快進撃の陰の立役者となっている戸嶋のプレースタイルには、チームメイトも大きな信頼を寄せている。写真:竹中玲央奈

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 決して派手さは無いし、どちらかと言えば地味なプレーヤーかもしれない。
 
 天皇杯で快進撃を見せている筑波大は、磐田内定の中野誠也と山形内定の北川柊斗という2人の強力なストライカーを要し、中盤の底には高校選手権でその名を馳せた鈴木徳真という管制塔が君臨する。ジョーカーには大学ナンバーワンドリブラーと言っても過言ではない三笘薫も控える。際立つ個が居並ぶなか、背番号8を背負う戸嶋祥郎のプレーは観衆の目を集めるほどの強烈なインパクトがある訳ではないのは事実である。だが、サッカーをよく知っている者が見れば、“効いている”と分かる彼の存在価値の大きさは明らかである。
 
 浦和ジュニアユースから市立浦和高へ進学した戸嶋は選手権出場を果たし、チームの中心として大会での得点も記録している。ただ、彼が筑波大へ進学したのは一般入試を経て、である。限られたスポーツ推薦の枠でこの国立大学の門を叩いたわけではない。
 
 余談だが筑波大学の推薦枠は「5」であり、決して多いとはいえない。その枠内で進学した選手の中でも最終学年時に絶対的なレギュラーになれるかといえばそうではないし、そう考えるとこの5人の成長に賭けてチームの浮沈の鍵を全て委ねるのはリスクがあるとも言える。その中で少なからず、一般受験組がどれだけトップチームに食い込めるかという点が重要になってくる。現在サガン鳥栖で背番号2を背負う三丸拡も筑波大の出身だが、彼も一般受験組である。「勉強は得意だったので」と、嫌味なく口にしていたのが印象的だ。
 
 戸嶋について話を戻すと、一言で言えば「気が利く」選手である。チームメイト、スカウト、そして現場で誰を取材してもこの言葉が出てくる。
 
 主戦場はトップ下や右サイドだが、前線からの守備を決して怠ることなく、守から攻への切り替えの速さはチーム随一だ。
 
「彼に関しては誰が見ても分かるように攻守の切り替えの部分が優れている。練習から“そのスピードでできるか?”と思うくらいのスピードで切り替えてやっていますし、それに加えて守備において、周りの選手に対して気が利くプレーができる」
 
 チームの得点源である中野誠也も、戸嶋をこう評して、その献身的なパフォーマンスに信頼を寄せている。
 誰しもが、彼の前線でのハードワークや守備面に太鼓判を押しているが、それだけではない。最も見てほしいと思うのが、ボールを怖がらずに受けるその姿勢である。自陣に押し込まれ続けていたり、強度の高い相手のプレスを前にして思うようにビルドアップができなかったりすると、特に前線の選手はボールを受けることに消極的になりがちだ。FC東京の大久保嘉人はこれを「隠れてしまう」と表現しているが、戸嶋についてはその“隠れる”ことがまったくない。
「いいポジションを取り続けて仲間をサポートするというのは、結果的にチームの良い攻撃に、チームの流れに繋がっていくと思っている」からこそのプレーだと本人は言う。
 
 ただ、こうも続けた。
 
「自分のなかでは効果的に受けられているかというとまだまだなので。もちろん守備や、競り合いとかで自分の良さを出すというところは大前提として考えなければいけないし、今の状況に甘えずに満足せずにやっていきたいと思う。それに、自分としては結果を出せていないので。もっと得点にこだわりたい」
 
 やはりオフェンシブな選手だからこそ、数字が出ていないことに不満があるようだ。とはいえ、それを補って余りあるほどのプラスアルファをチームにもたらしていることは間違いない。だからこそ、数字が出ずとも、彼は筑波大のスターティングイレブンの中に名を連ね続けている。
 
 9月20日に行なわれる天皇杯4回戦の大宮戦でも、彼がキーマンとなることは間違いないだろう。現在はJ3とJFLのクラブからのオファーのみで、J2、J1からの声はまだない。「なんとかもうひとつ上に拾ってもらえるように頑張りたい」と語るが、その思いを叶えるためにも、この水曜日の一戦は、非常に重要な「就活」の場となりそうだ。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)