今夏にモナコからパリSGへ約230億円で移籍した18歳の怪童。名前の正しい読み方とは?(C)Getty Images

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 プロデビューから1年半のたった18歳にして市場価格がグングン伸び、今夏にモナコからパリSGに1億8000万ユーロ(約230億円/支払いは来夏)で驚愕の移籍を果たしたキリアン・エムバペ。「MBAPPE」の表記を巡って日本では「エムバぺ」、「ムバッペ」、「ムバペ」、「エンバぺ」、「ンバペ」、「ンバッペ」、「バぺ」と様々な呼び方が飛び交っている。
 
 はたしてどれが本当なのか? その真相を突き止めてみることにした。
 
 まず、フランス紙『レキップ』の看板ジャーナリスト、ヴァンサン・デュリュック氏に質問してみると、こんな答えが返ってきた。
 
「フランス語では『エムバペ』だよ。エムビア、エムビラなどと同じさ。M(エム)の発音をそのまま出すんだ」
 
 ただし、こう言うときのフランス語は、日本語で「エ・ム・バ・ペ」と4つの音節を区切って発音できるのとは異なり、「エム・バ・ペ」と3つの音節になる。
 
 例えば、日本語で「進む」と言うときの「む」は、子音Mの後ろに母音Uを伴う音だが、ここで言うフランス語の「ム」はMの子音だけ。したがって「エムバペ」と「エンバペ」の中間のような発音になる。
 
 ただデュリュック氏は、「確かに面白い質問だ。というのも、かつてリヨンに『エヌゴッティ(N'Gotty)』という選手がいたが、サポーターは『ンゴッティ』と呼んでいたんだ。アフリカ独特の呼び方があるのかもしれない。そのあたりはアフリカの専門家に聞いた方がいいだろう」とも助言してくれた。
 
 そこで、パリのお洒落な観光地サンジェルマン・デ・プレで働くセネガル人料理人に声を掛けて質問してみた。すると「アフリカでは、苗字の最初につくMやNは、みんなンになるんだ。つまり、ンバペだ」との回答。しかも「カメルーンでは、ンバペは鳥を捕る人たちのことだと思うが、そこは断言しきれないな」とも言っていた。
 
 これを聞いた私は、「え〜っ、鳥を捕る人?」と思わず叫んでしまった。まるで『銀河鉄道の夜』みたいな話である。結果、「鳥」はともかく、もう少し調査することにした。最適任者はあの人しかいない!
 電話番号をプッシュすると、すぐに「お〜、ボンジュール、マリ〜」と、懐かしい声が響いてきた。モナコでチャンピオンズ・リーグ(CL)ファイナリストに輝いた2004年当時から長く広報を務め、現在は副チームマネージャーとして活躍している、ピエールジョことピエール=ジョゼフ・ガドー氏である。
 
 ガドー氏は当然ながら、怪童エムバペのプロ・デビューに立ち会い、その後の大ブレイク、リーグ・アン優勝&CLベスト4という煌びやかな冒険を連日一緒に生きた人。しかも自身もアフリカのコートジボワールがルーツだ。
 
 そのガドー氏は、「日本人が呼び方を正確にしようというのは、本当にリスペクトに溢れているねえ」と優しく応じてから、きっぱりこう言った。
 
「フランス語では、口を開いてエと言ってからムと閉じてすぐバペと続ける。対してアフリカでは、口を最初から閉じたままンと言い、バペと続ける。つまりフランス語ではエムバペ、アフリカ読みならンバペなんだよ」
 
 だが「バペ」については、トーンを上げて否定した。「バペは間違いだ! アフリカでエヌゴロ・カンテをゴロ・カンテと言ったら誰もわからない。みんな首を傾げるよ」
 
 フランスでは試合中継や討論の最中に、「エムバペ」を主に使いながらも時折「バペ!」と叫ぶことがあるが、これはあくまでも“ちょっとカッコいい略”にすぎないようだ。
 
 また、「バッペ」とつまることもないそうだ。これは単純に、英語読みを当てはめたものだろう。フランス語では、子音が2つ並んでも自動的に「ッ」にはならない。たとえば、今夏にリヨンからバイエルンへ旅立った「TOLISSO」も「トリッソ」ではなく「トリソ」。イタリア人だが、「BALOTELLI」もフランス語読みでは「バロテリ」だ。音によってはつまることもあるが、基本的にはほとんどつまらない。