柏レイソル戦で今季初ゴールを決めた齋藤学【写真:Getty Images】

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「勝てなかったことのほうが僕的には大きい」

 横浜F・マリノスのMF齋藤学が、出場24試合目にして待望の今シーズン初ゴールをあげた。柏レイソルを日産スタジアムに迎えた、16日の柏レイソルとの明治安田生命J1リーグ第26節の前半9分に鮮やかなミドルシュートを一閃。レイソルとの上位対決は無念の引き分けに終わり、残り8試合で首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差は10ポイントに広がったが、今シーズンからキャプテンと「10番」を引き継いだ27歳のエースはファイティングポーズを失っていない。(取材・文:藤江直人)

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 喜びよりも悔しさ。安ど感よりも後悔の念。遅まきながら今シーズンの初ゴールを決めた、柏レイソル戦後の取材エリア。横浜F・マリノスのキャプテン、MF齋藤学は破顔一笑とはならなかった。

「点を取れたことはよかったですけど、勝てなかったことのほうが僕的には大きいので……」

 脳裏には1‐1のままアディショナルに突入していた、後半49分に訪れたビッグチャンスが何度も浮かんでは消えていた。決めていれば勝てた。だからこそ、ややネガティブな思いのほうが上回る。

 ハーフウェイラインをちょっと越えた右サイドで、パスを受けたMFマルティノスが一瞬のタメを作る。このとき、レイソルの最終ライン全体が右側にスライドした隙を齋藤は見逃さなかった。

 後半途中から右サイドバックにシフトしていた伊東純也の左側には、大きなスペースが広がっている。タイミングを見計らって飛び出すと、あうんの呼吸でマルティノスからスルーパスが送られてきた。

「でも、オフサイドかなと思って。一瞬だけど、もうひとつ(飛び出すのを)遅らせようと。そうしたら伊東純也の足がちょっと速いから。伊東純也の前へ出よう、と思った瞬間だったんですよ」

 視界に入っていたのは、懸命に追いすがってくる伊東だけ。50メートルを5秒8で走破する伊東のスピードに気を取られている分だけ、日本代表GK中村航輔が飛び出してきていることがわからなかった。

 最終的な攻防はゴールエリアのあたり。中村はそこから前に出ず、腰を落とし、齋藤がどんな動きをしても反応できる体勢を整えている。右側に迫る伊東を避けるように、齋藤が左へコースを切った直後だった。

 中村も左へ反応し、長いリーチを目いっぱい伸ばして齋藤の行く手を阻む。ボールは中村の体に当たって弾き返され、こぼれ球もしっかりとキャッチされた。千載一遇のチャンスが潰えた瞬間だった。

「キーパーが前に出てきているのが見えていなくて。(シュートを打つには)ちょっと距離が遠いかな、と思っていたんですよね。そこは僕の力不足。決定的なチャンスがあったのに、そこで仕留められる力がまだない。鹿島にはあるもので、僕たちにはまだ足りないものだと思っています」

ゴール後、両手で作った「F」の指文字

 日本列島を縦断した台風18号の影響で、強い雨に打たれ続けた16日の明治安田生命J1リーグ第26節。雨脚を切り裂く放物線をかけて先制点を突き刺し、開始早々の前半9分に試合を動かしたのも齋藤だった。

 センターバックのパク・ジョンスから、左タッチライン際に陣取っていた左サイドバックの山中亮輔にパスが入る。このとき、間近にいたMF天野純へ、右サイドバックの小池龍太が猛然と詰めよってきた。

「ウチの左サイドはけっこう研究されてきていて、後ろのスペースを空けてくれないチームが多い。けど、柏とかどんどん前からプレスにくるチームは、サイドバックとセンターバックの間が空いてくるので」

 天野が予想していた通りの状況がマリノスの左サイド、レイソルにとっては右サイドに生まれる。司令塔の天野にボールが預けられると小池は先読みし、素早くアプローチをかけたのだろう。

 必然的に左タッチライン沿いには、大きなスペースが生まれる。山中がすかさず縦にドリブルを仕掛け、レイソルの右センターバック、中谷進之介がつり出されるかたちでマークについてくる。

 左サイドで山中と縦のコンビを組む齋藤が、中谷が本来守るべきスペースへフリーランニングをはじめた直後だった。山中のクロスを中谷が体勢を崩しながらも弾き返すと、こぼれ球が齋藤に当たった。

 しかも、ボールは齋藤の進行方向に転がっていく。左隅からペナルティーエリアへ入ったあたり。レイソルの選手は誰も反応できていない。背番号「10」は迷うことなく、思い切り右足を振り抜いた。

 ダイブしながら懸命に伸ばされた、中村の右手も届かない。緩やかなカーブの軌道を描いた一撃が、右側のサイドネットに突き刺さる。齋藤は両手で『F』の指文字を作りながら、喜びを爆発させた。

「先週に名前に『F』がつく、病気にかかっている男の子と会って約束をした。だから、テレビカメラを探して『F』と。その子の名前は出しちゃいけないけど、これくらいだったら大丈夫でしょう」

