バルセロナ戦でスーパーゴールを決めた柴崎岳【写真:Getty Images】

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何も起こらなそうなボールから生まれたゴラッソ

 16日、ラ・リーガ第4節が行われ柴崎岳の所属するヘタフェはバルセロナとの一戦を迎えた。柴崎は前半39分にまさしくゴラッソと言えるスーパーボレー弾でバルサ相手にリーガ1部初ゴールを記録。後半の序盤に負傷で途中交代となったものの、リーガの歴史に名を残すとともにヘタフェサポーターの心を掴んだ。すでにチームのアイドルの一人として認められている。(取材・文:ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ【ヘタフェ/アス】、翻訳:フットボールチャンネル編集部、協力:江間慎一郎)

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 時刻は午後5時になろうとしていた。メッシを擁するバルサをホームに迎え、ヘタフェが久々に自分たちを大きく感じられた心地の良い午後だった。

 前半39分、一見したところ何も起こらなさそうなボールに対し、柴崎岳の頭脳が咄嗟に導き出した考えをその左足が完璧に実行に移す。正確なボレーからのゴラッソ。歴史に残る1点だった。

 データの上では、バルサとレアル・マドリーの両チームからゴールを奪った史上初めての日本人選手として。ヘタフェのサポーターにとっては、強大な相手に歯向かう醍醐味を久々に感じさせてくれたゴールとして。

 バルサへの恐れを抱きつつ本拠地コリセウムを訪れていた満員のファンは、結果に落胆しての帰宅を強いられることになったが、言葉にならない誇りも同時に感じていた。

 慎ましい選手たちの奮闘と、柴崎の強烈な一撃により、バルサのスター選手たちをかなりの時間抑え込むことができていたからだ。

 セグンダで過ごした1年間を経て、ヘタフェは再びエリートの仲間入りを果たし、スタジアムを埋めた1万6千人のファンは素晴らしい雰囲気を生み出していた。初めて観戦に訪れた者もいるとしても、誰もが旧知の仲であるかのように感じられる。コリセウムはそういう場所だ。

 ヘタフェのサポーターというのは、本拠地の町の中でも珍しいタイプの人間であることから説明しなければならない。マドリードからわずか15kmに位置するこの界隈では、大部分の住人はレアル・マドリーとアトレティコのファンに二分される。

 青いユニフォームでスタジアムを埋める者たちは、いつも得られるわけではない勝利を越えたところにある別の誇りを感じて生きている。彼らにとってガクは、加入からわずか2ヶ月で、愛される戦士の一人となった。小柄で控えめで脆さも感じさせるが、大きな才能と適応力と、ファンに好かれる部分を持った選手だ。

負傷の瞬間に魔法は解けてしまった

 バルセロナとの試合には、2つの注目すべき瞬間があった。得点と負傷というコインの裏表だ。ゴールを決めた時には観客席も彼とともに喜び、新たなアイドルの誕生を祝った。

 だが負傷した柴崎がピッチを去ることになると、小さなクラブを応援する厳しさを痛感させられた。痛みを分かち合うかのように誰もが自分の左足に手を添えたが、ピッチを出た彼が戻ってくることはなかった。

 ヘタフェが1-0でリードした状況で、柴崎の栄光の時間は終わりを告げた。試合を終えたチームメートたちがロッカールームに戻るまでに状況は一変し、バルサは柴崎のいないヘタフェを逆転していた。バルサの力を考えれば、いずれにしてもそうなっていたかもしれない。だが54分のあの瞬間に魔法が解けてしまったことは間違いない。

 ピッチに立っている間、柴崎は相手のゴールへ向かう以上に後方へと走ることを強いられたが、その役割を謙虚に果たしていた。

 ポジション的に対峙することになった相手はセルヒオ・ブスケッツ。大柄でハードで嫌な相手だ。スペイン代表の成功に欠かせない存在であり、技術も強さもバランスも兼ね備えている。

 彼と1対1では勝負できなかった柴崎は、2度の空中戦に敗れたあと、ヘタフェがボールを持った際には両サイドへ逃げたり相手の裏のスペースを探したりすることを選んだ。ブスケッツよりも速く動き、うまく長所を出していた。

 よく走っていたが、得点の場面のように、他の選手たちが走る場面で我慢して自分の場所を探すこともあった。ラインの間の密集の少ない場所を求め、素早い思考でゲームを理解していた。

 柴崎は新たなスターとして頭角を現しつつあるが、このヘタフェは全員が苦しみながらも奮闘するチームだ。だからこそ彼もうまく順応することができた。極上のゴールをもたらしたプレーを除けば、バルサ戦では攻撃面でそれほど強く目を引いたわけではない。右サイドから良いカウンターを繰り出した場面があり、あとはその姿を常に確認できたくらいだ。

復帰後にこれまで以上の貢献ができる部分を考えておくべき

 ボールを持った際の活躍を過度に強調する必要はない。中小チームがバルサと戦う時、ボールを持つのはやはり常にバルサの方だからだ。

 コリセウムの観客に向けて柴崎が改めて力をアピールできたのは2回のボール奪取だった。そのうち1回は、リーガのどのスタジアムへ行っても最も称賛されるスペイン人選手の一人であるイニエスタに対してのものだった。

 そういった守備のプレーに対し、「ウチのスター選手たちはこの世の存在なんだ」とサポーターは叫んでいるかのようだった。メッシがピッチ上を歩いている(彼にはそれでも価値がある)一方で、柴崎は必死に汗をかき、バルサのオーケストラが何本もの精密なパスを繋いで空けていく穴を全て塞ごうとしていた。

 負傷してしまったのは残念だった。ホセ・ボルダラス監督が規律の取れた軍隊へと変貌させたチームの中で、柴崎はスペイン語を十分に理解できなくとも、サッカーという言語と監督の言葉を理解できている。

 チームへの適応は驚くほどに速く順調だった。突然のブレーキを強いられることになったが、外側からチームを見つめ、復帰後にこれまで以上の貢献ができる部分を考えておくべきだろう。会長は離脱が1ヶ月半にわたるだろうとこぼしており、先週末の試合でコリセウムを埋めた観客たちは、次の試合を迎える前から早くも彼の不在を惜しんでいる。

 このチームで過ごした短い時間で柴崎は、周囲のあらゆる疑念を打ち消すことができた。ガクはすでにヘタフェの一員であり、小さな体で戦士として戦っている。

 優れた選手であることはすでに分かっていたが、土曜日のゴールは別物だった。歴史に残る傑作品だ。そこから全てが捻じ曲げられ、幸せな結末を迎えられなかったのは残念だが、小さなチームの厳しい生き様はやはりそういうものだ。

(取材・文:ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ【ヘタフェ/アス】、翻訳:フットボールチャンネル編集部、協力:江間慎一郎)

text by ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