、「そんなのは経費がかかって仕方がない。エージェントが行けばいいんだ」と笑っていました。日本だとお金の話をするのはどこか悪いことというようなイメージがありますが、ウルグアイではすべてビジネス。それによってクラブもエージェントも選手も生活ができる。幸せになれる。

 いかにしたらいい選手が育っていくか。僕はつい日本と比べてしまうのですが、ウルグアイを見ていると、ひと言でいえば貧しいということもあるのですが、サッカーの持つ仕組み、環境、教育、すべてがそうさせているところがあると思いました。

 日本のクラブは、育成からプロとしての強化まで、すべてやろうとしていますが、彼らは違うんです。スアレスもカバーニも海外に出たのは19歳のとき。それまでの育成のところまではウルグアイでやるけれど、それから先はヨーロッパでやってくれというスタンスです。

 プラサ・コロニアには10日間ほどいて、実際にピッチに立ち、U-19とサテライト、トップの練習を見ました。

 そこであらためて感じたのは、球際の強さとコンタクトプレーの多さです。グーッとボールに対して全体が寄っていく。そこにウルグアイらしさを感じました。うまさやテクニックという点では、日本人も変わらないというか、十分やれると思うんです。ただ、それが本番になるとまったく違ってくる。彼らには10ある力が20に化けてしまうような、湧き上がってくる力がある。

 プロ予備軍であるサテライトなどの紅白戦を見ていても、とにかく諦めないことに感心します。例えばボールがタッチラインを少し出て、相手が「アウト」と言っても、笛が鳴らなかったらそのまま続けます。日本人はボールが出たらそこで止まるじゃないですか。止まらないんです。それも1人、2人ではなく、全員がそうなんです。

 ケガをするんじゃないかと心配になるような激しいプレーもするけど、ケガはしないんですね。いちいち痛がっているけど、すぐ戻ってプレーする。いま自分が何の目的のためにプレーしているのか、わかっているんでしょうね。プロに上がるアピールのために練習しているんだということを、実によくわかっている。

 プレーを見ていると、野性味が溢れていて、けっしてきれいなプレーをするわけではないのですが、ひとりひとりの個性がわかりやすい。獣が飛びかかってくるところをスッとかわすセンスがあったり、相手がきたときにスーっとサイドチェンジして全然違うところに視野を変える能力があったり。

 それとやはり縦への意識ですね。ボールをいかに速く前に運んでいくか。まずはゴールで、ひとつひとつのプレーがゴールに向かうためのものというのが徹底されている。そこはやはり日本とは違うなと思いました。

 ナシオナル対プラサ・コロニアの試合で、ナシオナルの先制ゴールを挙げたのは、19歳のCBでした。パラグアイ対ウルグアイ戦で先制ゴールを挙げたMFフェデリコ・バルベルデも19歳。そういう若い選手がどんどん出てきて、躍動している。ウルグアイのサッカーにいい循環が生れているのを目の当たりにすることができました。

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