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「こう、日本酒を口に入れた瞬間にさ……自然にふっと笑顔がこぼれるようなお酒。死ぬまでにそんな酒が造りたいんですよ」

  

新潟・麒麟山酒造の杜氏・長谷川良昭さんは、少年のように目を輝かせてそう言った。

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日本にはいま、1,500以上の酒蔵があり、銘柄で言えば約20,000種類もの日本酒が造られている。日本中の酒蔵が切磋琢磨しあい、日本酒づくりの技術は歴史上、最高レベルにまで達している。

 

日本酒ファンにはおいしい酒が飲めるとあって嬉しい反面、こと"日本酒選び"に関しては歴史上いちばん難しいのかもしれない。

飲食店へ行きお店の人に聞く、自分の感性で選ぶ、産地で選ぶ……いろいろな探し方があると思うが、もうひとつ、今後の日本酒選びのトレンドになるのは「杜氏から選ぶ」ではないか。

ワインの出来がその年のブドウ作りに左右されるのに対して、日本酒の出来は杜氏の力によって決まると言われている。であれば、杜氏を知ることで、日本酒の楽しみ方はより一層広がるはずだ。

ということで、今回、日本一の酒どころ新潟を代表する酒蔵・麒麟山酒造へ伺い、酒造りに携わって30年の経験をもつ杜氏に話を聞いた。

  

‐‐:本日はよろしくお願いします。さっそくなのですが、麒麟山酒造さんはどんな酒蔵なのですか? 

長谷川良昭(以下、長谷川):創業1843年で江戸時代の終わりから、170年以上続いている酒蔵になります。新潟の日本酒というと、一般的に「淡麗辛口」のイメージがあると思うのですが、私共の蔵もスッキリしていて飲み飽きしない「食中酒」を目指して造っています。 

特別な日に飲む酒より、毎日飲みたくなる酒を

‐‐:食中酒にこだわるのはなぜですか?

長谷川:何よりもまず地元の人に愛してもらえるお酒じゃなきゃダメだと思っているんです。そうすると、特別の日に特別な場所で飲む1本何万円もするような酒じゃなくて、自宅での晩酌だったり会社帰りに飲むような日々の食卓を豊かにする酒が理想なんです。

  

‐‐:なるほど。長谷川さんも毎日お酒を飲むんですか?

長谷川:最近は減りましたが、3合くらいは毎日必ず飲みます。

‐‐:減って毎日3合!(笑) 

長谷川:もちろん、うちの酒だけじゃないですよ(笑)。毎日飲んでいると、大吟醸もおいしいですが、結局は飲み飽きしないスッキリした淡麗辛口に手が伸びるわけです。 

‐‐:華やかでフルーティなお酒も人気ですが、昔から辛口の酒を造り続けているんですか? 

長谷川:そうですね。これは昔からで、昭和30年代に日本酒の甘口全盛時代があったんです。ちょうど戦後で、世の中は味の濃いもの、甘いものに対する憧れが強い時代でした。当然、世間一般での売れ筋商品は、ハッキリと甘さが際立ったもの。でも、当時の齋藤徳男という蔵元が「酒は辛いもの」と言い続け、そこだけは絶対に譲らなかった。そういった意味で、一貫して造りたい酒は変わらないわけです。 

銘酒造りは先ず人の和から

‐‐:日本酒造りで大切にされてることはなんですか?

長谷川:酒造りで重要なのは「米」「水」、そして「人」ですね。

‐‐:「人」というと?

長谷川:麒麟山には代々「銘酒造りは先ず人の和からはじめよう」という言葉が受け継がれていて、良いお酒を造るためには杜氏がいくら良い腕を持っていても駄目だと。蔵人同士の和、農家さんとの和、住民との和がしっかりあって、初めていいお酒ができる。たとえ素晴らしい監督がいたって、いいチームが出来なければダメで、まずは人の和をちゃんと作りましょう、という教えです。 

‐‐:素敵な言葉ですね!

