宇野昌磨【写真:giacomello foto】

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ロンバルディア杯、らしさ溢れた言葉の数々…「試合が好き」「頑張る時間が好き」

 言葉はアスリートの姿を映し出すと言われる。そういう意味では、この19歳が紡ぎ出す言葉はなんとも魅力的で、惹き込まれる。男子フィギュアスケートの宇野昌磨(中京大)のことだ。

 先週末に行われたロンバルディア杯(イタリア・ベルガモ)で見事に優勝。今季初戦で最高の滑り出しを見せ、運命の平昌五輪シーズンが幕を開けた。しかし、演技と同じくらい輝いていたのは、宇野の口からこぼれた言葉の数々だった。

 宇野といえば、飾らず、気取らず、自然体でありながら、かといって他の選手とはどこか違う、フレーズが飛び出す。今大会でもファンの話題を呼んだ“昌磨語録”をいくつか振り返る。

「僕は試合というものが好き。試合に向けて頑張る時間もすごく好き」

「ちょっと、今から楽になるなって思ってます、勝手に」

 ともに、前日練習後のコメントだ。前者は今季初戦を迎え、待ち切れない胸中を吐露。また、努力家らしさを感じさせる言葉でもある。一方、後者はオフに練習漬けの日々がいかに充実していたかを表現。なんとも宇野らしい言葉だ。そして、見事に優勝を決めたフリー後はさらに、フレーズの輝きが際立っていた。

「なんでかよくわかんないけど、跳べる」「わーとか思いながら跳んだら、跳べた」

「なんでかよくわかんないけど、跳べるって感じ」

「『僕が笑顔になったら、すっごくキツいってこと』と言っていた」

「わーとか思いながら跳んだら思いのほか、なんとか跳べた」

 1番目は不安を感じていたジャンプが決まったことを率直に表現。2番目は最後のジャンプを跳んだ後に笑顔を見せた理由が、体力的に苦しくなったら笑顔になることを事前にコーチに伝えていたと告白。3番目はそんな状態で跳びながら成功したことについて振り返っている。

 どれも、どこか心に残ってしまう、微笑ましい言葉の数々。飾らなくとも、印象深いフレーズが宇野が多くのファンに愛される理由に一つになっているのだろう。ただ、言葉だけを切り取れば“天然”にも見られかねないが、この男、そんなことは決してない。

 宇野の言葉には、不思議さの裏に客観性も見て取れる。

勝っても結果だけにとらわれない冷静さ…“ギャップ”で「愛される強い選手」に

「つい2年前に世界選手権で、たくさん悔しい思いをした時、すごく練習してすごく調子が良くて、もう何も申し分ない、何もやることがない、というくらいやってきて、最後できなかった。今回はその時を比べると、全然いい練習ができてない。全然頑張れてない。努力の頻度がかなり違う状態でも、いい演技ができたというのは試合への気持ちの持っていき方が大事なのかなと改めて認識できた」

「何かが正解とは考えていなくて、とりあえず自分の気持ちを尊重して、いいと思うことをやる。やりたいと思うことをやる。その時の気持ちを無駄にしないように。集中してないなら、無理に集中させようじゃなくて、楽しもうと思っていたり、楽しめそうじゃなかったら、真剣にやるとか。本当にその時々かなと。ただ、一番変わらないのは、思いっきりやる、攻める、という気持ちかなと思った」

 大会後、優勝という最高の結果を得ながら、結果だけにとらわれるのではなく、過程を冷静に分析。自分をもう一人の自分で見ているかのように、思考を巡らせている。これが成長の土台となり、不思議さとの“ギャップ”によって、宇野を「愛される選手」から「愛される強い選手」に引き上げているのだろう。

 羽生結弦に続く世界歴代2位の高得点で優勝した19歳。銀盤を舞う演技とともに、どんな言葉でファンを魅了してくれるのか。平昌五輪でメダルが期待されるシーズン。宇野が放つフレーズにも注目だ。