今季から主将に就任。中村俊輔の「10番」も引き継ぐ

 昨シーズンに自己最多の10ゴールをあげたエースが、出場24試合目にしてようやく決めた今シーズン初ゴール。誰もが待ち焦がれたシーンの訪れに、日産スタジアムのピッチには笑顔の輪ができあがった。

「本当に練習通りに入った感じだった。取れるときは絶対にくると思っていたけど、それにしてもいままでノーゴールだった選手が決めるようなゴールじゃないですよね」

 祝福に駆けつけてきた一人、右サイドバックとして6試合ぶりに先発した金井貢史も笑う。公私ともに仲のいい、ジュニアユースおよびユースのひとつ先輩は齋藤が努力を積み重ねる姿を見守ってきた。

「どこかに点を取れない焦りというか、悩んでいる部分があったはずだし、だからこそ居残ってシュート練習をずっとしていたと思う」

 その日のコンディションにもよるが、15分から20分ほどグラウンドに残ってシュートを打ち続ける。数あるパターンのひとつがレイソル戦で決めた、左45度から巻くような軌道を描かせる一撃だった。

 オフにはヨーロッパへの移籍を模索し、開幕前のキャンプには一時的に練習生として参加した。最終的には残留した過程で、小学生からひと筋で育ってきたマリノスに抱く愛を再確認できた。

 再契約の席で打診されたキャプテン就任を快諾。そのうえで、ジュビロ磐田に移籍したレジェンド、中村俊輔の象徴だった「10番」を引き継ぎたいと申し出た。自ら背負った重い使命を、しかし、金井は慮る。

「僕にとって(齋藤)学は学。キャプテンで『10番』を背負っているからといって、接し方が変わるわけでもない。アイツ自身が考えすぎているのならばよくないことなので、チームを背負いすぎないように、少しでも軽減できるようにサポートしていくのがいいかなと思ってきた。

 たとえば全体のシュート練習でアイツが決めたら、『やっと入ったね』と茶々を入れることが自分の役目というか。チームが勝っていたからいじることができたし、何よりもアイツのドリブルは相手も気にして、人数をかけてカバーするから他の選手へのマークが空く部分もあったから」

これまで今季ノーゴール。「内心では不安と戦う日々だった」

 思い出されるのは2月25日の開幕戦。先制点と決勝点を齋藤にアシストされ、2‐3の逆転負けを喫した浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ前監督は、試合後にこんな言葉を残している。

「マリノスに負けたというより、齋藤学選手に負けました」

 左サイドを主戦場として、相手が間合いを詰めれば高速ドリブルで置き去りにして、距離を取れば味方へのパスを含めて変幻自在な攻撃を仕掛ける。開幕直後は文字通り“無双”の存在だった。

 ゴールも時間の問題と誰もが思った。しかし、14戦連続無敗で上位に顔を出した夏場もゴールだけは遠かった。PKを止められた末に引き分けた、7月29日の清水エスパルス戦では思わず天を仰いだ。

「あまり携帯を触っていないんですよ」

 胸中に秘めてきた思いを、齋藤はレイソル戦後にふと漏らしている。携帯を開いてニュースなどを見れば「齋藤、依然としてノーゴール」などといった見出しが飛び込んでくるからだと自嘲気味に笑った。

「今年ノーゴールのままだったらどうしよう、という思いも少なからずあった。内心では不安と戦う日々だったし、今日のゴールよりも簡単なシュートがいままで何本もあった。これで解決するわけじゃないけれども、ここから乗っていけるかどうかは僕にかかっていると思うので」

可能性がある限り。真価を問われる終盤戦の戦い

 無得点という呪縛から解放された27歳のキャプテンは、すすんで新たなプレッシャーを背負う。終了間際の後半43分に痛恨の同点ゴールを決められ、自らがあげた虎の子の1点を守り切れなかった。

 MF喜田拓也がMFキム・ボギョンに与えたチャージがファウルと判定され、直接フリーキックをFWクリスティアーノに叩き込まれた。判定に異議を唱えた齋藤と喜田が、ともに警告を受けてもいる。

「もったいなかったけど、僕らも真剣だから文句が出ちゃう。残り8試合を全部勝ってもまだわからないけど、ここであきらめることは簡単なので。みんなで一致団結して、上に食らいついていくぞ、という気持ちを日々の練習から出していければ、このチームはもっとよくなるから」

 順位は5位のままだが、首位・鹿島アントラーズとの勝ち点差は10ポイントに開いた。ただ、アントラーズとの直接対決をまだ残している。可能性がある限り、ファイティングポーズを取り続ける。

「今日も2点目を取れたし、チームを勝たせるゴールを決めないといけない選手だから。だからこそ惜しかったでは済まされないし、それはアイツ自身が誰よりもわかっていると思うから。あえて僕が何かを言う必要もないし、学とともにチームも成長して、もっと強くなっていきたい」

 決意を新たにする盟友の胸中に金井も思いをはせ、厳しい言葉も残す。真価を問われる終盤戦の戦いへ。「不安」の二文字から解き放たれたエースが、トリコロール軍団に最後の鞭を入れる。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人