長谷川:私もそう思います。うちの飲み会に来てもらえれば、人の和を実感すると思いますよ(笑)。

‐‐:酒蔵の飲み会…。なにやらすごそうですね。 

長谷川:回数がちょっと多いですかね。親睦会として飲むのがだいたい月1回で、あとは、酒の造りはじめ、呑み切り(酒の貯蔵タンクを開栓するとき)、造り終い(仕込みが終わった)、品評会で入賞した時、部署飲み、暑気払い………。 

‐‐:すごい回数ですね(笑)。 

長谷川:これも仕事です、仕事(笑)。

料理人から感謝される酒?

‐‐:麒麟山酒造さんの中で、まず何の銘柄から飲んでみるのがいいですか? 

長谷川:一番は、麒麟山の「伝統辛口」ですね。

  

▲新潟の人は「伝統辛口」を略して「伝辛(でんから)」と呼ぶ 

長谷川:本当に良い日本酒を「水のような酒」と表現することがあるんですが、この伝辛も口に入れた瞬間、なめらかで滑りが良く、スルスルと飲める綺麗なお酒です。舌に酒のいやらしい部分が残らないので、料理の味をスッと流してくれる。そうすると、また次の料理に手が伸びる。

‐‐:料理との相性が良いのですね。

長谷川:それは最高ですよ。これは麒麟山を扱っていただいている飲食店からよく言われるんですが、「麒麟山を店で提供するようにしてから、お客さんが注文する料理が1〜2品増えたんだよ」って。 

‐‐:すごい!麒麟山を入れたら、お客が注文する品数が増えたと!

長谷川:そうそう、料理人が喜ぶんだってさ(笑)。和食とは何でも合うんですが、伝辛を飲んでると、「刺身と合わせたい」「次は、煮物かな」「焼き物とはどうだろう?」と、つまみがもう一品、もう一品と欲しくなる。 

‐‐:まさに、理想の食中酒ですね! 

長谷川:あと、伝辛が1年中飲める万能選手だとしたら、1年の中でもその「瞬間」に最高の魅力を発揮するのが季節限定酒。秋で言うと、「紅葉(熟成純米大吟醸酒)」。

  

長谷川:しっとりまろやかとした熟成酒で、うまみがたっぷりのった秋の食材なんかとは相性抜群だと思いますよ!

生涯で一度、心から満足できる酒を造りたい

‐‐:長谷川さんは、本当に楽しそうにお酒のことを語られますね。

長谷川:いやいや、悩みばっかりですよ。酒造りってのは、なかなか机上で作った設計図通りの味にはならないわけです。酒造りに携わって30年になりますが、毎年米の性質に悩まさながら、自分が造りたいと願う100点の酒を目指して造る。

‐‐:30年の経験を積んでも尚、難しいんですね。それでも日本酒を造り続けるのはなぜですか?

長谷川:お客さんに「おいしいね、やっぱり酒は麒麟山だね」と言われるのが第一。そして、生涯で本当に自分が心から満足できる酒を造りたいからですね。

 

‐‐:長谷川さんにとって、心から満足できる酒とは?

長谷川:言葉にするのは難しいんですが、食べたときに、思わず笑顔がこぼれる料理があるじゃないですか。そういうときって、「おいしい」みたいな言葉さえ出ないですよね。こう、日本酒を口に入れた瞬間にさ……自然にふっと笑顔がこぼれるようなお酒。死ぬまでにそんな酒が造りたいんですよ。

  

▲麒麟山酒造のある新潟県東蒲原郡阿賀町の豊かな自然

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甘くてフルーティな日本酒が流行る世の中で、そういった流行に乗ろうと考えたことは一度もなかったと語った長谷川さん。その理由を聞くと、「今まで麒麟山の辛口が好きで飲んでくれているお客様に対して失礼ですから。麒麟山を愛して飲んでくれている人がいるかぎり、淡麗辛口の食中酒を造り続けます」との誠意ある答え。

毎日飲みたくなる淡麗辛口の日本酒を造り続ける麒麟山酒造。これからの食欲の秋に、ぜひ旬の食材と合わせて麒麟山を飲んでみてはいかがでしょうか。

 

・麒麟山酒造の公式HPはこちら